スウィングしなけりゃ意味がない
サルメカンパニー
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2023/05/18 (木) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
成功した音楽劇は舞台の上も、観客も芝居ならではの幸福感に包まれる。
しかし、音楽を演劇の中で昇華するのは難しい。そこへ挑戦しているカンパニーというので、内容も確かめずに観にいった。
劇団の意図は十分に評価する。しかしこれでは、心意気だけである。
基本的なことが行き届いていない。
一つ。音楽と演劇と言いながら、「音楽」ないしは「音楽監督」のクレジットが見当たらない、曲名はタイトルにあるがその由来もつまびらかでない。演出者がまとめたというのならそう表記してその責を担わなければ。既成曲も使っているが選曲の意味がわからない。歌っているのは英語歌詞によるものがあるが、この事件が政治的には英露の綱引きにも関連しているので、ここは明確でないと作品の意図が伝わらない。
二つ。企画。今テロのドラマをやる意味はなくはない。しかし何で、チェコスロバキアのナチ高官の暗殺事件なのだろう。この事件は私はたまたま80年代にプラハで仕事をする機会があり、そこで詳しく知ることになったが、一般の人にとっては知らない事件だろう。
(ほんのちょっと触れられているがこの事件の背景には複雑な英露関係がある)本は、壁の崩壊後、映画にもなった事件経過を忠実に追っているが、登場人物たちの葛藤は「正義の人々」以来この種のテロもので扱われた以上のものがない。なぜ、身近な日本の素材でやらないのか。歴史をひもとけば同様な素材はいくらでもある。
三つ。脚本と演出。ステージングは要領を得ていてこれはこれで出来ているが、同じようなシーンが続いて、同じスポット照明の暗い場面が続いて疲れる。俳優たちの個々のキャラをたて観客を楽しませる工夫がない。台詞も言い始める前に気分を決めておいて一気に言っておしまい、という台詞術しかないので単調になってシーンの中の感情が盛り上がらない。せっかく大劇団の中堅俳優を客演に呼んでいるのだから、この際徹底的に台詞を学び直さなければシーンが膨らまない。事実以上に舞台が感情を持たない。
半世紀ほど前にオンシアター自由劇場が、この道を探って「上海バンスキング」という傑作を生んだ。フォーリーズにも「洪水の前」という傑作がある。前者には越部信義、後者にはいずみたくという現場に合わせて音楽を作れる優れた作曲家がいた。その後ダンスが現代演劇に取り入れられるようになって今の音楽劇はここも強化しなければならない。音楽劇は、一層さまざまな才能を発揮させる総合演出が重要になっている。
このジャンルが難しいことは承知の上で、劇団の奮闘を期待したい。いまはもうがっきをあつかえるはいゆうはいくらでも居る。
Wの非劇
劇団チャリT企画
駅前劇場(東京都)
2023/05/17 (水) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/19 (金) 15:00
一体どのタイミングで企画してホン書いたのだろう?と思わせるタイムリーさ。
昨日今日のワイドショーを見るようなこのリアルタイム感はどうだ!
”ふざけた社会派”ラストのオチの見事さに拍手!
Wの非劇
劇団チャリT企画
駅前劇場(東京都)
2023/05/17 (水) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
走れメロス
東京演劇アンサンブル
新座市民会館(埼玉県)
2023/05/19 (金) ~ 2023/05/20 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/05/19 (金) 19:00
座席1階
新座市民会館の舞台と客席をフルに使った体育会系舞台。メロス役の俳優はかなり引き締まった身体をしていたが、この舞台を成し遂げるためのけいこがどんな具合であったかは容易に想像がつく。ワンステージ演じるだけで俳優陣は4~5㌔は体重が減るだろう。物語は教科書にも出てくるほど有名なだけに、これをどう見せるかに心を砕いた舞台だった。
メロスが人質になっている友人のために戻ってくるまでに遭遇する数々の困難。これをダンスと効果音、光でうまく演出した。メロスほどではないが、これらのダンスチームの俳優陣の体力消耗度もかなりのものだ。オジサンはただ、あきれて物が言えない状態に追い込まれてしまった。
こうした演出も、いかに地元の子どもたちを喜ばせるかと工夫されたものだろう。東京から新座に移ってきたTEEが、将来を見据えて出血サービスで上演している舞台であると思った。
Wの非劇
劇団チャリT企画
駅前劇場(東京都)
2023/05/17 (水) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/19 (金) 15:00
座席1階
今作はチャリT企画の作品でも間違いなくトップレベルに入る面白さだ。茶化した時事ネタが向こうから歩み寄ってきたというか、時代が味方したというか、実にタイムリー。舞台となる「芸能事務所」(どこかはお分かりですね)の性暴力被害だけでなく、チャットGPTとか今話題になっている時事ネタを徹底的に小道具化。笑わずにはいられない。笑いすぎて涙が出てきた。
開幕前に会場に流れる音楽は、よく聞くと薬師丸ひろ子のオンパレードだ。タイトルが「Wの悲劇」だから? ん?よく見ると「悲」劇ではなく「非」劇だ。その理由は舞台上で明かされるのだが、薬師丸ひろ子とタイトルの関係も劇中で種明かしされる。ここが最大の爆笑ポイントか。昭和に歌謡曲を聴いたり映画を見た人たちのツボを直撃する。
しかし、やはり何と言ってもラストシーンか。この替え歌は秀逸だ。秀逸すぎてもうどうしようもない。チャリTの本領発揮とも言えるこのステージを、見逃してはならない。これだけ時事ネタを笑い飛ばしてこのチケット代は安い!
被害者か加害者か。世の中の事件は、見方によって180度転換することがあるのだが、一面的な思考を警告している舞台でもある。ついでにいうと、ダンスも切れがあってよかった。
ほんと、見ないと損するぞ。
アクターズハイ
LUCKUP
劇場MOMO(東京都)
2023/05/10 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/11 (木) 19:00
座席1階D列
演者の皆さんの一生懸命さが伝わってきました。
演技もそうですが皆さん声もとても良い!
「なんもできない」「チキン南蛮の夜」
くによし組
OFF OFFシアター(東京都)
2023/05/16 (火) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
「4…」
四分乃参企画
JOY JOY THEATRE(東京都)
2023/05/18 (木) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
原作はつかこうへい、今作の脚本・演出は劇団四分ノ三の清水みき枝さん。部長刑事役に鈴木克彦氏、婦人警官役に谷菜々恵さん、速水刑事役に山城直人氏そして容疑者・大山役に斉名高志氏の4名。ご存知の方もいらっしゃるであろうが社会人劇団ThreeQuarterは2024年12月を以て解散が決まっている。今回の公演はカウントダウン公演の4。
「なんもできない」「チキン南蛮の夜」
くによし組
OFF OFFシアター(東京都)
2023/05/16 (火) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/18 (木) 19:30
『なんもできない』を観た。すごく深く重い内容をポップに演じる。観るべし!観るべし!観るべし!74分。
何かを掘ってる男たちが抱える様々な問題が徐々に明らかになって驚く作品だった。明確には言わずにセリフから背景を察することができる脚本が見事だ。社会問題への関心があるのかとも思わせ、以前観た『人人』とも通じる所があるように思った。私が知る限りでは初の、男優だけの芝居というのも珍しいが、角のある人間、という、人間ではないモノが出てくる当たりは、いつものくによし組。
Wの非劇
劇団チャリT企画
駅前劇場(東京都)
2023/05/17 (水) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/17 (水) 19:30
座席1階B列8番
まさに痛快エンターテインメント。
日本が抱えるタイムリーな社会問題を忖度無しでテンポよく描いており、「ふざけた社会派」を標榜する劇団チャリT企画の面目躍如のお芝居です。
皆さん是非劇場に足を運びましょう。
空に菜の花、地に鉞
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2023/05/02 (火) ~ 2023/05/05 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
工藤良平を久々に拝めた。彼の「身体」をフル活用。畑澤氏が重いテーマを軽々と扱う「遊び」の勝った舞台で、音喜多咲子、山上由美子ら常連に新顔の頑張ってる俳優も多数(人材には苦労しない?)。
「北のあの方」の命を受け、青森の核再処理施設に潜入した青年の前に、このお方が現われる。「わが国の科学の粋を結集した」脳内図像伝送技術?によって工藤良平演じる北の方は頻出する。核処理施設の安全をPRする展示館のマスコットガールに恋をした青年。そこにも現われ「惚れたな」と突っ込むお方。
核物質が集められ、頭上をミサイルが飛び、三沢基地も抱える当地からの舞台は恋と使命に引き裂かれる青年の物語を縦軸に、どこまでも軽妙に進む。「翔べ、原子力ロボむつ」を思い出す。
人魂を届けに
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2023/05/16 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
奇想天外なストーリーで観る者を驚かせ引き込んでしまう劇団だが、今回は、奇想天外というよりは内面的・象徴的で静かな雰囲気が素晴らしい。ただし、笑いをとってくるのはいつもと変わりない。篠井さんの抑制のきいた演技も印象的。
エンジェルス・イン・アメリカ【兵庫公演中止】
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2023/04/18 (火) ~ 2023/05/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
前半に第一部、第二部を観た。コンディションに恵まれなかった第一部はもう一度観たいな。
以前読んだ戯曲に関する本に、「叙事詩劇」の優れた作品と紹介されていた。題名は覚えておらず、作者名を見てハッと思い出し、レビューにも背中を押され観劇。上記の本を後で読み返して見ると、さほど字数は割かれず、書いてある事は作品を観た後ではピンと来なかった(戯曲がどう優れているかの説明が晦渋)。
しかし一部、二部それぞれ3時間を超えるこの大作が、20世紀後半に書かれた代表的な作品と紹介されていても何ら異議はない。
「死に至る病」であるエイズを扱った作品と言えば「RENT」がよぎったが、この戯曲で扱われる出来事や事実、状況は全て俯瞰され、対象化され、人生や世界を構成する一要素に過ぎないように見えて来る。登場する天使や天界の博士たち、自分たちの先祖に当る人物らが織りなす不可思議の絵は、苦悩する登場人物の内的世界を象徴するかに見え、同時に世界そのものの視野に導く。詩的な台詞がこの構図にずっしりとした中身を与える。(あんこたっぷりな鯛焼き、でも甘さ控えめサッパリで重くない。)
休憩二回で殆ど疲れさせない面白さ。作品の魅力などうまく説明できない。トニー賞とピューリッツァ賞を獲った作品なだけはある、と書いて済ませるが早いかも知れぬ。
「ダイハツ アレグリア-新たなる光-」日本公演
CIRQUE DU SOLEIL
お台場ビッグトップ(東京都)
2023/02/08 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
アレグリア、寒かったです!!前回行った時(3月)はまだこちらも冬の装いだったのでそんなに気にならなかったのですが、今回はもう夏の陽気。一応用心して長袖Tシャツに薄手の上着、冬のストールまで持っていったのですが、それでも寒くて思わずスタッフさんになんとかなりませんかと訴えたところ「演者さんが汗で滑らないように気温を低くしていますので気温は上げることはできません」とのこと。仕方ないかと思いましたが、第2幕が始まると、本当に仕方ないのねーと言う気分になりました。「エアリアル・ストラップ」持ち手のついたロープ1本で男女が空中を舞い、時には自分のロープを離して相手と手を繋ぐ。その手ひとつで宙に浮くのですから万が一にも滑ったりしてはいけないのです。2人の繋ぐ手に全てがかかっている、その信頼に胸が熱くなる私でした(でも寒いの・笑)
コロナ規制が緩和されたからでしょうか。前回とは演出が変わっていて、演者が客席通路から登場というシーンもありました。
いつもは一人で行っていましたが、次回は妹と行くのでまた違った見方ができるかと楽しみです。暖かい服持ってくるように言わなければです。
金閣炎上
劇団青年座
紀伊國屋ホール(東京都)
2023/05/12 (金) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★
期待が大きすぎたのか、私には物語が難解でした。良さが全く分かりませんでした。 全ての俳優の演技が素晴らしかっただけに残念。
舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド
Bunkamura
THEATER MILANO-Za(東京都)
2023/05/06 (土) ~ 2023/05/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★
せっかくの大劇場のこけら落としに、こんなことは言いたくないが、これは考えすぎである。
マンガに、テレビに、劇場映画にとさまざまなクリエーターの手で育てられてきたエヴァンゲリオンだが、芯となるものは、単純なファンタジーである。劇場お向かいの映画館の上に君臨するゴジラと同じで、難しく考えすぎると失敗する。
ゴジラもかなり日本的キャラクターだが、ウルトラマンに始まる巨大戦体人間と、子供を絡ませたヒーローアクションものも、我が国で独自に発展したジャンルで、海を渡ると理解されにくい。子供だけが操れる科学の粋を尽くした人間型兵器、なんてファンタジーに決まっている、というのが日本なら、そんなナンセンスな、と言う常識派が海外である。当然その後のドラマの組み方が違ってくる。
こけら落としというので呼ばれてきた著名な振付師であるジェルカウイも大いに悩んだに違いない。それは、構成台本とか上演脚本とか原作とか、さまざまな名称でクレジットに並べられている日本側の台本関係者の多さからも察しられる。結局舞台は誰かが統一しなければ出来ないから、最もギャラの多い(推察だが)ジェルカウイが八方、取り入れられるものは取り入れて、自分で自信のあるダンスを軸にしてまとめてしまった、のがこの舞台である。95分の一幕と15分の休憩の後2幕50分、
ストーリーについては、舞台独自のものと断ってあるし、タイトルにもビヨンドとつけて、今までのエヴァンゲリオンものとは別物と強調しているが、それが、理に落ちて面白くもない。災害をもたらし、戦う相手の「使徒」が自然からの警告、だとか、ラストに舞台から木が育ってくるとか、もう飽きられているジブリ風のテーマの置き方が陳腐としか言いようがない。それでも通用する場所もあるだろうが、ここは新宿ど真ん中の最新鋭の劇場のこけら落としである。この良い子チャンぶりでは意気が上がらない。今までのエヴァンゲリオンには最新の兵器戦争もあるが、同時に、おかまいなしに父子関係に溺れるとか、同性に興味を持つ14歳の少年たちの生態を組み込むとか、傷ついた少女が忘れられないとか、子供がらみの(親になっても忘れられない経験にもとづく)経験がドラマに仕込んであって、ほとんどの作品がそこを中心に展開してきた。
従って、エヴァンゲリオンそのものの周囲の状況は行き当たりばったり(でもないだろうが)で、さまざまに展開されたエヴァンゲリオンの解釈本というのは三十種類もでているそうだ。
今回の舞台もその解釈のエピソードの一つと思えばいいのだろうが、それにしては得るところが少ない。
劇場は客席は4階までもあるが見た1階席は見やすく、音響も良い。時代を映して、映像処理も多彩である(しかし、劇場の映像マッピングはどうやっても映画にはかなわない。映画はドラマも映像に取り込めるからである。舞台機構も良さそうだが、今回はフルに活用、というわけでもなさそうだった。(むしろ昔からある、ハンギング(吊り)、舞台のスライディング、多様な幕などを使っている。圧倒するような装置はなく、それがこの作品のスケール感を乏しいものにしている。
良いところは、さすが一流の振付師と言うだけあってダンスをたてたシーンの演出は見事である。ことに、意味がよくわからないが、ハンギングで水中であるかのように見せる踊りは見事であった。
幕が開いてからほぼ20日、一階で八割ほどの入りは寂しいが、これに懲りず新しい劇場にふさわしい快作を観客は期待している。
人魂を届けに
イキウメ
シアタートラム(東京都)
2023/05/16 (火) ~ 2023/06/11 (日)公演終了
Kappa~中島敦の「わが西遊記」より~
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2023/05/17 (水) ~ 2023/05/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
中島敦の「悟浄出世」「悟浄歎異」を用いた、沙悟浄が主役というか、ひたすら苦悩する西遊記。相変わらず上手い作りで、岩波の文庫本あたりを読んでいるとより一層楽しめる。
「なんもできない」「チキン南蛮の夜」
くによし組
OFF OFFシアター(東京都)
2023/05/16 (火) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/05/17 (水) 19:30
『チキン南蛮の夜』を観た。最高傑作と思う作品がバージョンアップした。面白い。観るべし!観るべし!観るべし!(3分押し)64分。
2018年に上演された作品の再演で、初演も観ている。國吉の最高傑作だと思ってる作品。初演では私は笑っているだけだったが、本作では加奈子の抱える切なさが前面に出て、ちょっと悲しくなるような部分もある。小野寺ずるを起用したことが効果を持っているのだろうか。インコのピー助を演じた渋谷裕輝が大柄で、力関係がよく分からなくなるという効果もあるように思う。
星15くらい付けたい。2018年に上演されたときは、新御徒町の古民家カフェで、平日5ステージだけということで観られる人が限られていたと思うが、今回は劇場でまだまだやるので、是非とも多くの人に観て欲しい。
独り芝居『月夜のファウスト』/前芝居『阿呆劇・注文の多い地下室』
フライングシアター自由劇場
音楽実験室 新世界(東京都)
2023/05/13 (土) ~ 2023/05/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
懐かしい空間である。ここは上海バンスキングの初演の地として、今や歴史的存在でもあるが、自由劇場がコクーンへ大出世した後は、忘れ去られ捨て去られていたらしい。相変わらずの階上のガラス屋は健在だ。上海バンスキングはここでは見なかったが「赤目」は見た(記憶がある)と串田説(すべては個人の記憶しか残らない)に倣って言って見たくなる。
前半四十分・前芝居「阿呆劇・注文の多い地下室」は、この空間発見の時を素材にした、演劇発見の青春感懐。後半は芝居(メフィストレレス)に捕まってしまった自ら(ファウスト)の人生を回顧する一人語りである。こう言う作品は得てして自慢話になってしまって嫌みになるところだが、地下室に寝転がると天井に星空が見えたとか、悪魔と人間を分かつものは何だ?とか、嫌みになりそうなところが、良い気分で見られてしまう。こちらも、記憶の罠にはまっているのだが、そこを超えて楽しめるのが演劇である。
小劇場ブームのただ中で一風変わった劇団を率いて五十年近く、ほとんど路線も変えずに波乱の昭和演劇史に鮮やかな一ページを加えてきた演劇人の芯の強さに敬服する。それを、都会風な照れと、自負が支えている。テキストを売っていたので読んでみると、そこはよく作品に反映している。先頃横須賀まで行ってみた白鸚とは真逆の道で人生を演劇に捧げた演劇人の舞台であった。(確か二人は同年?)
五十人ほどの観客で満席。2時間20分。