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犬と独裁者

犬と独裁者

劇団印象-indian elephant-

駅前劇場(東京都)

2023/07/21 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。
劇団印象-indian elephant-鈴木アツト氏の脚本・演出で評伝劇を上演するのは5作目。その「国家と芸術家シリーズ」4作の評伝劇から次なる評伝劇のスタイルに挑んだのが、本作である。国家と芸術家シリーズは、主人公の生涯をその時代(状況)に重ね合わせた通史的な印象を持っていたが、本作は作家の生涯をその作品を通して時代を切り取ったスタイルにしており、一層 幅と深みを増した公演になっている。

本編に主人公である作家ミハイル・ブルガーコフの代表作を劇中劇のように取り入れていることから、如何にも芝居がかった演技になっている場面があり、本編の演技との関係では不自然・違和感を覚えるところがある。その調和というか調整に腐心したのではなかろうか。その意味では 同じロシア作家・アントン・チェーホフの「かもめ」や「三人姉妹」等であれば、自然とそれとなく分かり合点がいくところ。しかし 本作の魅力は、ミハイル・ブルガーコフの作品を通して、歴史に名を残したスターリン、それも独裁者としての国家観を描くという着想にある。それまでの評伝劇…芸術(作)家という個人の直接的な観点 ではなく、作(芸術)品という媒介を通して、より一層 作家と作品そして国家の関わりが鮮明に浮かび上がる、そんな重層さが魅力だ。さらに冷徹・客観的に国家観をみる、そんな観察眼のような印象を受ける。ちなみに<眼>と言えば、舞台美術が<眼>を思わせ、物語(内容)に対するセットの拘りを感じる。

ミハイル・ブルガーコフについては、当日パンフに ある程度詳しい紹介があり、より詳しくはWikipedia等ネット情報で。本作は、説明にもあるように「モスクワ芸術座からスターリン生誕60周年を記念した”スターリンの評伝劇”を書くように依頼される。その二年後、病気でこの世を去る。本作では、この晩年の二年間を描いている」とある。若かりし頃の内容は、彼の作品「犬の心臓」「巨匠とマルガリータ」という批判・風刺を用いて描いているよう。彼の生涯と作品が付かず離れず寄り添うように描かれ、その先に独裁者(国家)を見据えている。劇中 スターリンは登場しないが、演劇という虚構性をもって <詩>では民族を超えることができないが、<死>で国家建設を成し遂げる…そんな強く印象的な台詞を言わせる。まさに虚実綯交ぜの力作だ。

劇団印象-indian elephant(鈴木アツト氏)は、「国家と芸術家シリーズ」という硬質 骨太作品を上演する前は、別の劇作 例えば子供向けや私小説の戯曲化だったと記憶している。常に新たな試み 挑戦をしており、先にも記したが 本作も違ったスタイルの評伝劇を模索している。自分的には好感が持てる仕上がりになっており観応え十分だ。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし) 追記予定

Sign of the times

Sign of the times

オフィスプロジェクトM

Paperback Studio(東京都)

2023/07/27 (木) ~ 2023/07/31 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

面白い、お薦め。満席
Sign of the times…世相という意らしい。が、この世相は演劇・映画など芸能界をはじめ色々な所で問題になっていることを描く。今に始まったことではないが、それまで表沙汰にならなかっただけ。それを3人の作家による微妙にテイストが異なる3作品を3人の俳優が演じるという試み。総合演出・構成台本は丸尾聡 氏、ゆえに 別名「丸尾祭り」とも言うらしい。御年59歳で、来年60歳の還暦記念公演を、いやいや今できることは先延ばし しないという。

「3作家の3作品(短編)が連なり重なり合い、3人の俳優によって一つの物語へ」という触れ込みだが、寄木細工もしくはジグソーパズルのようにピタッと整合性があるように まとまるわけではない。それぞれの短編に描かれているコト、それが今の時勢であり、古き良き時代などという懐古的なコトとは一線を画す。特に「もらえるまで」(作・大西弘記 氏)は自虐ネタかなと思えるような。そして「量子探偵とフレーム密室」(小野寺邦彦 氏)はSF風だが、最近話題の「Chat GPT」を連想し、一つの物語を構成したのは などと愚にもつかない想像をしてしまう。

観方(視点)を変えると違った結論へ、そんな怖い面をも描いており強かな物語である。「背中をむける」(吉田康一 氏)では男女の恋愛、それも年齢の離れた師弟関係にある者が好意を抱いたらどうなるのか。当事者ではない者が介入することで恋愛問題が社会問題へ変転していくような怖さ。
視点といえば、この会場へは初めて行った。2022年オープンというから新しい。制作サイドから最寄り駅(千歳烏山駅)から会場迄の丁寧な道順メールを受信。会場は芦花公園駅とのほぼ中間点にあり、自分は新宿に近い芦花公園から歩いた。視点とは違うが、向かう方向が逆だと景色も異なる(当たり前の話)。世相も視点等が異なれば違った結果になるかも、そんな考えさせる内容だ。

作品間に休憩はなく、3俳優は 素早く着替え場転換をする。3俳優の役柄は ほぼ等身大の年齢で見た目の違和感はない。勿論 3作品で演じる役はまったく別の者であるが、淡々と情感溢れる演技に引き込まれる。同時に、比較的小さい会場ゆえの密接感、その至近距離が臨場感を漂わせる。よい会場での良い企画公演。
アフタートーク:吉田康一 氏。
(上演時間1時間45分 途中休憩なし。アフタートーク20分ほど)

ネタバレBOX

奥に目隠し用の衝立があるだけの基本 素舞台。上手 下手に演台等が置かれており、情景に応じて小道具を動かす。また 短編毎に衣裳替えを行う。

[背中をむける]
女子大生が思わせぶりな態度で教授に言い寄る。が、その妹が現れ姉が傷ついた、どう責任を取るつもりだと迫る。傍からみると<セクハラ>といった光景、しかし教授は真剣な愛の結果だと言い張る。男と女の関係は、例え 妹とは言え 第三者が関わることで情況が違って見えてくる。子弟という関係は、自由恋愛と言ったところで世間は納得しないような風潮か。

[もらえるまで]
劇作家は記憶喪失になる前は劇団員等に対し<パワハラ>を行っており、その仕返しに若い俳優に金属バットで殴られる。本当にパワハラを行っていたのなら謝りたいと言うが、記憶喪失(罪の意識がない)状態で謝っても真情ではない。良かれと思った演出が相手にとっては不愉快になる という難しさ。記憶が戻っても謝ることが出来るのか…。

[量子探偵とフレーム密室]
現実的な世相から一転 SF調へ。その量子AIは極めて現代的な話題の1つ。「Chat GPT」のようなAIが小説や戯曲を書くような、そんな夢物語のような時代になってきた。3つの短編は夢落ちのような結末だが、それぞれの話の中には現代の世相、それも苦々しい出来事である。今まで言うことが憚られるような、それが今になってようやく社会 組織の膿が…。

必ずしも心地良い世相ではなく、何方かと言えば芸能界(映画や演劇界含めた)内容で、不祥事を自虐的に描いているような。しかし、よくよく考えてみれば、観点というか立場の違いによって、真の恋愛がセクハラになり、熱心な指導がパワハラになる可能性が…。今 ギスギスとした不寛容な世の中(世相)になっているのか?
3短編を緊密に繋いでいるわけではなく、むしろ夫々の短編の持ち味を生かした総合演出、その緩く柔軟性あるところに全体としての妙味を感じる。
次回公演も楽しみにしております。
犬と独裁者

犬と独裁者

劇団印象-indian elephant-

駅前劇場(東京都)

2023/07/21 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

独裁者の作家の殺し方がリアルに納得できたなぁ と
横長の舞台中央に観音開きの扉付き本棚があり
左右中央等にテーブルや椅子などを配した舞台セットで
当時風のへアースタイルとか服飾で
干された作家と周囲の方々が
独裁国家内で織りなす話であります

2時間10分・・・長めっす
全席指定

ネタバレBOX

中央の本棚がファンタジー空間で
どこでもドアになってる風に
そこから若きスターリンが出てきたりするのは
とってもユニ~クで面白かった(^-^)

世に影響力のある作家の無力化方法が
リアルに進行表現されていたデス
亡命は許さず殺したりする事も無く
書くモノ書くモノ全てダメだしして監視を身近に付けて
やる気気力を削いでゆく手段がえぐいなぁ と

最初はスープを欲しがってるだけの
ロシア語もわからない原人みたいなスターリンが出てきて
だんだんと革命家になり
ついには現金輸送車両を襲う計画まで立てて実行するのだが
その襲撃芝居が演者さん達のりのりだった感じがしました
毛色の違った演出で力を入れてたなぁ~って

結局戯曲は完成せず
眼を病み主人公は病死とあいなるのだが
毒でも監視者に盛らせていたんじゃなかろうかとか思えたわ

とにもかくにも
中央部の本棚と舞台美術が強く印象に残ったのと
ナルニア的な感じでしたんでーファンタジー好きだしー
主人公が妙に とある芸能人に似てるなぁとも思えたデスな
ストレイト・ライン・クレイジー

ストレイト・ライン・クレイジー

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2023/07/14 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/07/24 (月) 19:00

久しぶりの燐光群、劇団の力をみせる公演だった。正しい、とはどういうことか。個人にとって、市民にとって、国にとっての正しさはそれぞれ違う。自分の正しさを主張し衝突し、ずれていく人々。動いていく時代。膨大な台詞の波に運ばれながら、人生の深みと混沌を感じさせる刺激的な演劇。見応えたっぷり。

これが戦争だ

これが戦争だ

劇団俳小

ザ・ポケット(東京都)

2023/07/22 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

インタビューを繰り返す形~というか
なぞってゆく感じかな
質問者や音声等の演出は無く
演者が自答する形で芝居がなされてゆくスタイルでした

う~ん見応えはあったなぁ~と感想

ネタバレBOX

合同作戦前の妙な高揚感ある戦場での話と
実際に合同作戦で起きた事
その後の顛末をインタビュー形式で
時間軸を前後しつつ
かつ
回答者らの視点での返答が再現劇=回想シーンにて
舞台上で表現されました

舞台セットは凹をひっくり返した
鉄板製の門のような形状のみで
表面には弾痕とか付いてる感じの簡素なセットでした
回答者は兵士さんらで
女性兵士と新兵と上官である軍曹さんと軍医さんのみです

女性兵士は先の軍事作戦で民間人の少女を射殺してしまったトラウマがあり
軍曹さんは国に残したカミサンが間男引きずり込んで離婚状態
そんで基地の女性兵士に手当たり次第に手を出して
性病もらいまくってます・・・・
新兵さんは女性兵士に気があるも軍曹と女性兵士の
おっせっせ現場を聞いてしまい自暴気味になり
軍医さんはマトモと思ってたらホモさんでしたが
まぁそれはそれですけど
凄いのは軍曹さんで~その軍医さんにも手を出す両刀さんでした・・・
役者さんの根性入り具合が凄いと思った=キスシーンあってねぇ

でタリバン掃討の合同軍事作戦で
新兵さんが玉と膀胱をやられて
負傷兵がいるんで俺たちは後方支援にまわると伝えると
現地軍さんは敵の塹壕出口を塞いで水攻めにして
敵を溺死させてしまいます
それが人道的にどうかとのインタビューが
メインでの隠されていた話でした
止められなかったのか~米軍は何をしていたとか~ですね

で後日現地で生活している方々から
戦地=水攻めされた塹壕で異臭がするし
コレラ等の感染症蔓延が怖いので何とかしてくれと
苦情が入り現状改善に向かった軍医の報告
気温50℃にもなる塹壕内で兵士だけでなく
民間人・・かなぁ少年兵の死体も多く見つかり
総数170体近くの死体を埋葬したと語り
話は閉じるのでした・・・・

教育の無い少年兵とかを自爆兵として
敵陣に突っ込ませるとかリアルなトラウマものの話があったが

自分ン聞いた話では
まっ裸の子供兵が銃だけ持って突撃してくるというのも
聞いた事あったデス・・そんで胴体に爆発物とか巻いてきてたら
どうしようもないですよね・・・
先頭車両の進行先ルートに赤子を置いておいて・・・・などという話も・・・
戦争は狂気だなぁと
つくづく思った舞台でありました

戦争繋がりで
広島原爆被害者さんの話の一つ
一面死体だらけで
足の踏み場が無いので
仕方なく死体を踏みつけて移動しなければならなかった方の
足が死体に沈み込んでゆく描写がリアルで怖かった
死体を踏むという人の尊厳の話
原爆で損壊した死体の柔らかい腹部等に沈み込む
生理的嫌悪感を伴う足の感触・・・
戦争は悲惨などという言葉では済まされないと
深く心に残った話でした
これが戦争だ

これが戦争だ

劇団俳小

ザ・ポケット(東京都)

2023/07/22 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

死が日常にある戦場を舞台にした、ひりひりするストレスともいえる緊張感のなかで劇は進行する。
ウクライナで戦争が行われている現在に、本当に考えさせる1時間40分でした。
そこには日本では経験されることのない、死に直結する毎日。。。
そこで繰り広げられる群像劇。
「これが戦争だ」という言葉を、重くかみしめました。

これが戦争だ

これが戦争だ

劇団俳小

ザ・ポケット(東京都)

2023/07/22 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

血気盛んな兵士3名と影のある雰囲気をまとった軍医1名
兵士の中に若い女性が1名いるものだから愛情と愛欲の入り混じった人間関係が生じてしまうのは当然と言えば当然の流れか
この部分だけを切り取ったなら かなり興味深い大人の物語として観てしまうところ、そういう訳にはいかない
そこは戦争の最前線なのだから

主に語り描かれるのはネックとなる二日間の出来事
それぞれの証言に嘘が無い証拠に、起こった事実こそ皆一致しているのだけれど、それぞれの目線から立った証言が積み重なっていくごとに現場で起こった事がより立体的に見えてくる
あまりにも惨い戦略の数々に居た堪れない気持ちになってしまうが、これが「戦争」なのだと真っ直ぐに考えるため必要な痛みだと思って大切に受け止めたい

真に迫る演技で鮮明な人物像が立ちあがっており、それ故に痛みがダイレクトに突き刺さってくる舞台でした

バナナの花は食べられる

バナナの花は食べられる

範宙遊泳

KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ(神奈川県)

2023/07/28 (金) ~ 2023/08/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/07/28 (金) 18:30

180分。休憩5分を含む。
開演時間によって休憩時間の変動がある模様。

犬と独裁者

犬と独裁者

劇団印象-indian elephant-

駅前劇場(東京都)

2023/07/21 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/07/28 (金) 14:00

130分。休憩なし。

スペーストラベロイド

スペーストラベロイド

collaboLab

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2023/07/19 (水) ~ 2023/07/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

アンドロイドといくスペーストラベルと言うことで、どんなアンドロイドが見られるのだろうと楽しみにしていたのでしたが、思わず「うっそー!!」の展開でした。
いろんな嘘やら勘違いやらが重なって、それを誤魔化すための苦肉の言い訳・・・
面白かったのですが、その動きがそう見えるか?と言う突っ込みどころもあり、そこを素直に笑ってしまえるかどうかで面白がり加減が違ってくるかな。

犬と独裁者

犬と独裁者

劇団印象-indian elephant-

駅前劇場(東京都)

2023/07/21 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

本当にこの作家は天才だと思う。このレベルの新作を毎回書き下ろしていたら本来はもっと評価されないとおかしい。こういう作品こそ新国立劇場で掛けるべきだろう。
劇団名は「印象」と書いて「印度の象」の意味だったりする。

ロシア帝国キエフ(現ウクライナのキーウ)出身の作家ミハイル・ブルガーコフは1891年に生まれる。1917年3月、ロシア革命(二月革命)によりロシア帝国は崩壊。臨時政府と労働者・兵士の代表機関「ソビエト(評議会)」の二重政権状態に。1917年11月、「ソビエト」内の派閥「ボリシェヴィキ(多数派)」を率いたウラジーミル・レーニンが武装蜂起。臨時政府を打倒し新政府「ソビエト」を樹立(十月革命)。1918年からロシア内戦が本格化。ソビエト軍(赤軍)とそれに反旗を翻した白軍(はくぐん)=白衛軍。(反革命軍と呼ばれたが、彼等が反対したのはレーニンが権力奪取した十月革命に対して)。1922年に赤軍が勝利。1924年レーニンが病死。その後を継いだヨシフ・スターリンは自身の権力を絶対的なものにする為、人類史上最大級の虐殺を行なった。スターリン政権時代の犠牲者は約30年間で死者2000万人とも4000万人とも言われる。(虐殺者数トップは中国の毛沢東、ヒトラーは3位)。遠藤ミチロウは自身のバンドに世界で最も憎まれた男の名前を冠した。

この激動の時代をスターリンと同時期に生きたミハイル・ブルガーコフ。医師から作家へと転身、劇作家としても多くの戯曲を残した。白軍に従軍した経験をもとに書いた処女長編『白衛軍』など。作風は社会風刺、体制批判、ソビエト連邦への痛烈な皮肉。かつての下層階級の屑が支配階級になって慌てふためくドタバタを笑った。勿論、発禁と上演禁止で追い詰められ、どんどん生計を立てられなくなっていく。

物語は追い詰められたブルガーコフにスターリンの評伝劇の依頼が。かつてスターリンはブルガーコフのファンであり、『トゥルビン家の日々』や『ゾーイカのアパート』を15回観たとも言われる。特別に上演禁止から守ったとさえも。
憎むべき独裁者を讃美する作品の依頼に葛藤するブルガーコフと、その周辺の芸術家達。

こう聞くと敷居が高く難解そうな芸術作品だと身構えるだろう。だが全くのエンターテインメント。何でこんな話をメチャクチャ面白く味あわせられるのか?そこが才能、何か手塚治虫っぽさを感じる。登場人物一人ひとりのキャラが立っていて、それぞれの立ち位置と目的を観客に手早く理解させてくれる。スターリンだのソ連だの全く興味無くても存分に楽しめるように作られている。(勿論、知っていたら更に楽しめる)。才能とはここのセンスの違いなんだろう。本当に凄い。

この作品では三つの物語が奏でられる。第一は前妻と妻がブルガーコフという天才に愛されることを願う話。彼の作品に関われることへの無上の喜び。第二はブルガーコフが自分が本当は何を描きたいのか自身の無意識の中にダイヴしてそれを探す話。第三はグルジア(現ジョージア)の田舎者、ソソの話。彼はロシア語が苦手でロシア人から犬のように扱われる貧しい青年。

こういう作品を新作として味わえる幸福。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

6年前に別れた前妻、リュボフィ・ベロゼルスカヤ役は金井由妃さん。彼女のキャラの面白さが観客をぐっと掴み、初期黒澤明映画の常連女優・中北千枝子を思わせる。
現在の奥さん、エレーナ・ブルガーコフ役は佐乃美千子さん。阿川佐和子や香川京子を彷彿とさせるスラリとした美人。綺麗な人だった。個人的MVP。
天才作家ミハイル・ブルガーコフ役は玉置祐也氏。どんどん太田光に見えてくる。
舞台美術家の友人、ウラジーミル・ドミートリエフ役は二條正士氏。加瀬亮を美形にした感じ。
モスクワ芸術座の女優、ワルワーラ・マルコワ役は矢代朝子さん。松島トモ子を思わせる強い目力。
謎の幻覚の男、ソソ役は武田知久氏。若き柄本明と嶋田久作を足したような異形さ。彼が無学で愛らしい野良犬から、手に負えない悪夢のような巨大な化け物に変貌する様が今作の肝。戸棚から飛び出すシーンは興奮した。クローネンバーグのような日常から非日常が転がり出すシーンが巧い。

会場は蒸し暑く、そのせいか居眠り客も多かった。具材を無理矢理鍋に詰め込み過ぎて、後半は生煮えの料理になってしまったようにも。
もっと女性視点の話をメインにするべきだったとも思う。本筋とは一見関係ない女達の話の方が興味深かった。

『ファウスト』のように想像力の限界に悩むブルガーコフをメフィストフェレス(代表作『巨匠とマルガリータ』を使うならヴォランド)が案内するスタイルも有り得た。時を遡りグルジアの貧しき詩人、ソソに乗り移ったブルガーコフ。赤いインクの代わりに人間の血を使い、紙の上ではなく世界に詩を刻んでいく。“鉄の男”と一体化し世界に向かって高らかに謳い上げる、己の鉄の意志を。そして自分が為したことにハッと我に返り現実に目が覚める。スターリンの昂揚とブルガーコフが一体化する必要があったと思う。その上での否定。

ラストのスターリンとブルガーコフの対峙はカッコ良かった。失明したブルガーコフは「俺はこの暗闇をインクに詩を綴ってやる!」と宣言。殺戮の赤い詩を暗闇で呑み込んでやる、と。

ちなみにブルガーコフの代表作、『巨匠とマルガリータ』はローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』の元ネタと言われている。
フィクション・モテギモテオ 2023

フィクション・モテギモテオ 2023

ライオン・パーマ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

バーチャルとリアルの空間を彷徨う浮遊感?とでも表現したくなる、なんとも不思議な作品。前回(コロナ禍前)、 下北沢で同じタイトルの作品を観たので今回は再演といっていいだろう。もちろんまんまコピーではない。当然台本はブラッシュアップされている。しかし、ライオンパーマは数年前から少しずつだが、明らかに変化している。脳科学者の茂木健一郎氏がTVで披露する「アハ❗️体験」と同じことだ。どこが変化しているのか、すぐにはわからないが少しずつの変化で時間が経過し、最後の最後に「なるほど‼️」となって脳内でピントがバシッと合うのである。いや〜、実によく出来た作品だ。これからも進化、いや深化するであろうライオンパーマから目を離してはいけない。

犬と独裁者

犬と独裁者

劇団印象-indian elephant-

駅前劇場(東京都)

2023/07/21 (金) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

戯曲としては、歴史もよく調べてあるし物語としても面白いし、最後の独白もとても熱くてよかった。心のきれいな少年が差別を受けた経験から(ほかにも理由はあるけど)独裁者になるというのは悲しくも人間的で、それに共鳴しつつ断固として愛さない・粛清を恐れない(書きたい)作家の姿勢も史実としてより人間として面白かったです。戯曲として、事実を並べるのではなく想像力で人間足らしめているのが素晴らしいと感じました。

だからこそ、演技や演出が気になってしまいました。俳優の立ったり座ったりが、それが演劇的であるということに終始して選択されているように見えてしまったり、歴史上の人物としてデフォルメして演技してしまっているのでは?と感じたり。作品から飛び出していないのかな。まるで授業を聞いているよう。もう少し不真面目でもいいのかも?前作のカレルチャペックが、そういうところが端々に見えつつそそられたのは二條正士さんによるところが大きいのかもしれない。彼は今作でも生きているように見えました。武田知久さんの身体能力の高さ・柔さには驚かされました。自由でとても面白い。ご本人も面白がっていらっしゃるのでは。後半までその自由さと狂気さとをあわさっていけたら。

舞台美術はシンプルながら目の形をはけ口等としてうまく取り入れているのが美しい。難しいですが花がたくさん出てくるところでもうすこし造花じゃなさ・土っぽさがあるといいなあと思いましたその他の衣装や道具が具象で重厚が故。リュボフィの赤に対してエレーナの緑もよかったし、全体的に深い色や茶色でまとめられているのも好きでした。リンゴや傘やお札が「赤」なのも象徴的でした。星空の照明や最後の照明が美しかったです。指定席はうれしいけど、イスが硬くておしりが痛かったです笑。仕方ない面もありつつ、100分くらいになったらもっと好きです。

憶えてるのは言葉じゃなくて

憶えてるのは言葉じゃなくて

チャミチャム

カフェムリウイ「屋上劇場」(東京都)

2023/07/27 (木) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/07/27 (木) 20:00

「ちゃむ」こと波多野伶奈の一人芝居。面白い。(3分押し)前説3分、59分。
 元彼との別れとか回想を、一人で演じて感触を残す。作・演出に「いいへんじ」の中島梓織を置いたのにも興味を持って観に行ったのだが、いい感触の作品だった。終盤の手紙のシーンは冗長感が否めないのだが悪くはないぞ。

みんなのえほん

みんなのえほん

9-States

小劇場B1(東京都)

2023/07/26 (水) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ベシミル! 華5つ☆
 混然一体・迷走の現代日本をよくぞ、ここまで本質的な劇に仕上げた。脚本・演出の見事に驚嘆! 主演・いろは役の松本 わかはさんの熱演も素晴らしいが、夫役・瀬沼 敦さんの大人として距離を置いた演技は若い人には分かり難かろうが自分のような年寄りからみると良い演技であった。無論、他の役者陣の演技も素晴らしいが詳細は追記で。
 初見で舞台美術の特殊性にも気付かざるを得ないが、この美術も実に要を得て本質的であり、然も初見で違和感を感じさせる見事なもの、良い舞台には矢張り、良い舞台美術家が付くものだと改めて関心させられた。(追記後送)

これが戦争だ

これが戦争だ

劇団俳小

ザ・ポケット(東京都)

2023/07/22 (土) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/07/27 (木) 19:00

価格4,500円

劇団俳小。前回のマギーの博物館に続く2度目の観劇でした。
マギーもそうでしたが、芝居のテンポ感や俳優の持つポテンシャルを十分に引き出している印象がありますね。「これが戦争だ」アフガン戦争から帰国した4名のカナダ軍兵士たちのインタビューから、各々配役の視点で物語が解釈されていく本作品では、戦争の惨さはもちろん…どんな極限状態であっても人間の持つ欲望や想いは、同じくらい強く「生きる」という意味を再確認させられるものと感じた。

ネタバレBOX

スティーブン、ターニャ、ジョニー、クリスの4人が語るのは、共同作戦前夜での出来事。
男女関係のもつれ等から、仲間の若手兵士ジョニーの負傷させてしまう。この一連の流れと配役視点の回想シーンが繰り返され…という流れは、正直予測ができてしまうので面白くはなかったです。日本人キャストがカナダ軍兵士を演じるという点で、ややオーバーなリアクションや台詞回し。台詞の受け身では所々に日本人っぽさを感じてしまう点。作品が戦争をモチーフにしているということもあるが、中盤からの芝居の盛り上がりという部分ではやや欠けているようにも感じました。個人的な感想としては、まるでエチュードのような「役者のためになる作品」だったように思います。
逃亡

逃亡

CEDAR

OFF OFFシアター(東京都)

2023/07/26 (水) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

作家や作品の前知識なしで観たが、良い台本とは思えなかった。おそらく不条理劇ではないのに会話の展開に支離滅裂感があり、思わせぶりなそれらしいセリフがただ並べられ空疎に流れていくだけで心に刺さらない。特に終盤の男だの女だのの話はここでは必要なかったのではないか。

韓国新人劇作家シリーズ第7弾

韓国新人劇作家シリーズ第7弾

韓国新人劇作家シリーズ実行委員会

北とぴあ ペガサスホール(東京都)

2023/07/13 (木) ~ 2023/07/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/07/16 (日) 15:00

 私は今回、韓国新人劇作家シリーズという、韓国の新人劇作家の作品を日本人の俳優と韓国人の俳優を使って上演するという試みで、それを観るのは初めてだった。
 しかし私が観た回は、全員日本人の俳優で韓国の新人劇作家作品を演じたので、正直そんなに期待はしていなかったが、結果的には非常に楽しむことができた。

Aの『罠』(韓国日報 新春文芸戯曲賞受賞)では、閉店時間の近づいたデジタルカメラ販売店を舞台に、消費者及び善良な市民としての権利を強引に主張し、まるで正論を言っているようでいて、時々屁理屈を捏ね、なんかしら理由を付けては店を出ようとしない、かなり厄介な客、その酷いわがままに手を焼く販売員の女性、そして店長、さらには地元の警察官までをも巻き込み、段々事が大きくなり、よくある日常の風景の延長線上から、もはやお客の側の主張、店側の主張、どちらが正しいかとかはどうでも良くなってきて、物事がどんどんエスカレートしていき、不条理な展開になるにつけ、そのブラックで過激で、スラップスティックでもあるコメディに大いに笑った。
 しかし、最後にお客が不敵に笑って劇が終わるに至って、どこか他人事ではないような気になってき、また、お客の心の底が読めない終わりかたに、背筋が凍りつき、冷や汗が出た。

Dの『名誉かもしれない、退職』(慶尚日報新春文芸戯曲部門受賞)では、カフェが舞台で、同じ会社だが、年齢も立場も違う3人が互いに相手に探りを入れつつ、時々一人を味方につけつつ、退職を押し付け合う、エゴイズムが表面化し、醜く露骨な、感情が激しくぶつかり合う、修羅場と化していく光景に、人間味を感じ、そんなに他人事とも言えないと感じ、大いに笑いつつ、観劇後は、すーと寒くなった。

コココーラ

コココーラ

コココーララボ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/07/21 (金) ~ 2023/07/29 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/07/26 (水) 19:00

105分。休憩なし。

ダンパチ20『成人』/女子公演シリーズ『男ZERO0〜オトコ・ゼロ』/新人公演「あなたはだあれ?」

ダンパチ20『成人』/女子公演シリーズ『男ZERO0〜オトコ・ゼロ』/新人公演「あなたはだあれ?」

ショーGEKI

「劇」小劇場(東京都)

2023/07/12 (水) ~ 2023/07/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/07/22 (土) 13:30

「男ZERO0〜オトコ・ゼロ」115分休憩なし。

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