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ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

新宿スターフィールド(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

「イメージの飛躍が際立つ歴史劇」

 2022年初演の劇団代表作の再演である。私は最終日のAキャストを鑑賞した。

ネタバレBOX

 圧政に苦しむ島原の少年益田四郎(初鹿野海雄)は内気で人付き合いがうまくない。友人のハチ(小林かのん)とともにほかの少年たちのからかいの対象となっている。彼らがバイトしているパチンコ店では年貢を納められない百姓たちや、パチンコ玉を拾い陰で銅像を造って売っているナマリ(山﨑紗羅)らがたむろしているのだった。ある日声が出なくなった店長(越智愛)にけしかけられて四郎が客寄せのマイクパフォーマンスをすると皆は一気に惹きつけられる。

 四郎の隠れた才能に目をつけた山田(四家祐志)は一揆軍に加わらないかと誘う。手品の仕掛けに四郎の見事なアジテーションも相まって、山田は四郎を神の子として皆に認めさせることに成功する。こうして一揆軍は原城に籠もり叛乱を続けるのだが……

 私が面白いと感じたのは天草四郎が創られた神であったという取材をもとにさまざまなイメージを作中に展開させた点である。一攫千金を狙う農民たちがパチンコ店に詰めかけ、それをまた搾取する店長という構造を圧政に苦しむ農民に重ねたり、ナマリが銅像を造って売るという行為に四郎の崇拝化を重ねるなど、穏当な歴史劇にしなかった点が面白い。

 しかしこのイメージの豊富さとは裏腹に作劇自体はもう一捻り必要と感じた。一杯飾りのシンプルな舞台にもかかわらず場所の設定がたびたび変わり、一部の俳優が何役か兼ねるため、いま一体何を観ているのかわからなくなっていく事態が頻発した。山田が代官と通じているというのも平板であったし、そのため窮地に追い詰められた四郎の絶望や、神を失いかけた一揆軍の疲弊がまざまざと伝わってこなかったのが残念である。

第79回「a・la・ALA・Live」

第79回「a・la・ALA・Live」

a・la・ALA・Live

座・高円寺2(東京都)

2024/04/03 (水) ~ 2024/04/03 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/04/03 (水) 14:30

演劇、ダンス、マジック等、大人も子供も楽しめるエンターテインメントのステージで最高でした!

天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

少ない人数でよど号ハイジャック事件(1970年3月31日)をよく描いた。脚本の工夫には感心。自分は山村新治郎が次女に刺殺された事件(1992年)や田宮高麿の怪死(1995年)など後追いで事件に興味を持った口。当時『噂の真相』や『創』なんかを毎月買っていた。
未だによく判らないのが共産主義の魅力。戦前の太宰治的キリスト教文脈の解釈としての憧れならば理解出来るのだが。ただ“革命”に参加したくて、それを肯定する理由付けの為だっただけなんじゃないかと。大義名分による暴力衝動の正当化。

テーマは「剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力」。
ギリシャ神話に登場する女神テミス(=ローマ神話のユースティティア)像。目隠しをして左手に秤、右手に剣を持つ。秤は善悪を量る「正義」を象徴し、剣は裁く「力」を象徴、目隠しは「法の下の平等」を。1872年、ドイツの法学者ルドルフ・フォン・イェーリングの『権利のための闘争』から。その元となったのはフランスの哲学者ブレーズ・パスカルの死後、1670年に発刊された遺稿集『パンセ』の一節、「力のない正義は無力であり、正義のない力は圧制的である」。

機長役、祥野獣一氏が物語の重心となる。
山村新治郎役、山村鉄平氏が事件を追想する額縁。
ハイジャック犯、田宮高麿役は高橋亮二氏。乗客達に「(退屈しのぎの為、)希望者には自分達が持ち込んだ本を貸し出す」と告げて書名を読み上げる。このシーンが一番観客が沸いた。

乗客の生命、安全を最優先にすることが日本航空乗務員の“正義”。
“革命”の為にどんな障害があろうとも計画を遂行することがハイジャック犯の“正義”。
今、最優先すべきものは何なのか?その判断の根幹、“核”になるものとは果たして何なのか?

ネタバレBOX

この事件を起こした共産主義者同盟赤軍派の9人はリーダーの田宮高麿が最年長27歳、最年少の柴田泰弘に至っては16歳の高1。しかも犯行に使った日本刀、拳銃、爆弾など全て玩具でしかなかった。目的は北朝鮮をオルグ(勧誘によって仲間にすること)して“赤軍化”すること。勿論、朝鮮語も英語もできない。こんな無計画な度胸だけの若者達が国家相手に大立ち回りを演じ、見事国交のない北朝鮮に入国したことは世間に衝撃を与える。当時は国家権力は“悪”の象徴だった為、「あいつら凄えことやりやがったな、俺達だって出来る筈、負けてらんねえ。」の気分。ある種、痛快な英雄でもあったのだ。(無論、革命ごっこに夢中な愚かな連中と白眼視もされていたが)。

この人質を取って荒唐無稽な要求を国家に呑ませるというアイディアは、ゴジが撮った『太陽を盗んだ男』という映画になる。
冴えない中学校の理科の教師が、自宅で原爆を作る。証拠を携えて日本政府を脅迫。要求は「プロ野球中継を最後まで放送しろ。」「ローリング・ストーンズの日本武道館公演を開催しろ。」(当時、ストーンズは前科が問題となって入国審査が下りず)。実は彼にはそれぐらいしか望みはなかったのだ。

この事件の裏の主人公は乗客の中にいた米国人のダニエル・マクドナルド神父。彼はどうもCIAのエージェントだったらしく、北朝鮮で尋問を受けることを米国は危惧。日本と韓国に、北朝鮮には絶対に行かせないよう要請。朴正熙(パク・チョンヒ)大統領はKCIAに命じ、よど号を金浦(きんぽ)空港に着陸させた。そして3回、別々の米国人の3人が神父の身代りになりたいと空港に申し出てくる。更に管制塔から神父との交信を求められる。山村新治郎が身代わりになることで乗客は解放され、飛騨号で帰国することに。だが神父の姿は消えてしまい、結局日本に帰ることはなかった。この神父の存在がこの事件をここまで込み入ったものにしている。

一番ぐっと来たのは山村新治郎が母親に電話して「母ちゃん、最後にもう一度、直義(彼の幼名)と呼んでくれないか」と頼むところ。国交のない北朝鮮に行けばどうなることか誰にも分からない状況。死を覚悟した男の名シーン。

後年、山村新治郎は24歳の次女により、寝室で出刃包丁で滅多刺しにされて死んだ。精神疾患を患っていた次女は「心神喪失により責任能力なし」で無罪に。その4年後、飛び降り自殺。

今作の物足りなさはよど号グループ、田宮高麿に全く感情移入していないこと。ただの馬鹿ガキの起こした事件にしてしまっている。これではドラマにならない。“正義”を後生大事に崇めているだけでは何も変わらない。間違った何かを変えるのはいつも“暴力”だ。行動なくして何も動きはしない。そんな異なる“正義”の対立が観たかった。その為には全く別の視点が必須。
前田日明が批判としてよく使うのは、歴史の「後出しじゃんけん」について。結果を知っている現在と、何も結果が未確定の当時とでは評価が違って当然。いつだって闇の中を無我夢中の手探りでどうにか進んできたのが人間の歴史。現在から過去を安易に断罪することの愚かさ、無意味さ。未来から見れば今の世界の“正義”など全くの無意味、ナンセンスなのかも知れない。

ちなみに田宮高麿の子分だったのが後の連合赤軍トップ・森恒夫。田村は森を腰抜けだと馬鹿にしていた。
見よ、飛行機の高く飛べるを

見よ、飛行機の高く飛べるを

ことのはbox

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

チラシの鮮やかさに惹かれて観劇。この手の作劇はあまり好みではなかったのだが、本作は不思議とのめり込めた。いやらしさを感じなかった。役者の熱演もあったためだろうか。

ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

新宿スターフィールド(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

いい意味で小劇場演劇の王道をいく作品だった。静かな演劇をベースとする今の若い劇団の中では異質な団体かもしれない。とにかく熱量がすごく圧倒された。

(あたらしい)ジュラシックパーク

(あたらしい)ジュラシックパーク

南極ゴジラ

王子小劇場(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

お客さんの層にびっくりした。いわゆる演劇界隈とは違う人々も取り込んでいる。これからくる劇団なのは間違いないですね。

​骨と軽蔑

​骨と軽蔑

KERA CROSS

シアタークリエ(東京都)

2024/02/23 (金) ~ 2024/03/23 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

KERAさんは本当にずっと面白い。いい意味で若さがずっとあるように感じる。同年代の演出家に感じる若干の痛々しさを微塵も感じない稀有な存在。ファンタジーとのブレンドの巧みさ、音楽のセンスなど技術的意匠も健在です。次回作も非常に楽しみ。

人形の家

人形の家

劇団東京座

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

正直うーんという感じでした。このような形なのであれば今やる必要はあったのだろうか…

いい旅、現実気分。

いい旅、現実気分。

人間嫌い

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/13 (水) ~ 2024/03/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

やはりおもしろいですね。楽園との親和性も高かったです。

エアスイミング

エアスイミング

カリンカ

小劇場 楽園(東京都)

2024/02/28 (水) ~ 2024/03/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

戯曲でしか読んだことなかったので。熱演が観れて嬉しかった。
セットも魅力的だった。

見よ、飛行機の高く飛べるを

見よ、飛行機の高く飛べるを

ことのはbox

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

この演目は何度も観てますが、改めていい脚本ですね!?
あらすじは、基本変わらないので、舞台セットの違いに注目して見てました

ナマリの銅像

ナマリの銅像

劇団身体ゲンゴロウ

新宿スターフィールド(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

思い切りのよい構成とスタッフワークで、一揆を思春期の人間ドラマという手に取れる形に描ききり、それぞれの人物の思惑を演じきったのが再演の見事な点だ。若さに対してストレートな芝居ができる珍しい団体であり、より大きな劇場での活躍が期待できそう

見よ、飛行機の高く飛べるを

見よ、飛行機の高く飛べるを

ことのはbox

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

初めて見たが名作という意見にも納得
筋、演技、そして舞台に流れる雰囲気作りが巧みであり、後半の展開には目が離せなかった
今後もぜひ見てみたいと思っている

新ハムレット

新ハムレット

早坂彩 トレモロ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/03/22 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

現代にこのような形で舞台に起こした試みがよかった。特に舞台美術は印象的だ

漸近線、重なれ

漸近線、重なれ

EPOCH MAN〈エポックマン〉

新宿シアタートップス(東京都)

2024/04/01 (月) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/04/02 (火) 14:00

座席1階

前作「我ら宇宙の塵」が非常に面白く、小沢道成という才能を知る。今作は古くからの友人というか、知り合いである俳優の一色洋平との2人芝居。劇場に入ると客席をかなり前まで伸ばした先にある舞台はあちこちに窓がついた斜めの板。結論から言うと、この斜めの板をうまく使うなど秀逸な舞台美術が客席を魅了する。

タイトルの漸近線とは、限りなく近づいていくがけして交わることはない2本の線を指す。最初に一番手前の窓を開けて登場する一色が、新たにこのアパートに入居するところから始まる。あちこちの窓は、他の入居者たちだ。ただ、漸近線のもう片方は入居者ではなく、遠く離れた故郷から出てきた一色の高校時代の友人である。2人の関係だけでなく、漸近線は故郷と都会などというけして交わらない関係をうまく描き出している。
後段で出てくる音楽シーンがすばらしい。詳しくはかけないが、一色の歌声や楽器演奏に客席は引きつけられていく。選ばれた言葉を紡いでいくモノローグや会話は、この舞台の核心だ。大きな悲劇が語られるわけではないのに、客席のあちこちですすり泣きが漏れた。

小劇場ならではの迫力も十分だ。この舞台は面白い。見ないと損するかも。

天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

様々な点で考え抜かれ作り込まれた舞台だと感じた。
開演前のBGM、劇中での言葉遣いや会話の内容、客室乗務員の制服は「時代」を感じさせる。コックピットを模した舞台装置、冒頭の機内アナウンス、音響や照明、そして「楽園」という劇場が持つ濃密感そのものが飛行機内という「場」を感じさせる。
必定、観客は「よど号」の乗客と化している。臨場感や緊迫感が半端ない訳だ。

物語は歴史的事実を正確に追いながら、登場人物の心の機微にも触れていく。速いテンポのセリフの応酬はますます緊迫感を高める。演者さんたち、見事だったな。犯人役の杉浦さんは口角泡を飛ばしていたし、客室乗務員役の吉水さんは終始、目が潤んでいるように見えた。運輸大臣役の斎藤さんの狡猾さも見ものだったし、指導教官役の下平さんのらしさも光っていた。

そして何より吉水さんの脚本がなければこの作品はこの世に生まれてこなかった訳です。脚本の力を改めて感じました。

観終わった時には何時間も経過していたように感じた(大げさでなく)のだが、劇場を出て時計を見たら2時間経っていなかった。これぞ舞台のマジックだ。映像では決して味わうことのできない感覚。これは演劇初心者の人に観てもらいたい作品だなあ。



天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

久々の風雷紡観劇。再演だったとの事。好評ゆえとすれば納得である。冒頭でよど号ハイジャック事件が題材と分かる。透明プラスティックの椅子二台を動かすだけの転換で、場面を淡々と構成。「楽園」の狭い舞台で感情が爆発するとダイレクトに波動を受ける。ハイジャック犯一人の他は、機長、副操縦士、CAのキャップと部下二名、行政官(大臣と政務次官)、キャップの先輩も行政サイドに居る、という人物構成で、事件解決に向かう人物たちの群像だ。乗客がゼロ、ハイジャック犯が一人(ここはやや気になったが)でも、この歴史的事件をうまく現代に浮かび上がらせ、観客に強い関心を持って事件を見据える事を促している。各場面が事態の進行と共に人間模様の簡潔な描写を兼ねて面白い。後半の展開のテンポも良い(程よく間を省いている)。

ネタバレBOX

改めてよく出来た作劇、テンポ感、照準の絞り方、広げ方がよく、蠱惑的な空気があったのだが、何故だろう?と考える。答えは見つからないが、やはりこの劇団の特徴である「左翼」の歴史に分け入ったドラマである点が一つ、考えられる。ハイジャック犯の役は一人で代表させている点では、ステロタイプを担わせ、グループメンバーそれぞれ背景の異なる個人の人生までは分け入ってない。が、理想を望む情熱と、打算の振れ幅を体現させ、観客目線では身近な存在として見る事を許している。
もっとも、法を犯した者を絶対悪としがちな昨今の風潮では、予め悪人と見、韓国の金浦空港に騙して連れて来られた後に人質入れ替えにより平壌へ向かう算段が付いた時の犯人の浮かれた名調子、演説の軽薄さに「悪の烙印」を押させてもらって溜飲を下げた、といった感想があってもおかしくない。
「悪」には両義性、多義性があり、ルールがそう決まってるから悪とされているに過ぎない悪もあれば、たとえ法に規定がなくとも倫理上はどう考えたって「悪」だろうという事もある。こういった題材はそれを考えさせる。
旅客機の乗客の代わりに人質となった外務官僚のその後の顛末として、ある悲劇が冒頭とラストで僅かに紹介され、恐らく史実をなぞったものと思われるが、ドラマの中に意味的に取り込みづらい。単なる英雄譚で終わらせられなかった人生への大いなる謎。
とは言え、よど号犯人たちのその後は決して「楽園」でのそれでは無かっただろう事と、波長として重なり合うものがある。
劇団菜の花座"明るい未来"の夕焼け小焼け

劇団菜の花座"明るい未来"の夕焼け小焼け

劇団菜の花座

阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)

2024/03/30 (土) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

近未来SFの一本目は「死ぬこと」すでに長寿は歓迎されなくなっており、70代のうちに死を迎えなければならない(とは明確には言っていないが)。79歳の死は「ずいぶん頑張ったなあ」と言われている。死期を自分で決められるのかどうかは分からなかったが、穏やかに死を迎えるためのプログラムに登録しておいた女座長の元には、いよいよと言う時にはイケメン?のAIアンドロイドがやってきて、人生を走馬灯よろしく振り返って見せてくれる。そのための情報は全てこのアンドロイドが記憶していると言うのだ。そしてこれで穏やかに眠りにつけると言うはずが、座長の心には「このままでは死ねない」と言う思いが・・・
先日義父と母を見送った私には身につまされるところがありました。そして我が身も他人事では無いと思うのでした。
二本目は「生むこと」。借金に悩む非正規の女の元にやってきた女性エージェントは「あなたが以前預けた凍結卵子を売ってくれ」と言う。もはや少子化は普通の出産ではどうにもならないほどになり、人工授精した卵子で代理母に産んでもらうしか無いと言う政府の極秘プロジェクトらしい。すでに妊娠が安全ではない年齢の非正規の女は「父となる男はイケメンでなければ許可しない」などの条件をつけて卵子を手放すが諦めきれない。エージェントは女子刑務所を訪ね「母性愛に溢れ体も丈夫」と言う受刑者を減刑や報奨金を餌に代理母を引き受けさせた。しかし、その後の再検査で凍結卵に欠陥が見つかり、エージェントは自分の凍結卵子を持って極秘プロジェクトと連絡を取る。「私だって私の血を、子孫を残したいのだ。私の卵子を使って欲しい」しかし・・・
二本とも笑えるけどちょっと、いや考えたら結構怖いお話でしたが面白かったです。
近未来と言いつつ昭和テイストがありましたが、今必要な内容のお芝居と思いました。
山形でのご活躍を期待しています。また東京にも来て下さいね!

密航者~波濤をこえて~

密航者~波濤をこえて~

株式会社エーシーオー沖縄

R's アートコート(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/30 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

懐かしい嶋津与志さん。30年ほど前に映画「GAMA月桃の花」で取材した。この戯曲は知らなかったが、戯曲と俳優の熱演と相まって、いい舞台だった。
沖縄出身の女優外間結香が、芯の強い沖縄女性を好演。取調官(清田正浩)は、米軍の犬としての強権ぶりと屈従がよくわかる。ブザーが鳴るたびに追い詰められていく様が、しょせん米軍のコマにすぎない苦しさをよく示していた。
取調室から、照明一つでシームレスにヒロ子の部屋、清次郎(齋藤慎平)との回想へという演出がうまかった。

清次郎は直情径行な男で「坊ちゃん」のよう。米軍の土地とり上げに義憤を感じて、伊佐浜の米軍基地の鉄条網を切ったり、横暴な米兵たちに大工道具を振り回して一人で立ち向かったり。齋藤氏に作者嶋は「あれ(清次郎)は馬鹿なの」と語ったそうだ。あんなふうに馬鹿になって、米軍に歯向かいたいという願望が書かせた人物だろう。

ネタバレBOX

最後、取調官は、清次郎を反米活動家として有罪にするための証人になれ、そうすれば密航の罪は許してやると持ちかける。ヒロ子は「見損なうんじゃないよ」とばかりに当然拒む。脱走した清次郎が天海に密航しようとして拿捕されたと知って姿勢を正す。「清次郎が私に合うために密航しようとしてくれた。私にはそれで十分」と。
「私を罰したって、密航者は私で終わらない。次々私のあとがいる」
まだ取り調べも収容所生活も続くが、芝居はここで終わる。ヒロ子はこの後どうなるだろうか。最後まで拒否し通せるだろうか
ハザカイキ

ハザカイキ

Bunkamura

THEATER MILANO-Za(東京都)

2024/03/31 (日) ~ 2024/04/22 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

国民的アイドルの橋本香(恒松祐里)は、ヒットメーカーの音楽プロデューサー加藤勇(九条ジョー)とひそかに熱愛中。その熱愛場面のスクープ写真を狙う週刊誌記者の菅原祐一(丸山隆平)…それぞれが芸能界にからむ嫉妬とメディアがつくるスキャンダルに巻き込まれていく。

香が「ヒット曲ってどうやってつくるの?」ときくと、勇は「令和っぽくかな。抜け感が大事。自分の考えを押し付けず云々」とそれっぽいことを答える。これが最初の布石。「令和っぽさ」「こういう時代だから」ということで、多様性やLGBTQ、人権尊重、ハラスメント根絶、SNSのいざこざに縛られて、あるいはメディアやSNSに煽られて、人々の暮らしは窮屈になり、「時代だから」と本音を抑えて、表面的なその場しのぎの言葉を交わしていないか。そう考えさせられる

タイトルの意味が、見ながらやっとわかった。「昭和」の古い価値観とこれからの新しい価値観が交代しつつあって、まだ中途半端な「端境期」のことだ。
今年1月の芥川賞受賞作「東京都同情塔」は、「弱者への配慮」と「多様性尊重」という表面的正義(偽善)の行き着くディストピアを描いた。「ハザカイキ」は同じ問題意識に立つ。そして、危機管理として心のこもらない謝罪が安売りされる、空虚な現在を「これでいいのか」と批判している。いつもはシニカルに見えて、今回の舞台は結構熱い。本物の水を大量に降らせる土砂降りの演出も、熱量のある本気度が見えた。

映画のように短いシーンをたくさん重ねていくが、回転セットを左右に二つ、奥には陸橋という舞台装置でよどみなくシーンをつなぐ。音楽も大変効果的だったし、香は失意に打ちのめされた謹慎の部屋で中島みゆきの「時代」を口ずさむ。スーッと伸びる高音が心地よい。エキストラが20数人。街頭の通行人や、謝罪会見に集まった記者に扮する。舞台上を多数の通行人が列をなして次々横切っていく様は、無機的な街の景色を舞台で再現して、秀逸だった。大変贅沢なつくりで驚いた。

1幕50分+休憩20分+2幕1時間40分=2時間50分

ネタバレBOX

とにかくシーンが多いのだけれども、後半の重要なところをメモしておく。
・アイドル香に対し、香の密会を週刊誌に売った「親友・元地下アイドル」野口裕子(横山由依)が謝罪。「私のためにいろいろ理屈をつけてくれてありがとう。親友がただねたみから売ったなんて考えたくなかったんだよね」
・バーのママである香の母・智子(元女優、大空ゆうひ)が、客の不倫を実名入りでSNSでつぶやいたホステスのアケミ(日高ボブ美)を諭すのに、横で聞いていたホステス仲間・ヒカル(青山美郷)が「ママは不倫を許すんですか。こうやって公にして、妻にも知られないと、不倫の被害者は次々出てきます」と涙ながらにつっかかる。興奮しすぎて呼吸困難になりつつも、店を飛び出す。ヒカルを責めないでとアケミはママに謝罪
・週刊誌記者・菅原はバーでのスナップを「セクハラ」証拠写真と、ライバル誌に書き立てられ、さらす側からさらされる側に。心配してきてくれた、飲み友達の伸二(実はゲイ、勝地涼)から迫られる。はねのけた菅原に、伸二が「俺はわかってなかった」と謝罪。菅原も「わかってると思ってわかってるふりしてた」と謝罪
・香の父で事務所社長の浩二(風間杜夫)に、パワハラを訴えたマネージャー(米村亮太朗)が「本当に働かせてもらって、5年間、そんなこと思ったことなかったのに、一時の感情でパワハラなどと言ってすいませんでした」と謝罪。風間は意外にも「自分のことを監視してくれ。俺は変わろうと思う」と逆に謝罪。
・犯罪を犯して保釈になった勇はテレビで「みんな俺のことを思ってツイートしているんじゃない。自分の生活をよくするために、俺のことを使ってるんだろう。俺もこれからは自分の生活をよくするために生きる」と発言。
・橋本香の謝罪会見。圧巻。自分の打算、ずるさ、自己正当化の理屈もいちいち表に出して、心のうちをすべて(のように)語る。最後は、鼻水と涙で、本当に泣く。すごい役者である。一人の人間として、初めて素顔をさらしたかのよう。「応援してくださった皆様、本当にすいませんでした」
・実家から菅原のもとに帰った恋人の里見(さとうなほみ)が、土砂降りの中、互いに許し合う。「時代に合わせるだけでなく、本当の事を話せる人がひとりそばにいれば、生きていける」

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