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花に嵐

花に嵐

東京タンバリン

東京国立博物館九条館(東京都)

2024/04/04 (木) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/04/04 (木) 13:00

座席1階

東京タンバリンがかつてより行っている、和をモチーフとした舞台「わのわ」。今回は講談とのコラボだが、演劇と講談は実は相性が非常によいことが分かる。観劇後はそのまま座って、出演した俳優さんたちがおいしい抹茶と香川県坂出市の「名物かまど」の和菓子を振る舞ってくれる。このような演劇体験は初めてだ。

「わのわ」を見るのは自分は初めて。今回は東京国立博物館の敷地内にある茶室を舞台にして上演された。茶室だから畳敷きで、床の間の絵画も何やら由緒ありそうなものだ(ひょっとして文化財?)。窓から見る桜は満開。いす席と座布団の席を一列ずつ、舞台を挟んで両側に配置し、かたわらには茶の湯を沸かす茶釜が湯気を立てていた。始まる前からこれまでの小劇場観劇とは違ったムードが漂う。
講談を見たことのないお客さんのために、皮切りは講談師の一龍斎貞寿による、易しい解説からスタート。目尻の下がった笑顔がとてもチャーミングな貞寿だが、いざ講釈台を張扇でパパンとたたくと座がキュッと引き締まる。実は今回、舞台の導入部や舞台転換で貞寿がパパンとたたき、舞台の背景を講談調でしゃべるのだ。お客さんはこの軽快な話術に引き込まれ、舞台をしっかり理解することができる。実にいいコラボレーションだ。
物語は由緒ある日本料理店。茶道のたしなみのある主人公の女性は、同窓生の日本料理店社長に請われて従業員に茶道を教えに招かれる。ところが行ってみると、生徒である従業員は一人も来ない。この社長は女性関係が派手で、奥さんが不義を疑い、意地悪をしていたとみられるのだ。
茶室が舞台だから、茶道を教えるというシチュエーションにはぴったり。だが、おもしろいのはやはり、東京タンバリンが得意とする日常的な人間関係が織りなす会話劇だ。驚いたことに畳の上で和服の女性が取っ組み合いのけんかをするシーンも登場する。

俳優は全員が和服。茶室が舞台なのでこれがすごく美しく映る。何の小道具もいらない。お客さんは「日本料理店にある茶室」との設定に違和感なく溶け込んでいく。
講談とのコラボも奏功し、貴重な演劇体験を味わうことができる。もちろん、物語自体も面白い。終演後にお抹茶をいただいたから言うのではないが、見ないと損するかも。

ネタバレBOX

最終盤、「次回作に続く」とにおわせるようなせりふも出た。この物語の続きがあるのかも。
新ハムレット

新ハムレット

早坂彩 トレモロ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2024/03/22 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

原作を知らないのが
ただただお恥ずかしい限りなのだが、
美術も衣装もオシャレだったし、
抽象的な美術の使い方が凄く上手だった。

何より俳優さんが達者‼️
個人的に感嘆したのは、クローヂヤス役の
太田さんと、ポローニアス役のたむらさん。
特にたむらさんのお父さんは「目から鱗‼️」
でした。女性は、女性のままでもお父さんに
なれるのだなぁ(びっくり)

観る前に原作を読む余裕があると
作品は倍楽しめたと思います。
(そこは自分に対して残念です)

天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

史実に基づく舞台 演劇作品で
ハイジャック事件の流れを
忠実に再現しながら 人間ドラマが
見事に描かれ
それぞれの立場だけでなく
素性や内面も 会話や振る舞いで
描かれていたので
それぞれの気持ちに寄り添ったり
後ろから頭をバシッとしたくなるような
苛立ちを感じたり
地上から奮戦する空港関係者に
エールを送って、と
再観劇でストーリーはわかっているけど
その場面場面に集中して
共に闘う気持ちで
最前列で観た時は 役者さんと
擦り合うくらいの距離感で
でも ふれあう事のない
こちらは当然ながら安全な場所いる事が
自分が飛行機本体で
機内や地上で起きている事を
見守っている そんな思いも感じました


観劇 ではなく
搭乗 という言葉で
機内アナウンスのような前説も
気持ちを高めてくれて
飛行機が飛び立つ爆音で 本当に
Gがかかったような感覚がありゾクゾクしました!
事件の実話ですし 
乗り越えたから幸せになる
という話ではないですが
すごく面白くて 観れて良かったです!

正夢

正夢

星歌オムニバスひとりしばい公演

北池袋 新生館シアター(東京都)

2024/03/28 (木) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

頑張っていた。
・・というコメントは一番無粋な類だとは思うが、見たそのままの感想が出た。五名の劇作家のラインナップは目を惹くが、書き下ろしとなると贅沢な反面「出来」も気にかかる。もう一つ別の舞台と散々迷ってこちらを観た。どっちが良かったとは判定できないが、結果的に良かった。北池袋駅周辺の長閑な地区に降り立ってすぐの新生館という空間も駅も初めての場所で、昼下がりに池袋駅方面へ歩く道行きも新鮮で久々に旅気分込みの観劇であった。
演目の方はそれぞれの劇作家らしさのある作品、10〜15分程度の、と当初書いたらしい宣伝文句の中にあったが、前説で115分と案内される(とすると一作15〜20分の勘定)。テーマ設定がない分、この星歌なる若輩のパフォーマーにインスパイアされて書いたと思しい作品が多い。手作り感のある劇場には星を誂えた美術が、最後の演目(柴幸男)に寄せたのかとも思ったが、「星歌」に寄せたのだな。ムシラセ・保坂萌の作はゾンビがいるディストピアな未来に、一人でやってるラジオ放送を聴きながら「読まれる」はがきを書こうと頭を捻る少女の話、笑いを好む作者らしい内容。続くMCR櫻井智也は先頃別れた彼氏の悪態をつきつつ想念から離れない二律背反に悶える女性の話、オノマリコの作品が最もスケール感とスピード感があったのは意外だった。続く鈴江敏郎は友達から聞いて作った物神との対話(自己問答)、柴幸男のは宇宙を旅する者の語り。「他者」が出て来ないほぼ独白は詩の朗読の域で、ラスト2つ抽象的舞台が続いて体力もそろそろで眠気が襲ってしまった。見て判りやすいものが三つ続いた後でもあり、順番的にどうだったかな、と。体力さえあれば終盤に抽象度の高い世界に入るのも悪くはないが・・。
しかし全体として中々なレベルであった。

花田少年史

花田少年史

人形劇団ひとみ座

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2024/03/26 (火) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ひとみ座を見始めたきっかけが同じ劇場で観た70周年記念と力の入った「どろろ」。今回も劇団総出の力の入った公演、観るしかないと足を運んだ。
終演後、自分には意外だったのが今回が75周年だった事。つまりひとみ座観劇歴史は5年。えーもっと前かと思った。。やはりコロナ禍が時間感覚にかなり影響している。
作品は所謂「人形劇=子ども対象」の範疇。そこが「どろろ」と大きく違う。題材がこれなのでそうなるかという所ではあるご。。
面白い演出ではあった。いや存分に趣向を凝らしこのコミックのドラマ世界を具現していた。ただ、ドラマの強度が気になった。同じ筋書きで別の色合いは出せた、かも知れないが、脚本かな・・。
冒頭とラストでロック調のテーマソングが
生演奏で披露されるが、この曲は悪くないが、ラストではオープニングにはなかった歌詞、あるいはCメロが欲しかった。カーテンコールで同じ曲のサビ〜ラストを一クサリやったのもお腹一杯であった。音楽監修が入ったらそこは意識してアレンジを施したのではないか、と想像をしてしまう。終わり良ければ、なのである。

アンドーラ

アンドーラ

文学座

文学座アトリエ(東京都)

2024/03/11 (月) ~ 2024/03/26 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

隣国「黒い国」と緊張関係を持つ架空の国アンドーラを舞台とし、ユダヤ人差別を軸に展開する不思議な味わいのドラマだった。文学座のアトリエ公演は濃い。秀逸。

文学座の勢いある女性演出陣の若手の一人とされる西本由香の演出舞台は初めてであった。その視点で反芻していなかったが、アトリエ公演らしい実験精神も見られた。架空の世界を描く際には、確かに、その世界を統べる法則や人々のふるまい方、習慣が戯曲に即して特徴的に描かれたい。
ただこの作品では「ユダヤ」という固有名詞は現在用いられるそれそのものとして使われ、迫害の熾烈な隣国の好戦的ファシズムの脅威にさらされた国、を舞台に、平和主義を貫いているとは言いつつそこここに欺瞞が満ち、ユダヤ差別も屈折した形で存在する哀れな弱小国の現実が浮かび上がる。この作品のメタファーがどこへ向かっているのか、どの現実を特に意識して書かれたものなのか、知りたく思うが舞台のみでは思い至らなかった。

天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

テレビの再現で取り上げているので分かっているが、映像では伝えられない生の緊迫感を観ることができました。そして、正面のない楽園の使い方が見事でした。

船を待つ

船を待つ

ミクニヤナイハラプロジェクト

吉祥寺シアター(東京都)

2024/03/23 (土) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

“現代版ゴドーを待つ人々”。その言葉とスヌーヌー主宰で劇作家でもある笠木泉さんの俳優としての久しぶりの出演に惹かれて観劇を決めていました。

ネタバレBOX

入ってまず驚いたのが吉祥シアターの使い方。岸辺から水辺を臨むように客席と舞台が配置されていて、舞台の「長さ」がそのまま物語における時の「永さ」に接続しているようで、不思議な感覚に導かれました。目に見えぬ時空を掘り下げ、扱う戯曲ならではの演劇の魔法に感嘆。
生と死のあわいにも、夢と現の瀬戸際にも思える船着き場で巡りあったり、あえなかったり、重なったり、重ならなかったり、おそらくは人の実体はない魂のような、精神のようなものが水辺で交錯してゆく様を3名の俳優の身体が豊かに伝えていました。終わりを待っているようにも、始まりを待っているようにも見える人々を前に「待つ」という言葉、行為が含むあらゆることに思いを馳せました。それは今起きているたくさんの出来事、出来事なんて言葉では足らない事件や戦争にも繋がっていて苦しくなる部分も。死んだ後と生まれる前、その二つはこんな風に船着き場のようになっているのかもしれない。対岸にいる人々を見つめ、自分もまた相手にとっては対岸であること、そこからこちらはどんな風にも見えているのだろうかと。そんな風にふと魂の行方についても考えを巡らせました。ラストの笠木さんの涙が生命を讃えているようで、同時にその透き通る水分そのものを讃えたい気持ちにも駆られて胸がギュッと。哀切と歓喜が同じ分だけ染み込んだ美しい横顔でした。観劇後、外に出る時に劇場は虚構と現実のエントランスであり交点なのだ、としみじみ。そんなことを改めて噛み締める観劇は久しぶりでした。
三人姉妹

三人姉妹

ハツビロコウ

小劇場B1(東京都)

2024/04/02 (火) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

暗めの照明、出番でない俳優が舞台奥の壁際のベンチシートに座って劇を見ている趣向。台詞はかなりカットされているようだがエッセンスは失われておらず、むしろシンプルでわかりやすくなっている。反面、すんなり流れすぎていて、例えば「わたし、わかっていた」の有名な台詞が意味を与えられずにあっさり通り過ぎてしまったような印象がある。
それにしても、3人はうまくいかない人生に終始イライラしていてほぼその姿しかない。

漸近線、重なれ

漸近線、重なれ

EPOCH MAN〈エポックマン〉

新宿シアタートップス(東京都)

2024/04/01 (月) ~ 2024/04/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

みずみずしい少年愛回顧青春劇である。内容は何度も繰り返されたドラマではあるが、表現が新しく、今風の風俗・会話も取り入れ、歌やパペットを上手く使うという小技も冴えて、新宿の夜を楽しめるスタイリッシュな小劇場作品となった。1時間半。
劇団主宰の小沢道成と、ゲスト俳優の一色洋平の二人芝居。地方から出てきた「僕」を一色洋平、僕が越してきたアパートの住人たち、家主の老婆(時にパペットで登場する)、跡継ぎの長男、部屋を斡旋した不動産屋、地元を離れず、結婚を知らせてくる高校時代の親友、隣に住む売れない漫画家志望の青年。いつも二番手までのホスト、なんかというと騒ぎの下になるインド人、そういう住人たちを小沢道成が一人で演じ、家主や地下に住むという珍獣のパッペト操作も担う。パペットを使い曲者俳優たちを揃えた昨夏の「我ら宇宙の塵」もよくできていたが、今回は二人芝居にしただけ引き締まった作品になった。
ヤオヤに組んだ板張りの壁に、形の違う窓が開いている。中央の一つだけは二人が窓顔を出せる大きさで、不動産屋が僕にアパートの部屋を見せているシーンから始まる。次々に窓が開いて住人たちが登場するが、一人一人よく工夫されていて面白く見られる。前半は地方から東京に出てきた二十歳過ぎの少年の一人住まいのドラマだが、現実とファンタジーを巧みに見せる。後半は結構す結婚すると知らせてきた「僕」の高校時代の親友の結婚式にどう対処するかを通して、青春後期のほろ苦い心情ドラマになる。帰郷すべきかどうか?
ストーリーそのものは奇をてらってはいないが、子供の頃ピアノを習っていた、等の小ネタを上手く使って音楽も効果を上げる。
場面の大道具に顕わされているように非常にスタイリッシュで、それが嫌みではなく、すっきりまとまっている。欲を言えば後半の締めが緩いところだろう。さらに言えば、これだけの技量があるなら、結局心地良い世界だけでなくもう一歩踏み出してみたらどうだ。
時代をリードする演劇人は、井上ひさしと蜷川幸雄。野田秀樹とKERA。新しいリアル派ではチョコレートケーキにIAKUとしばしば対抗組となって時代を作っていくものだが、いま新進の一方の雄、加藤拓也にはカップリングできる才能が見当たらなかった。小沢道成にはその役が担えそうなところも見える。須貝英を作者に迎えているところもいい。加藤拓也に三人がかりになってしまうが相手にとって不足はない。

第79回「a・la・ALA・Live」(ア・ラ・アラ・ライブ)

第79回「a・la・ALA・Live」(ア・ラ・アラ・ライブ)

a・la・ALA・Live

座・高円寺2(東京都)

2024/04/03 (水) ~ 2024/04/03 (水)公演終了

実演鑑賞

面白かったです。

新ハムレット

新ハムレット

早坂彩 トレモロ

THEATRE E9 KYOTO(京都府)

2024/03/15 (金) ~ 2024/03/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

観劇歴は長くありませんが、これまで観た中でも最高の舞台の一つでした。

第79回「a・la・ALA・Live」

第79回「a・la・ALA・Live」

a・la・ALA・Live

座・高円寺2(東京都)

2024/04/03 (水) ~ 2024/04/03 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

すごい楽しめました!昭和のかくし芸大会みたいでよかったです^^ 座長さん、今度は声の調子のいいときに観劇してみたいです。

かぞくのわ

かぞくのわ

道楽息子

アルネ543(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

いや観に来て正解、才能あるわ。『マグノリア』だよね、全くハッピーではないけれど。
開幕早々、寺園七海さんがぶちかます。成程、役者の調理法をよく判っている。寺園七海さんは武器を手に入れた。

家族、若しくは家族という概念に苦しんでいる人間の群像劇。産んだ子供を愛せない人妻デリヘル嬢。幼年期に受けた虐待の経験から恐怖のトラウマが常にフラッシュ・バック、それを克服しようと過剰に自分を偽り残酷に振る舞うもう一つの人格。

優しいお母さん、青海(おうみ)アキさんがMVP。母であり妻であり女である。
その夫、村山新(あらた)氏も好演。笑顔で「しゃぶって」。ゼットンとキングジョー(?)のフィギュアを握ってブチ切れる演出は最高だった。
長女、斎藤茜理さんは平均的な女子。
次女、蟹江煎さんは漫画家の才能があるトランスジェンダー。

売れっ子漫画家の羽田敬之氏は妻に先立たれ、娘の育児を含む家事を学生時代からの友人、久間健裕氏に任せている。久間健裕氏は本業がお笑いで、相方は寺尾みなみさん。まだペエペエのコンビ。
漫画雑誌の編集者、小林桜子さんの感情のこもらないボイロ風会話が面白い。

明知広樹氏は半グレのような生活で弟・古賀紘汰氏の大学の学費を賄っている。この明知広樹氏がガチの犯罪者の臭いをプンプンさせている為、兼ねているABEMAのお笑い番組の司会役の時に心底ホッとした。古賀紘汰氏は蛍原徹の髪型ですぐにパニックを起こすボーダーを好演。

陽キャ女子高生、清水未来さん。
眼帯をするシーンもある五月女(そうとめ)泉さん。
金髪のららしえら!さん。
青木理歩さんは義父の性的虐待に怯えている。

お茶を挽く人妻デリヘル嬢、冬野泉さん。
巨乳の雪月彩瑛さん。
今作の光である、福谷まるさん。

こういう鬱話の連打なのだが、退屈させない技量が凄い。キャラが皆立っている。人妻デリヘル店の待機している風俗嬢なんか、今作で一番解放されて見える。

鬱話でげんなりさせてオシマイの、その手の作品かと思い、当初観ようとは思わなかった。不幸の共有なんてもう腹一杯食い尽くした。だがいざ観てみると、驚く程希望に溢れている。痛みと優しさの共存。

『今度はオレらの番さ』The ピーズ

絶望なんか気のせいさ、全くよ
死んだ方がマシなんて、勘違いよ
Hey,Baby 冴えないまんまでも笑えるよ
相棒がいれば勘違いもしねえ

ネタバレBOX

子供を愛せず虐待を繰り返してしまう寺園七海さんの吐露に、福谷まるさんはその痛みを全部抱きしめてあげる。「それが普通だよ。」

一番の名シーンは狂った母親に殺されかかる程の虐待を受けてきた明知広樹氏が、ボロボロ涙を流し洟を垂らし同じ境遇の寺園七海さんの息子に語り掛けるところ。「お前がいるせいで母ちゃんはああなっちゃったんだぞ。」時空を超えて久間健裕氏も同じ場所にいる。二人がまるで会話をしているように心の痛みを決壊させていく。

浮気を繰り返す妻を奴隷契約で縛り付け、虐待し続けてきた村山新氏。そんなに歪ませてまで自尊心を保ち、家族ごっこを演じてきた自分自身の悲鳴に気付く。「離婚しよう。」どんなに嘘を重ねても心の傷は癒せない。諦めよう。

ドラマ的な悲痛な告白をタフな登場人物達は軽くいなす。「いや、家族なんてそんなもんだよ。」泣いたり喚いたりそんな特別なもんでもないよ。小説漫画TVドラマ映画、虚構に毒され過ぎなんだ。人間なんてそんな高尚なもんでもない。ちょっと知恵のついた猿。ほんのちょっとだけ。

『スーパーソニックジェットボーイ』THE HIGH-LOWS

俺には不安なんかない TVの馬鹿が煽ってる
トラウマの大安売りだ そんなに大したものかよ

どうでもいいじゃないか そんなことはどうでも
どうでもいいじゃないか そんなことはどうでも
天守物語

天守物語

SPAC・静岡県舞台芸術センター

駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場(静岡県)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/06 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「人間界と自然界の調和をテンポよく描く」

 3年ぶりに静岡に行きSPACの『天守物語』の初日(5月3日)を観た。「ふじのくに野外芸術フェスタ2023」での上演である。

 駿府城公園に入り城郭を目にしながら特設会場へと歩いていく、その道中からすでに物語の世界に入っていくかのような錯覚にとらわれた。奇しくも同日から玉三郎演出、七之助主演で同作が姫路城に組まれた平成中村座で上演されるというから面白い。

ネタバレBOX

 演者たちが鐘や太鼓を演奏しながら舞台上を交差する幕開けが、いかにもこれから宮城聰の芝居が始まるのだという気分にさせてくれる。原作通り天守から侍女たちが釣り糸を垂らして花を集める場面があるのかなと思いきや、そこはカットされいきなり客席側から富姫(美加理)が現れ天守へと帰っていく場面になる。白塗りで鯉のぼりの意匠が印象に残る着物を身にまとった姿に目を引かれるが、語りを担う阿部一徳がドスを利かせて、この美しい姫が異形の者であることが分かる。

 まもなく亀姫(榊原有美)の出になるが、ここで思いがけず岡林信康「山辺に向いて」がかかり驚く。思わず目を上げると薄暗がりの奥に尾根が見え、ここは自然のなかなのだと気がつく。亀姫の造形は幼くコミカルで笑いを誘い、その後の朱の盤坊(吉植荘一郎)が富姫への土産に差し出した人首の血を舐め回すグロテスクさとうまくコントラストがとれていた。

 とっぷり日もくれて月がこうこうと輝くなか後半の図書之助(大高浩一)の出になる。当初は警戒していた富姫が図書之助の無垢さ、まっすぐさに惹かれ、「返したくなくなった」と漏らすくだりに恋の実感が湧くが、玉三郎の富姫が高貴な女性が純真な若人に惹かれるという造形であったのと比べると、美加理・阿部の富姫はあくまで異形の者であることに力点があり、それによってこの二人に異界と人間界の結びつきというニュアンスがより強く出てくる。あとは原作通り城の者に追い詰められた富姫と図書之助が獅子頭に隠れるが攻撃を受けて一度は失明するものの、修理(山本実幸)の働きで光を取り戻して空を見上げる場面で幕である。最後にまた流れる「山辺に向いて」が冷たくなり始めた空気に心地よく響く。

「ふじのくに せかい演劇祭2023」の記者会見での私の質問に対する宮城の回答通り、本作は作品の時間軸はそのままに現代に合わせたテンポ感でスピーディに展開していった。テキレジもさることながらセリフ部分を担う俳優たちが泉鏡花の言葉をたっぷり語りつつも時折現代語を交えていたところも大きいだろう。いつもながら出演者による大陸的な雰囲気の音楽(棚川寛子)の演奏も躍動感にあふれている。久しぶりに、十二分にSPACの作品を堪能した。
三月大歌舞伎

三月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2023/03/03 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「珍品二題」

 各部珍しい狂言立で印象深かった。

 3月10日に観た第三部「髑髏尼」は大正6(1917)年に市村座で六代目梅幸、六代目菊五郎が初演した吉井勇の新歌舞伎。戦後では昭和37(1962)年に歌舞伎座で六代目歌右衛門、十七代目勘三郎で武智鉄二の補綴により上演されて以来じつに61年ぶりの上演である。今回主演の髑髏尼を演じ今井豊茂とともに演出も兼ねた玉三郎がパンフレットに寄せた言葉によれば、前回上演よりもより原作に近い形での上演を目論んだという。

ネタバレBOX

 源平合戦後の京都では源氏方が平家の反撃を恐れ街中の幼い子どもを次々に手に掛け親たちの悲鳴で溢れかえっている。海の向こうの戦争を想起させるこの幕開けはなかなかに重い。平重盛の上臈であった新中納言局(玉三郎)は忘れ形見の壽王丸を源氏の武士に殺され、亡き息子の髑髏を傍らに奈良の尼寺に入り、いつしか髑髏尼と呼ばれるようになる。彼女が堂内で蛇やトカゲ、サソリやヤモリの油を愛息の髑髏に注ぐというグロテスクな儀式をすると、そこになんと重衡の亡霊(愛之助)が現れる。つかの間重衡は彼岸へと還っていくのだが、この時舞台後方の幕が上がり数多の平家の武将の亡霊たちが浮かび上がる演出がなんとも荘厳で空恐ろしい。

 寺の鐘楼守の七兵衛(福之助)は髑髏尼をひと目見て以来恋い焦がれているが、顔に大きな瘤があり他の尼から毛嫌いされている。髑髏尼のいる堂内に忍び込んだ七兵衛は髑髏尼に一生の願いだから俺と一緒になってくれと迫る。激しく抵抗する髑髏尼をやがて七兵衛は手にかけてしまう場面で幕切れである。国立国会図書館に収蔵されている初演の上演台本と比較すると、後半部分が若干補綴されていることがわかる。

 まるで「ハムレット」「マクベス」「ノートルダム・ド・パリ」が合わさったかのような不思議な感触の物語だが、戦争の悲惨さやルッキズムゆえのコンプレックスが起こす悲劇など、現代に通じるテーマが幾重にも織り込まれていて見応えのある一幕であった。玉三郎の髑髏尼が剃髪してからも艶めかしい外見と、重衡の亡霊を呼び起こす場面で見せた怨念の対比を見せ、大抜擢の福之助が見せた七兵衛の未熟さ、狂気に走る若い男の悪が忘れがたい。脇では京の都の惨状を嘆く阿証坊印西を演じた鴈治郎が重厚で、都の烏は平家の血で生きているとせせら笑う烏男を演じた男女蔵の気味の悪い道化ぶりが目についた。

 千穐楽に観た第二部の忠臣蔵「十段目」は通しではまず外されるうえに見取りでの上演も極めて稀である。廻船問屋の天川屋義平が赤穂浪士の討ち入りのために調達した武具を追手から隠し通し、妻を離縁し子どもを手にかけようとしてまでも守ろうとしたその覚悟を見た大星由良之助が義平を認めるという筋立てである。

 芝翫の義平はその出から描線が太く、武具を隠した長持ちの上に鎮座し「天川屋義平は男でござる」と両手を広げて他を圧する名台詞をたっぷり聞かせていい。特に中盤で本来は味方であるはずの4人の追手たちとともに見せた立ち回りは緊迫感があり一番の見応えがした。女房おその(孝太郎)を強い調子で追い出しながらも心では泣いているという芝居を見せて、義平の心情がより立体的に感じられた。

 忠臣蔵の物語の要諦を成しているともいえる大曲「九段目」と、討ち入りを描いた「十一段目」の間の「十段目」は、忠義に尽くす庶民の覚悟を描いた物語といえるだろう。奇しくも今月南座で右近ら若手中心の「五段目」「六段目」を観たため、勘平の悲劇とシンメトリーになっているとも感じた。

 都合がつかず「リチャード三世」に着想を得たという宇野信夫作「花の御所始末」(第一部)が観られなかったことは至極残念。いつも出る古典も大切だが上演が稀な作品が出ることは観客として喜ばしい。再演が続き新しい観客が増えることで、また新たな伝承が続いていくことを願う。
猿若祭二月大歌舞伎

猿若祭二月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2024/02/02 (金) ~ 2024/02/26 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「初日の『籠釣瓶』」

 十八代目勘三郎の追善興行の初日に勘九郎七之助初役の「籠釣瓶」を観た。

 あばた顔の豪商佐野次郎左衛門(勘九郎)が吉原で見初めた傾城八ツ橋(七之助)を身請けしようとするも、八ツ橋が間夫の繁山栄之丞(仁左衛門)と養父の釣鐘権八(松緑)に強要され座敷で次郎左衛門を愛想尽かしをする。その後再訪した次郎左衛門は八ツ橋を手に掛けるという有名な「吉原百人斬り」をもとにした筋だが、近年性風俗産業で起きた殺人事件や借金苦の女性が売春に手を染めるといったニュースと相まり、遠い昔の出来事とは思えない現代性があった。くわえて、これまで私が観た吉右衛門福助、勘三郎玉三郎、菊五郎菊之助のコンビと比べ、今回は次郎左衛門と八ツ橋の年齢差に大きな開きがなく、ともに40代に差し掛かったばかりという若さが舞台に新鮮な風を吹かせた。

ネタバレBOX

 勘九郎の次郎左衛門はいい年になっても仕事ばかりで遊びを知らない素朴な青年といった風体で、こういうひとはどこにでもいそうだという実感がある。八ツ橋をひと目見て顔を震わせ、片足に重心をかけて傘を持ってきまるお定まりのポーズが、このひとの骨っぽく鋭角的な体つきと合致していて見惚れた。連れのふたりに自分がいないときに八ツ橋を買えばいいと悪気なく言ってしまうあたりの迂闊さが、吉原という人身売買の場の残酷さを浮かび上がらせる。八ツ橋の愛想尽かしに対して「花魁、袖なかろうぜ」で始まる愁嘆場は共演者が手練ばかりで盛り上がり、最後の殺しの場面で見せた凄み、あまりの変わりように身震いを覚えた。

 七之助の八ツ橋はそのキレイさもさることながら、見初めから愛想尽かしまでまことに芸容が大きい。しかしオモテの世界では女王であっても自分を金づるにしている栄之丞と権八に迫られるくだりや、愛想尽かしをして座敷を立ち去り木戸を閉じて手をかけたその形に、金に縛られて生きざるを得ない苦界の悲しさが出ていた。次郎左衛門に斬られ海老反りになって絶命する最期も余韻があっていい。

 この作品が面白くなったのは周囲が粒ぞろいだからでもある。松緑の権八はいかにも金にだらしなく無頼漢ぶりで八ツ橋を追い詰め、歌六の立花屋長兵衛と時蔵の女房おきつが舞台を締める。そして勘三郎玉三郎のコンビに付き合った仁左衛門の栄之丞の洗練された色男ぶりが、次郎左衛門の悲劇をより引き立たせた。愛想尽かしで次郎左衛門と八ツ橋を取り囲む人物たちに割り振られたセリフが劇的効果を上げていることにも今回初めて気がついた。

 若い感覚とアンサンブルで古典に新たな息吹が加わる、そんな場に立ち合える幸福に満ちた上演であった。
第79回「a・la・ALA・Live」

第79回「a・la・ALA・Live」

a・la・ALA・Live

座・高円寺2(東京都)

2024/04/03 (水) ~ 2024/04/03 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

バラエティに富んでいてとても楽しめました!
観客も含め会場全体で楽しもうという思いが伝わってくる
演目もあり思わず笑みがこぼれました。

 三月大歌舞伎

三月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2024/03/03 (日) ~ 2024/03/26 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「円熟の『御浜御殿』」

 真山青果が徹底した資料考証をもとに創作した『元禄忠臣蔵』は新歌舞伎の名作として知られている。なかでも1940初演年の「御浜御殿」は科白劇の傑作である。本作をたびたび手掛けた当代仁左衛門による綱豊を観るのは17年ぶり2回目である。

ネタバレBOX

 江戸城松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介を刃傷に及んでからおよそ1年あまり、次期将軍と目される徳川綱豊(仁左衛門)の別邸の浜遊びに、赤穂浪士の富森助右衛門(幸四郎)がやってくる。助右衛門の目的は、浜遊びに招かれている吉良上野介の顔を見ることだった。綱豊は助右衛門を呼び寄せ、浪士たちは浅野家再興を望んでいるのか、あるいは主君の仇を討とうとしているのか探りをいれる。この二人のやり取りが本作の白眉である。

 仁左衛門の綱豊は上の幕のお浜遊びでゆったりほろ酔いの様子の登場がまず周囲を華やかにさせる。中の幕で屋敷にブレーンの新井勘解由(歌六)を呼び寄せ浪士たちに討ち入りをさせたいと本心を打ち明ける、そのときに歌六の勘解由が「したり!」と返すその間が絶妙だった。

 いよいよ下の幕で綱豊と助右衛門のやり取りとなる。ここは幸四郎の助右衛門がいいから盛り上がる。この助右衛門はごく普通の朴訥な青年であり、彼が意地を張るほどに仁左衛門の綱豊がおおらかに包み込むような、遊ばれることを遊ぶような大きさを見せていて面白い。終盤で助右衛門が吉良と思い飛びかかろうとするところを静止するくだりも二人のイキが合っており、かつ仁左衛門のキレイさが際立って見応えがあった。
詩×劇 つぶやきと叫び~ふるさとはいまもなお~

詩×劇 つぶやきと叫び~ふるさとはいまもなお~

遊戯空間

上野ストアハウス(東京都)

2024/03/20 (水) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★


「言霊を舞台に乗せる」

 福島在住の詩人・和合亮一が、2011年3月11日の東日本大震災の発生直後からツイッター(当時)で発信した言葉を編み刊行し大きな反響を呼んだ原作を、過去にも和合作品を度々手掛けた篠本賢一が舞台化した。

ネタバレBOX



 冒頭、仮面をつけた女が佇む舞台に向かい客席後方から出演者たちが「黙礼」と題した言葉を読みあげ入場する。こうして和合が発した言葉の数々が、ギリシャ悲劇のコロスのような能楽の謡のような俳優たちによって重層的に、立体的に構築されていく。

 度重なる余震や緊急地震速報のアナウンス、福島第一原子力発電所の爆発による放射能被害など、13年前に観客の誰しもが震撼した災事が頭をよぎり、思わず身を震わせる。言葉を発することでかろうじて正気を保とうとした、和合に象徴される被災者の苦境に思いを馳せた。ただ警報音を用いた演出や災害を扱った内容であるため、事前のアナウンスは必要であったように感じた。

 物語は出演者が群読に合わせ鬼の面を被った女が舞うなか終わる。死者への鎮魂、中央政府への怒り、望郷の想いなどさまざま織り込まれていて圧巻であった。

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