冬に舞う蚊 公演情報 JACROW「冬に舞う蚊」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    全体を染めるのではなく個々を描き出す
    決して軽いテーマではないのですが、
    そのテーマに引きづられない、
    解像度の高いお芝居を観たとき特有の
    何かがすっと通ったような感覚が残りました。

    ネタバレBOX

    多分地場中堅の建設業者。
    設計畑から営業に配属になった男の死、

    弁護士を介して遺族と会社側での話し合いを軸に
    彼のいた会社や家庭の姿が浮かび上がってきます。

    社内の一色ではない雰囲気、モラルハザードが常態化した営業の手法、
    さらには男の家庭の事情・・・。
    それらが実直に舞台に積み上げられていく。

    それまでの技術と向き合う仕事から
    談合や賄賂といった現場の泥臭さに突然直面させられた男の当惑。
    嫉妬やセクハラ、さらにはパワハラといった職場の濁りの質感、
    さらには家庭を背負うことの重さや
    彼が家庭に求めたものまでが
    男を追い詰めていきます。

    舞台上にあるものに、
    社会風刺的な意図や批判が含まれていたり
    思想的なエッセンスが混じり込んでいたなら
    もっとずっと重いお芝居になっていたと思う。

    しかし、
    作り手はその状況にバイアスをかけたり
    舞台嬢の空気に色を加えることなく
    キャラクター一人ずつを
    丹念に描いてゆきます。
    会社の上司・同僚や妻にとどまらず、
    派遣社員、業者や贈賄先、
    さらには妻の弁護士やそのアシスタントにも
    それぞれが抱える背景が作り込まれ
    舞台上で解からて浮かび上がってくる。
    観る側に、様々な共感の断片が積み上がり
    その重なりの厚みやボリューム感のなかで
    一人の死のリアリティが形成されていくのです。

    彼の死を取り巻くものに
    ステレオタイプな概念や視点の重しがついていないから、
    観ていて不思議に風通しがよく
    善悪や正誤の恣意に染まらない。
    事実の織り目のようなものがくっきりと感じられて、
    だから、彼の死が何かに括られることなく残るのです。
    そこにはいたずらに観る側の視野を圧迫しない
    表現のしなやかさと説得力があって。

    もちろんこれが成り立つのは、
    個々の人物のそれぞれの刹那を描き切ることができる
    役者たちの力があってのことなのだと思う。
    でも、加えて、それらをぶれることなく
    ある種のこだわりを持って組み上げていった作り手の力量にも
    深く瞠目したことでした。

    まあ、ラストの部分には
    もう少し作り手の想いが乗っていても悪くなかったかもしれません。
    というか、若干のバイアスをかけることで
    伝わる部分がさらに鮮やかになったかなとも感じた。
    とはいうものの、観終って
    ひとつのことに思いをはせるのではなく
    様々なベクトルの想いがゆっくりとよぎって。
    主人公にとどまらず
    登場人物たちひとりずつの生きざまに
    心囚われておりました。

    劇団のこの数作で感じていた
    密度を作り上げる力の卓越に
    さらなる武器がそなわったように思えたことでした。




    2

    2011/01/10 11:06

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  • この1年、Jacrowのお芝居の密度にはずっと驚かされっぱなしでしたが、この作品では単に濃密なだけでなく、その先の淡々とした感触にも惹かれてしまいました。

    今後もとても楽しみにいたしております。

    2011/01/20 13:25

    コメントありがとうございました。
    いつもながらの深い洞察に基づく、独自の視点に感謝感激いたしました。

    これからも私たちにしかできない作品を発表し続けます。
    よろしければまた足をお運びいただけたら幸甚です。
    今後ともよろしくお願いいたします。

    2011/01/17 17:07

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