やわらかいヒビ 公演情報 カムヰヤッセン「やわらかいヒビ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ぬくもりのある冷徹さ
    物語の展開に観る側を離さない力があるうえに、ニュアンスをぼかさない表現の切れがあって。

    物語を裏打ちする冷徹な目と繊細でビターな感覚にしっかりと捉えられました。

    ネタバレBOX

    この劇団は客入れ時から
    舞台に雰囲気をつくるのが上手い。
    冒頭の教室のシーンに至る
    役者たちの舞台へのあがり方と
    客席のざわつきがそのままリンクして
    広い劇場をひとつの空間へと運んでいきます。

    教室の空気が
    すごくナチュラル・・・。
    数学コンクール優勝のヒーローが生まれた時の
    肌合いがとても自然で
    等身大を感じる。
    そこから広がっていく近未来の物語のエピソードたちが
    しなやかに置かれていきます。
    授業などをつかった時代の見せ方もウィットに富んでいて
    自然にその時間が肌になじんでくる感じ。

    ビターな物語だと思うのです。
    「アカデミー」内部の現実。
    外部の感覚と乖離した
    組織の価値観と
    内部や外部にある人々の姿が、
    したたかに
    人間臭く描かれていきます。
    せめぎ合う
    キャラクターたちに
    ぞくっとくるような心情の説得力があって
    物語をしっかりと下支えしていく。

    その中での教師と
    アカデミーへと招聘された
    妻の姿が幾重にも顕されていきます。
    関西弁の夫婦の会話が圧倒的。
    あるがままの「今」のなかでの
    それぞれの選択のずれが
    クロムモリブデン役者の底力を思い知るほどに
    解像度を操りながら観る側を取り込んでいく。
    繰り返して帰納法で表される「今」。
    最初はただの概念にすぎなかった「今」の存在が
    夫婦喧嘩のなかで
    鳥肌が立つような説得力を持っていく。
    「今」を見ることの安易さと
    そこから編み込まれ広がる
    邂逅に近い感覚が深く伝わってきて
    観る側を浸潤していきます。

    「今」を定める時間の掴みきれない軽さ、
    真摯に今を見つめようとする想いとすれ違い・・・。
    その原点から広がっていく過去の質感に
    帰れない時間におかれた帰納法の「1」との
    因果がすっと取り込まれて・・・。

    教師と会話を繰り返す
    白い服を着たキャラクターが
    やがて主人公の内心映し出し
    物語の姿を俯瞰し
    くっきりと照らし出していきます。
    時には雄弁に話し
    時には黙り込んでしまうそのキャラクターから
    今の質感にとどまらず
    作り手がもつ時間への冷厳さ、
    さらには言葉にできないような
    操りえなかった「今」が置かれた過去の質感までが染み入ってきて、
    その肌触りに深く掴まれてしまう。

    「アカデミー」という社会の構図にしても
    あるいは内なる想いにしても
    作り手の描き方に甘えや斟酌はない。
    でも、だからこそ、
    そのなかに芽生える世界が
    とてもクリアでピュアに感じられて。

    初日を拝見したのですが
    役者たちのお芝居が
    個々のニュアンスを鮮やかに伝えていて
    それにも瞠目。

    終演後に純粋でありながら複雑な感覚が
    ずっと残る。
    きっちりと焦点があっているのに
    柔らかく深く広がる感じ・・・。

    この作品、リピートができればとおもう。
    一度でたっぷり満たされながらも
    一度だけでは抱えきれない奥行きを感じたことでした。

    ☆☆☆★◎★△△

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    2010/10/06 07:24

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