坂本頼光 活弁ライブ 公演情報 博多活弁パラダイス実行委員会「坂本頼光 活弁ライブ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    座席1階7列1番

    価格3,800円

    ■第22回博多活弁パラダイス「坂本頼光 活弁ライブ」
    https://www.nishinippon.co.jp/kyushu_event/53678/

     いつもは大濠の福岡市美術館1階ミュージックホールで開催されている「博多活弁パラダイス」、今回は川端の博多リバレイン・福岡アジア美術館8階のあじびホールにて。間違えて大濠に行っちゃったお客さんがいないかちょっと心配。そのうち私もやらかしそうだけど。
     昨年も居島一平(大本営八俵)氏とのコンビで暗黒映画祭を開催してくれていたから、あまり久しぶりという感じはしないのだが、今回は完全独演会である。徹頭徹尾、坂本頼光オンステージ。ファンにはたまらないアフタヌーンなのであった。
     しかも今回は、「文化庁芸術選奨新人賞受賞記念」という肩書が付いている。そうなんですよ、えーと、頼光さん、デビューして何年だっけ。少なくとも十年選手ではあるはずで、今さら新人でもないだろうとは誰もが感じていたことだろう。お役所が世間の流行に疎いのは今に始まった話ではないが、ちょっと酷いね。
     頼光さんも内心、モヤッとしたものを感じてそうではあるのだけれども、せっかく大衆芸能としての活弁が評価されたのだから、これを拒否するのも勿体ない話なのである。前説で頼光さん、「電話で直接打診があるんですけど、あれ、断れるんですね」と仰ってた。
     ハテ、実は私の伯父もある功績が評価されて勲章貰ってるんだけど、断ったのに送りつけてきたって言ってたぞ。本当に断るには手間がかかるんじゃないかなぁ。なんにせよ、頼光さんが断らなくてよかった。「だって、芸術選奨断ったって言ったって、誰も信じないでしょう!?」と仰ってたが、然り、その通り。
     今回の前説は殆ど芸術選奨絡みの裏話だったが、多分、バラすと問題がありそうな気がするので、書くのはやめときます。知りたい人はやっぱり生の公演を観に来てね。

    ネタバレBOX

     今回の公演は二部構成。

    【第1部】
     実写+アニメ『太郎くんの汽車』
     PR映画『吾作ぢいさん』
     大河内傳次郎主演『血煙高田の馬場』
     ※伊藤ケイスケ・ソロ三味線メドレー
     (休憩)
    【第2部】
     阪東妻三郎主演『鯉名の銀平 雪の渡り鳥』

     第1部の映画は全部見たことはあるものの、多分、弁士は頼光さん以外の方だったので、改めて頼光さんのツッコミを交えての語りに大いに笑う。
     古い作品の古いがゆえの今の目からは間抜けに見える表現、これに突っ込むのは「トンデモ本」シリーズで唐沢俊一氏もやってた手だけれど、ちょっと心配になるのは著作権者が生きてたら苦情を言って来やしないかってこと。唐沢さん、実際に訴えられて絶版になった本があるし。まあ、昭和初期の作品ばかりなので、大丈夫だとは思うけれど。

     『太郎さんの汽車』は、確か前にも日記に感想を書いて、ウィンザー・マッケイ『リトル・ニモ』の影響を受けてるんじゃないかって指摘をしたんじゃないかと思う。再見して、夢のシーンでは肝心の太郎さんが殆ど出てこないことに気がついた。どうもアニメーターの人、人間にはあまり関心を持てなかったらしい。ともかく描きたいのは動物たちの狂態なのである。もちろん動物たちは汽車の乗客の比喩だから、昭和初期の乗客のマナーがいかに酷かったか、これを揶揄した内容になっているのである。子どもに向けて作ってるけど、観た子どもはオトナってだらしねえよなあ、って思ったのではないか。

     『吾作ぢいさん』は、税金免除になった(よっぽど貧乏だったのかな)吾作爺さんが、役所に乗り込んでひたすら「税金を払わせてくれ〜!」と騒ぐだけの映画(ちゃんとした映画だったのを、このシーンだけ抜き出して、トーキーだったのを声も消して無声映画に仕立てたものだとか)。真っ正直な爺さんなんだろうが、ただ「税金払わせろ!」と叫び続ける爺さんは単純にイカれてるよなあと思う。役所もとうしてこれが税金振興になると思ったのか。制作者の意図が謎な映画。

     『血煙高田の馬場』では冒頭でちょろっと若き日の伴淳三郎が熊さんだか八っつぁんの役で出てるんだけど、その声マネを伴淳のまんまでやりるのだよね。江戸っ子のはずなのに訛っている(笑)。
     でも若い人は伴淳って言っても分かんないんだろうなあ。「アジャパー」の人だよったって、アジャパー自体知らない。映画ファンは『飢餓海峡』や『どですかでん』くらいは観てるだろうが、どっちもシリアス演技で、コメディアンとしての評価は今ひとつな感じがある。
     この人も小林信彦の『日本の喜劇人』の犠牲者の一人で、すっかり「森繁病」に罹ってるってことにされちゃったからね。私はむしろ伴淳は森繁病から脱却できた人だと思ってたけど。訛りをどうしても治せなかったから、いっそ訛りで通そうとした人じゃないかって思う。

     いかんいかん、つい、伴淳の話ばかりしてしまった。
     メインの『鯉名の銀平 雪の渡り鳥』は『瞼の母』の長谷川伸の「泣かせ」映画。もう、ベタに泣かせに来るね。
     これもまた本邦では翻案されまくっている『シラノ・ド・ベルジュラック』の変形で、別に鼻が長いわけでもないどころか苦味走ったいい男の銀平(バンツマ)が、恋する女性・お市と本当は恋敵の優男・卯之吉とを結びつけるのに奔走する。ヤクザのホタテ組介入があって、敵の親分を殺しに行った卯之吉の罪を被って、銀平は牢獄の人に。「卯之吉とお市っちゃんが幸せになれば……」と覚悟を決めるバンツマの表情が素晴らしい。
     バンツマはトーキーになっても生き残った名俳優だが、やはり演技力の裏打ちがあってこそだったと実感させられる。頼光さんはもちろん、観客の涙をふり絞ろうと熱弁を振るわれるのだが、もう画面のバンツマの表情だけで泣けてくるのよ。

     総じて、頼光さんの受賞を祝うのにふさわしい珠玉の熱演だったと思う。次はいつ来福されるのかな。
     主催の上村さんが福岡から転勤されてしまって、遠距離公演になってしまったから、博多活弁パラダイス、これまで同様に頻繁に開催とはいかないかもしれない。
     福岡での活弁公演を支えられるのは、お客さん以外にはないのである。今後も機会があれば、ぜひご観覧をお願いしたい。

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    2025/04/21 03:38

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