タナトスの棲む町 公演情報 藍星良Produce「タナトスの棲む町」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。自分自身と向き合った自己分析・内省や人間観察、それを色々な形の「愛」や「恋」を切り口に描いた心象劇といったところ。その解ったような解らないような曖昧模糊とした感情を具象化しようとしている感じ。たびたび出てくる台詞「人は二度死ぬ。一度目は肉体の滅び、二度目はその人のことを覚えている者が誰もいなくなった時」だと。人が生きることとは、そしてその存在とは を劇中で語られる哲学的・心理学的とも思える台詞によって印象付ける。この公演、小難しい台詞もあるが、人の心の奥底にある魂の叫びのようなものを感じる。それを どう舞台化するのか腐心したようだーそれが舞踏と語り。

    冒頭は、2人の妖艶で幻想的な舞踊から始まるが、物語の途中でも突然 舞いだす。この舞い手こそ心にある二律背反の感情の表れ。1人(紫苑)は黒を基調とした衣裳、もう1人(茜)は白っぽい衣裳で、交差した時などは対照が際立つ。愛は男女の交わり(性)から始まり、この世に生を受ける。人は何らかの形で他者の評価を気にして生きている。人の肉体は滅んでしまえば忘れ去られるが、その評価(業績等)は後世まで語り継がれる。その意味で芸術は直接的に生き甲斐を感じることができる。物語は演劇活動を行っている者たちを描いており、まさに等身大の人物が息衝いている。
    (上演時間1時間40分 休憩なし)【Lycoris】 4.12追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、紗幕を正面そして上手/下手の壁に向かって斜めに張る。やや下手寄りに丸テーブルと椅子2脚。もともとあまり広いスペースではないこと、そして舞踊を行うため空間を確保している。この舞踊、感情というか人の内面、外面を擬人化したような存在で、その語りが己の選択を…そして物語に潜ませたサスペンスのようなことと相俟って不思議な魅力を漂わす。

    物語は、劇団を主宰している穹良が恋人 翔太の死を嘆き落ち込んでいる時、墓参りで彼の妹 凪と再会したところから始まる。人間は恋愛に狂うこともあれば嫉妬に狂うこともある。その持て余した感情の はけ口はどこか。凪は、兄 翔太を慕っており穹良に良い感情を抱いていない。そのことを知らない穹良は悲しみを共有するかのように劇団の脚本家 四宮を紹介する。凪は四宮に惹かれ親しくなっていく。一方、穹良も四宮を頼りに…。後世に残したい「作品(脚本)」作りに集中している四宮、その彼を巡る2人の女性の愛情と嫉妬、そして自分は何者なのかを自問自答するような懊悩が心を揺さぶる。

    劇団には雨華という女優と映像で活躍している東雲という男優、その2人が等身大の芸能(劇団)人物像を立ち上げる。台詞に込められた意味を理解しようとする真摯な姿から多少スキャンダラスなことをしてでも有名になりたい。先の三角関係の重苦しい関係とは違い、あっけらかんとした乾いた感覚が対照的に描かれている。そして、こちらも肉体関係を重ねるが深みにはまらない。その愛(感情表現)の違いは何であろうか。
    人はいつか死ぬ、翻って それまではどう生きるかが問われている。昨今 注目され出した?死生学、まさに愛の形を切り口にした死生観を描き出している。

    俳優陣は総じて若いが、性格と立場をしっかり立ち上げている。特に、舞踊をしながら2人の語りが哲学的であり、物語を奥深いところまで導いてくれるよう。この演出が妙。幻想的であり、時に妖艶な肢体をくねらし(婀娜やか)性的な匂いを漂わす。同時にピアノの力強く弾くような曲が流れ、感情のうねりを感じさせる。死を意識した生、その生き甲斐が男と女によって少し違うような、そんな微妙な感情も垣間見える好作品。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/04/11 17:35

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