実演鑑賞
満足度★★★★★
すこぶる満足である。70周年企画での「どろろ」が実質私の初ひとみ座観劇であったが、あの感触に近い舞台の空気感があったのだ。同じひとみ座でも幾つか観ると風合いも多様で、本領を発揮するのは壮大な叙事詩と深い人間ドラマ、マクロとミクロが錯綜する「どろろ」や本作のような舞台。秀作であった「モモ」と同じ佃典彦脚本、舞台処理の目の醒めるような工夫といい、演者の演技、人形操作といい、申し分なかった。
ディストピアを描いた作品だと知りながら、結末がどこへ着地するのかと私とした事が不安に揺さぶられる思いであったが、最後に迫害を逃れた僅かな者たちが遠い空へと送る希望の眼差しに、同期したものである。(それだけ危機が現実味を帯びて来たと感じているのかも・・)
ちなみに本作のあらすじを知ったのは「100分de名著」で。
糸あやつりでない人形劇団であるひとみ座では人形のサイズがせいぜい実寸の三分の一といった所であるので、糸操りのように遠くからは見づらくなく、人間と共演した場合の落差も少ない。本作では主人公の男は人形と、時にその声を担当する客演者・高橋氏自身が形代を抜け出た人格として演じる。
私にとってひとみ座舞台の最大の特徴は、人形操作の都合上、台詞と台詞、また場面と場面の間に少し間があくことがあるのだが、演技が切れていないという事なのか、間合いも含めて味わいが感じられる事。「どろろ」の時はこの「間」が実に堪えられない味を出すので、不思議な気分になったものである。
本作でもそんなこんな全てが「美味しい」のでその一部でも紹介もしたい思いが走るが、説明が難しいので早々に諦めている。