実演鑑賞
満足度★★
デビューして間もないころ、松井大悟の劇団の舞台で見た。十年前。下北沢の小劇場だったが、この再演は本多劇場だ。それだけに、大筋は変わっていないが、細かいところに手が入っていて、今風の男優に当てて直したところでは一群の若い「推し」女子客だけがどっと嬌声を上げる。尤も全体の入りはやっと半分というところで、この作者も難しいところにきている。
芝居は一時期はやった引きこもり族の純情愛物語で、外側には自己愛的なセクハラ、パワハラ、暴力が張り付いている。そこは風俗的なのだが、ドラマが10年たつと照準が合わなくなる。
三十近い男たちが純情を寄せるコンビニ女店員の日々の生活をのぞき見して話し合っては自己愛の完結を共有する、というのでは、長持ちがしない。今のご時世ではノゾキは即犯罪でご用になりかねない。その為にボール紙で外から見えないようにのぞきあなをつくる、などという小細工からして嘘っぽい。その思いの描き方が異常、暴力、セクハラと紙一重というところで描かれていたからで、かつては当時の若者風俗として容認されていた。
引きこもり族全盛期にはある種のリアリティはあっただろうが、時代がこの芝居を難しくさせている。
ゴー値ブラザーズの長塚圭史も阿佐スパの時代にはこういう青年期の客気充満の身勝手ドラマで売り出したが、これではどうにもならんと方向転換した。面白い物である。10年たって、再演でみると言うことはあまりないことだが、考えさせられることもある公演だった。