プシュケーの蛹 公演情報 中央大学第二演劇研究会「プシュケーの蛹」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    学生演劇らしく柔軟な発想、瑞々しい感性、そしてアップテンポに展開する好公演。一見すると荒唐無稽な物語だが、2024年度卒業公演として タイトル「プシュケーの蛹」に込めた思いは しっかり伝わる。しかし、気になることも…。
    (上演時間2時間10分 休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は二層の立体的な造作、上部は外であり下部(板)はアパートの室内や怪しげなBARを表している。両壁に白レース、上手にソファ・中央に机状の置台・下手にカウンターを設えている。所々に不揃いな文様のようなものが、後から考えれば 鱗粉か? この美術からして混沌としたイメージ。

    物語は、卒業公演らしく1月下旬から3月下旬までの59日間を描いた青春の旅立ちを思わせる。説明にある漫才トリオ 小西・中山・大野の3人は、アパートでシェアハウスを始める。このアパートは曰く付きの居抜き物件で、前の住人の残した物は処分できない。その1つがアンドロイド、その名は<るり>。
    3人は小学校からの友達、その親しみもあって 大野が中山と小西を誘って漫才トリオを組んだが、その思い入れ 真剣度が違い 生き方(目標)にズレが生じだす。そのキッカケになったのが、<るり>の存在。この生き方を巡る3人の激論がリアル。このシーンが無いと3人のそれぞれの行動の意味が暈け面白味が感じられない。ここを膨らませるのかと思ったが…。

    <るり>は、同じアパートの2階に住んでいる 研究員が勤めている 研究所の所長 大和の一人娘。8年前の暴風雨の日、家族3人でドライブしていたが 事故で海中に転落。大和だけが生き残り、妻は行方不明、娘るりは死亡。大和は るり の肉体をアンドロイドとして蘇らせたが、その耐用年数が8年。その期限付きが 物語の肝。そして妻は幽霊として、この世を彷徨っている。

    大野は、お笑い芸人を目指しているが、未だバイトを掛け持ちし日々悶々としている。或る日怪しげなBARで飲んだ酒で幽霊が見えるようになる。小西は、中学生(天文部)の頃から宇宙に興味があり、ひょんなことから宇宙人マカオンネリウスと出会う。そして大和の研究所(バイト)で働き始める。中山は、<るり>が起動しなくなる=メモリ(記憶)が消えるまでの59日間を一緒に過ごし、色々な世界を見て回ることにした。何か記憶が消えない方法がないか、それが宇宙人による未知の科学技術と幽霊の魂を融合させ<るり>を存続させようと。ここに 3人の物語が収斂してくる。

    記憶は過去、時間は未来といった台詞は、空間的な広がりと同時に、宿命は変えることが出来ないという非情な現実を突きつける。たとえ<るり>の記憶が消えても、一緒に過ごした中山の心に<るり>の思い出が残り、彼の心の中で生き続ける。ラスト、蛹になった中山の姿は<るり>の思い出と溶けあったイメージ(プシュケーは「魂」だけではなく「蝶」の意もある)。人と人の繋がりは死んでも なお思い出を抱き続ければ、その人の記憶、魂は消滅しない。いや いつか一体となって舞えるかも…。

    演出…最初と最後は日常風景をスロームーブメントで表現し、一転 不思議な街へ引っ越して来てから出会う個性豊か 奇妙な人々は、舞台装置を上がり下がりするなど躍動感があり、生(活)きていることを体現している。ただ演技は少し粗く、その力量に差が観えたのが惜しい。ラストは大きい白布で舞台を被い3月の雪景色、そして白布を中山の体に巻き付けて蛹を表すといった余韻付け。照明は夜空に輝く星々といった幻想さ、音楽はポップな曲を流し心地良い。

    さて、タイトルは <るり>を巡る物語を示し 展開もそれを中心に描いている。しかし説明では 3人のこれからの生き方 幸せを見出していくとあり、どちらがメインなのだろう。「混沌が安寧をもたらしている」(⇨構成であり世界観の意だろうか)といった台詞があったが、このカオス(アンドロイド・幽霊・宇宙人や奇妙な人々)がバランスを保っている なんてことはないと思うが。この柔軟・斬新さも有かも知れないが、王道的な描き方も出来たような。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/03/09 17:23

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