実演鑑賞
満足度★★★★
数年前の再演のプロダクション。建築現場の足場のような鉄骨の組み立てのみの舞台。いつもいつもト書き通りのオーソドックスな演出ばかりだと飽きてくるから時々は現代的・前衛的な演出も望まれるというのは理解できる。ただ、その路線でどんどん行くと、舞台上の情景と歌詞の内容とが不一致・矛盾するようなことになるのが避けられない。誰も歩いていないのに「暇つぶしで通りを歩く人々を眺める」だとか、警察官なのに「伍長」だったりとか、建設現場だかライブ会場だかわからないがとにかく一般人の姿が見えない場所に突如子どもたちの一団が現れて歌い出したりとか、自然ではないことが舞台上で次々発生する。こういう路線の演出なら歌詞の内容との不一致・矛盾はやむを得ないことだが、それが気になってしまうとせっかく名曲揃いのオペラ「カルメン」の音楽を十分に味わえなくなる。個人的には、音楽鑑賞の邪魔になるような演出は勘弁して欲しいと思うが、今のところ、演出が邪魔だと思ったら目を瞑って聴くしかないようだ。
総合的には、先月の二期会の公演のほうが良かったように思う。演技は二期会のほうが優っているし、歌唱は本公演も遜色ないが時々声が良く通らないことがあった。オーケストラの音量とのバランスの問題かもしれないし、劇場の音響特徴なのかもしれないし、歌われる場所の位置関係や方向の問題なのかもしれない。ミカエラ役とエスカミーリョ役はすばらしかった。演出はもとよりこういう路線なので何とも言いようがないが、ラストの第4幕は違和感が否定できず、もう少し本来のストーリー設定に寄ったものでも良かったのではないか。フランス語のセリフがわりと入る点はむしろオリジナルに近いのでは。