実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/03/07 (金) 18:00
今回の中央大学第二演劇研究会2024年度卒業公演『プシュケーの蛹』というタイトルだけ見ると、現代舞踏集団群舞公演だと思った。
しかし、実際観た公演は良い意味で裏切られて、混沌(カオス)としていて、アンドロイドに幽霊、宇宙人、さらに街の奇人変人で超個性的でアクが強い住人が舞台狭しと主人公3人とそれぞれ出会い、それらが複雑に絡み合っていて、最後のエンディングに向かって突っ走る。泥臭く、青春で、もどかしいまでのアンドロイドとの純愛の要素も絡まり、観念的、哲学的な劇でなかなか面白くて、その独特な世界観に引き込まれた。
小西、中山、大野の三人はトリオでお笑いコンビを組んでいるが、目指す方向性や目標、将来像が違う。劇が進むに従って、小西は研究所でアルバイトを始めると宇宙人とひょんなことから出会い、大野は昼は骨董屋で夜はBARという明らかに胡散臭くて怪しげなBARのマスターに勧められるがままに飲んだお酒の効果によってか不思議と幽霊が普通に見えるようになった。
そして劇の最初のほうで小西、中山、大野がシェアハウスを始めたアパートの中で見つけたアンドロイドるりを造った技術者を探そうとただの優しさから捜索を始めた中山が、アンドロイドるりと一緒に過ごすうちに、59日でるりとの現在の記憶が全て消えると分かっていながらも、本気でるりに恋をしていった。
劇の途中から、るりが実はある豪雨の日に研究所所長が運転する車に乗った家族諸とも崖から海に落ち、海難事故で所長のみ助かり、娘のるりは遺体で見つかったが、人間として生かせないと知った所長はアンドロイドとして娘のるりを蘇らせ、今の技術では永久に生かせる程の高性能なアンドロイドは無理だと断念しつつ、現在の技術ではこれが最大限といった限界レベルでアンドロイドの命を持たせるといったような、アンドロイドるりを造った研究所所長や所員たちの思惑や、過去、所長の娘や妻に対する未練や後悔が滲み出ていて、アンドロイドるりの新事実や秘密が次々に暴かれていき、驚き、感動した。
そして、終盤アンドロイドるりに対して純粋な愛を感じるようになっていた中山は新事実や秘密を次々と知り、とうとう耐えられなくなってるりと車で逃避行する。そういった状況の時に、小西が宇宙人との交流のことや大野の幽霊の話が全然違って進行していたようで、ここに来て仲間の中山とアンドロイドるりを探そうと、街の人たちも巻込み、一致団結し、繋がってきて、大変興味深く、良い意味でこれぞ混沌(カオス)だと感じた。
何気に宇宙人や幽霊、アンドロイドやゴーストバスターズが街の景色に溶け込み、街の人たちに紛れ込んでいるのがさも普通といった感じに描いているのが、藤子不二雄のSF(少し不思議)な感じで緩く描いているのが、ある種の究極の多様性であり、何かじんわりと不思議な暖かさを感じた。
ただし、純愛的なのは良いが、最終的に中山だけ蛹になることで、アンドロイドるりとの出来事を覚え続け、忘れないようにしようとするのは違うと感じた。それは、観念的、哲学的な終わり方としては良いかもしれない。
しかし、アンドロイドるりとの想い出を引きずって諦めたか思考停止しているようにしか見えない蛹になるという結末よりか個人的には、娘と妻を海難事故で失って、娘をアンドロイドとして蘇らせ、妻の幽体をアンドロイドるりに移植せんとする研究所所長がアンドロイドるりの本当の持主で、元所長の娘だとしても、アンドロイドるりを真に愛しているのならば、中山が研究所から奪還し、きつく抱きしめ、涙が止めどなく溢れると、何かの拍子にアンドロイドるりが自らの意思を持ち、記憶が停止していたのが一気に蘇る軌跡が起き、ハッピーエンドというほうが良いと感じた。
また、今回の劇は、ファンタジーでSFで、混沌(カオス)としていて、哲学的なのは良いが、闇陣営が出てこないのが物足りなく感じた。学生演劇にしては、プロとしての才覚があり、学生演劇に特にありがちな、内輪乗りもなく、大いに笑えて、感動もでき、とても良くできているだけに、残念だった。
起承転結もしっかりと出来ていたが、惜しいと感じたのは、やはり闇陣営が出てきて、闇陣営によるリンチ(爪を剥がす。無論本物ではない。眼を刳りとる。本物でない墓石で叩く。鞭打ち。緊縛。本物でない指を叩っ切る)により息も絶え絶えの状況に追い込まれる等、残酷な場面、瀕死の場面、今まで信頼してた筈の仲間に裏切られたり、宇宙人の仲間の宇宙タイムパトロールに追い掛け回されたりと言った、激的だったり、緩急の激しい場面を入れ込むと、より劇に振り幅があって、完成度が高まると感じ、これからも劇作家の人には、プロの劇団を立ち上げて、書き続けてほしい。期待しています。