視点 vol.1 Re:TRANS(MU×ミナモザ×鵺的) 満員御礼、審査発表をblogにて公開しました! 公演情報 視点「視点 vol.1 Re:TRANS(MU×ミナモザ×鵺的) 満員御礼、審査発表をblogにて公開しました!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    原典を広げる力
    どの作品にも、ベースにある「トランス」の世界に対する実直さがあって。
    一方で作品ごとに、作り手の鋭利な感覚が伝わってきました。

    個々の作品の品質に加えて
    企画としても、とてもよい試みだと感じました。

    ネタバレBOX

    初日を拝見。

    「トランス」はずいぶん昔にサードステージ版(記憶が間違っていなければ)で観ています。

    その時に感じたものが、個々の作品を観る中で、実直に蘇ってきて。
    なおかつ、作り手の更なる創意をとても力強く感じることができました。

    ・ミナモザ 「スプリー」

    物語の入口は不条理な感じすらして・・・。
    患者と肋骨を折ろうとする女医の感覚、
    さらには主治医と女医のつながりの焦点があわない。

    でも、主治医と女医の関係、
    そして主治医と患者の関係には腑に落ちるものがあって、
    質感がざっくりと編みあげられていくなかに違和感がない。
    そして、気がつけば、
    男と女医の間にも
    太くて不思議な説得力をもった関係性が
    編み上げられているのです。

    ボーダラインの感触、
    依存、憎悪、無関心、哀願といった
    女医の内心の変化に目を奪われているうちに
    いくつもの「理由」の枠組みが
    観る側に取り込まれている。
    一見乖離した医師たちの関係性と主治医&患者の関係性が
    次第に編み上げられて立体感をなしていく・・・。

    受け入れられないことと受け入れること・・・。

    物語のふくらみの中で、
    冒頭の女医と患者が醸し出す理不尽さも、
    霧散して
    女医が肋骨を折るというシーンが
    観る側にとってすら成り立ってしまう。


    物語の様々な部分に違和感はあるのです。
    でも、その違和感を受容させてしまうような関係の重なりにこそ、
    心を捉えられて。

    終盤、女医との関係を受容していく男の姿に、
    もう違和感やバラツキはない・・・。

    ラストシーンに、
    ひとつの世界の形成と
    淡々と柔らかく
    なおかつ濃密な空気を感じて息を呑みました。

    ・鵺的 「クィア K」

    冒頭からある種の閉塞感が漂います。

    女性の従属の行き場のなさ。男のいらだちともう一人の男のとまどい。
    そこには観る側をも立ちすくませるような濃度があって。

    その緊張感が緩む中、
    男たちの会話が生まれ、
    世界が少しずつ解けていきます。
    二人は男娼とその客であることがわかる。
    二人の女性に対する想いの表れに
    バイアスの掛かり方の違いのようなものがあって
    そこからさらに世界が解けていく。

    女性は揺らがずに貫くのです。
    その貫きの確かさがあるからこそ、
    男性の内側から滴るものがある。

    それぞれの表層にある乾いた感じが次第に崩れ、
    内側に潜んでいたものが場を染めていきます。
    一様に滲んでくるわけではない。
    時には沈黙や無表情から、
    あるいは怒りからそれぞれの色が醸成されていく。

    そこには、
    「スプリー」の組み上げられていく感覚と真反対に
    解けていく中で醸成される広がりがあって・・・。
    女性の鳥肌が立つような貫きに加えて
    男たちがそれぞれに抱える深い戸惑いが
    強くしなやかに伝わってきたことでした。

    明らかにデフォルメされた世界があるのに
    人間の生臭さのようなものまで
    緻密にやってくる・・・。

    舞台上の空気感にも圧倒されました。



    ・MU「無い光」

    二つの作品に比べて、
    観る側にとってナチュラルな質感を持って
    物語が流れていきます。

    雑誌のインタビュー、
    編集者との会話のなかで、
    次第に編み込まれていくるものがある。

    他の2作品とが刹那を切り取った印象があるのに対して
    この作品には、時間への俯瞰があって、
    そのことが、物語をしなやかに広げていきます。

    本来の3人芝居にもう一人の人物を加えることで
    物語のコアにある感覚が
    照明を当てられたがごとく
    浮かび上がってくる。
    従前の2作品では、
    ある種のバイアスをかけることによって抽出されてきたものを、
    この作品では4人目の登場人物が
    しなやかに強く押し出していくような感じ。

    観る側は
    次第に明らかにされていくものを
    そのままに受け入れながら
    個々のキャラクターが持ち合わせていたものを
    ナチュラルに受け止めることができる。

    そのベースがあるから、
    物語の世界がさらに踏み込む部分が
    とてもくっきりと伝わってくるのです。
    観る側と同じ空気を持った世界のボーダーに、
    他の2作品と同じような、
    作品の原典がもつ
    それぞれの想いの関連と憑依、
    さらには死につながる狂気との境目が
    したたかに醸し出されていく。

    他の2作品とくらべて、
    語り口はいたって馴染みやすいのですが、
    そこには、しっかりと深く残る肌触りがあって。

    時間の軽さや重さの質感を
    しっかりと感じることができる作品でもありました。

    *** ***

    全部の作品を観終わって、
    それぞれの醸し出す世界が
    ことなる色で
    ある共通の感覚を醸し出していることに
    瞠目。

    それぞれの作品が
    恣意的にそうなったのかどうかは別として、
    他の作品を照らす力になっているようにも感じた。
    個々の作品の力量に加えて
    3つの作品が作りだす
    共通部分と異なる感触の綾織りにも
    深く心を奪われたことでした。

    とても秀逸な試みに満ちた公演であったと思います。

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    2010/09/26 10:48

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