イッセー尾形の右往沙翁劇場 2025 in 福岡 公演情報 イッセー尾形事務所「イッセー尾形の右往沙翁劇場 2025 in 福岡」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2025/02/02 (日) 15:00

    座席1階e列8番

    価格5,500円

     タイトルには「2025」とあって、実際、公演は2025年の1月31日(金)〜2月2日(日)なのだが、全国巡業は昨2024年から行われており、そのシリーズとしては福岡公演が最終公演、千秋楽である。
     イッセーさんは、毎年必ず、八本の新作を制作、八人の全く別のキャラクターに扮して、全国九都市を巡回する。北は北海道から南は福岡、たまに九州各県に。昨年の「妄ソー劇場」も終演は福岡だった。そうして一年が終わると、次の新作に取り組む。イッセーさんは殆ど再演を行わないので、その年の舞台を見逃すと、もう一生、その年のキャラクターに出会うことはない。まさしく「一期一会」の舞台なのである。チケットが完売するのも宜なるかな。
     毎年、通しでテーマが決められるのも十年前の独立後のイッセー舞台の特徴。今年はタイトルにも「沙翁」とある通り「シェークスピア」であったが、実際に舞台を観てみると、どこにシェークスピア要素があるのか全然分からない。老人教師やバスガイド、神主さんや紙(お面)芝居屋や流しのギター弾きなど、イッセーさんの演じるキャラクターは多彩だが、シェークスピアの戯曲に登場しそうな人物はただの一人もいない。
     イッセーさん曰く、「予習は一切必要ありません」とのことだから、多分、最初からシェークスピア云々の話は釣りのフェイクだったのかもしれない。
     実は各編ともにイッセーさんの深遠な意図があるのに私が気が付かなかっただけならまことに申し訳ない。

    ネタバレBOX

     全公演のラストだからと言って、イッセーさんの演技に緊張感は見られない。軽妙洒脱、当意即妙なのはいつも通り。
     ただ、毎回一人はいた、心底悪辣な人物、でも外見は穏やかな善人で、舌先三寸で他人をだまくらかして、実は陰で笑っているような詐欺師的人物、天性の偽善者(映画『沈黙』での長崎奉行みたいな役ね)は、近年とんと見かけなくなった。
     他人を意図的に騙す役には膨大なエネルギーが必要になる。イッセーさん、全国ツアーで何十公演も演じ続けるのは厳しいと避けたのかもしれない。

     今回、目立った役は、これもイッセーさんの舞台ではお馴染みの「世間の常識からちょっとズレてしまった人物」である。ズレているけれども、それで人見知りしたり慌てふためいたりはしない。実に堂々と、そのズレを押し通そうとする。常に俺が正しいんだと押し通す、歩くパワハラみたいな人物た。現実にいたら迷惑だし鬱陶しくてたまらないが、舞台上で見ている分にはひたすら可笑しい。
     例えば病休の息子の代わりに中学校の教壇に立つことになった、老教師。七十歳は超えてそうだが、滑舌もはっきりしているし、頭脳も明晰だ。ただ、知識が30年くらい昔で止まっている。おかげで、教える内容も教え方も全くの的外れ。1492年にコロンブスはアメリカ大陸を発見してないし、1192年に鎌倉幕府は成立してないんだよ、と突っ込んでやりたくなる(苦笑)。
     ここ十年のイッセーさんの持ちネタ「雪子の冒険」、役に扮するための仮面を、台の上にたくさん並べた中からなかなか探し出せずにオロオロするのはいつものパターンだが、毎回思う。イッセーさん、ホントにお面をどこに置いたか忘れてないか。アドリブ芝居はアクシデントすら笑いに変えてしまうことがしばしばだが、「雪子の冒険」はその頻度が高いのである。
     コント一つ一つの解説をしてたら書く時間も膨大になるし、体力も消耗するのでこの辺で。イッセーさん、髪の毛はすっかり真っ白になってしまわれたが、舞台上の動きはまだまだカクシャクとしていらっしゃる。また来年も一人芝居の舞台で福岡に来て頂きたいと思う。

     公演後のサイン会で、妻が亡くなったことをイッセーさんに伝えた。ワークショップに参加していた頃は、妻が一番丸々としていた時期で、あのあと妻はどんどん痩せて30キロも減量、力石徹並にガリガリになってしまった。ペンダントの写真を見せたが、誰だかピンと来なかったかもしれない。亡くなったのが半年前だと言ったら、イッセーさん、「もうちょっとだったのにね」と仰った。また会いたかったなって意味だろうか。だとしたら嬉しい。
     来年もイッセーさんはきっと福岡に来てくれるだろう。私もあと数年は生きていたい。

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    2025/02/03 01:26

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