実演鑑賞
絶対観たくてチラシもとってたのに気づけば完売...でも運良くキャンセル分に滑り込めました。観れてよかった。
二人芝居だけど、"二人"にとどまらないいくつもの視座、から見るこの世界は、闇は、夜は、本当にどうしようもなくて越えるのを諦めたくなる。
けれど、加害と被害の可能性を等しく持ち合わせている人間が、なるべく沢山の私たち人間がそれを自覚するところからしか夜明けは始まらない。自分の経験したことのある怒りや哀しみや虚しさ。登場人物の中を揺蕩うその感情に吸い寄せられながら、果たして自分はその経験を誰かに乱反射していないか、と身につまされた。
私の場合は大いに心当たりがあった。ハラスメントの裁判をしていた時、自分がされて深く傷ついた言動をそのまま家族に放ったこと。友人に上司からの圧迫の悩みを打ち明けられた時に自分が傷ついている時にはされたくない、もはや励ましとは言えない励まし方をしてしまったこと...。
多分まだまだある。気づいてないことも含めたら途方に暮れそうなほどある。
「加害者」「被害者」という言葉のみには収まりきらない、あるいは収めてはならない様々をあらゆる角度から照射していた作品だった。つくるのにも、演じるのにも、観るのにもエネルギーのいる作品だった。苦しかったし、痛かったし、そんな風に他者を苦しめ、痛みつけることが自分にもできてしまうことを痛感した。「今この瞬間も映画や演劇の世界で実際に起きている暴力」がテーマとして通底している物語だったけど、映画や演劇の現場に限定されない問題であること、人が二人存在すれば起き得る生活や人生への脅威、私たちの誰もが日常的にそれを手にしているということ。とてもこわかった。
だけど、絶対に観られてよかった。
言葉を発している時だけでなく、相手が話している時にみるみる歪んだり、緩んだりしていくその表情がとても雄弁で、二人の俳優の表現力に舌を巻きながら、同時に、この表現をただ消費してはならないとも強く思った。
昨年観た演劇で「加害者の再生がドラマティックに描かれた作品」としか私には受け取れず大変くらったものがあった。一方的に割り振られた闇と光に目眩がしてその経験からこういった題材を遠ざけていた節もあった。それでも私がこの演劇をどうしても観たかったのは、かねてより業界で起きている暴力に声をあげていらした港岳彦さんや桜木梨奈さんに共感し敬意を抱いていたからです。
この題材を扱う限り誰も傷つけないことは難しい(しそう思うこと自体危険だ)けれど、この方々が恐らく様々なことを覚悟して表現されるのだから絶対観なくてはと思った。ということを明確にしたいと改めて感じた。演劇について書くことのあるいち文筆家として。そして、被害と加害どちらの経験も、可能性も持つ者として。
夜が長すぎて途方に暮れるけれど、このお話も今起きていることもここで終わりというわけではない。
だからこそ観る意味がある演劇でした。
(こういった題材と体感から「満足の度合い」をつけることが自分の中でそぐわないため、満足度は空きとさせていただきますが、観ることができ本当によかったという点では星5です。)