可能世界(哲学用語) 公演情報 シアターX(カイ)「可能世界(哲学用語)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★


     テアトル・カナはポーランドからやってきた。色々な意味で現代ヨーロッパの苦悩と限界も感じられる作品である。華4つ☆

    ネタバレBOX

    2024年創立45年を迎える劇団である。特徴は身体重視に重きを置く点だ。今作は隣国ウクライナにロシアが攻め入りその国土の一部を併合しようとして戦争となったことが、ポーランド国民にとって極めて大きなショックを与えたことが大きな要因となったことを如実に示している。戦争当事国では無くその隣国であることで戦禍に追われる当事国より精神的には微妙な問題を抱えるに至ったのかも知れない。というのもポーランドの歴史は独ソにより国土を分割され支配された厳しい歴史を抱えホロコーストの絶滅収容所をその国内に抱えていた傷も負っているからである。ヨーロッパの多くの国同様、ポーランドもカソリック教徒の多い国だから信仰の問題も絡む。そして一神教信仰は総ての事象の原因を神を基に据えることで本来人間が発明したに過ぎないと理性が教える神に、人間が負うべき世界の食物連鎖最上位生物の全責任から逃がす役割をも果たしてしまう。このまやかしが実際には人間という存在が引き起こした地球規模で益々深刻の度合いを増している総ての当に待ったなし状況に対処することを阻んでいることは真っ直ぐ世界を観る目を持ち常に本質を捕まえようと努力しバイアスを排除することに力を注いでいる者なら誰でも気付くことである。
     それは人間に因る環境破壊(生態系破壊、温暖化、パンデミック、原子力産業総てに纏わる重大な汚染・破壊、人間に制御し得るか否かの分からないAI技術やIT技術の暴走、エネルギー利用過多等々の問題を突きつけている。
     その結果、作品内容は、先月9月14日に、世界初演をあうるすぽっとで実現した東京演劇アンサンブル創立70年記念に作家、デーア・ローアが書き下ろした作品「ヤマモトさんはまだいる」と共通点が多いように思えた。但し表現方法は可成り異なる。カナは身体表現に集約することに重きを置くのに対しローアの戯曲はもっと歴史や社会科学的知にベースを置き客観化を目指しているからだ。前者が身体的即ち自死を含む内面的苦悩やそれを根とする深い内省から生み出される実存的知であると同時に時代の知としてのAIにも活路を見出そうとするのに対し、ドイツで主として活躍するローアの持つ方向性はあく迄人文学的知である点で東京演劇アンサンブルの提起した危機感とテアトル・カナの持つ危機感には明らかな共通性があると思われるが、矢張りこの危機感は日本に暮らす我々も同様の与件である。にも拘わらず日本人は彼ら程危機感を持たない人間が多いと思われる。現在最大の我々の問題は当にこの鈍感にある。

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    2025/01/21 02:02

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