実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/12/12 (木) 14:00
座席1階
とてもよかった。映画になった原作を戯曲に翻案したのは父がホロコーストの生存者というデジレ・ゲーゼンツヴィ。日本初演というが、まずはこの戯曲に注目した民藝の勝利だ。さらに、気鋭の演出家・小笠原響が担当したというところで、出色の出来になったのだと思う。
終戦前夜のオーストリア・ウィーンで、ヒトラーに心酔する少年が連合国の爆撃で重傷を負った。この家には少年の母と祖母がいて、父はゲシュタポに連行され行方不明。母と祖母は息子がナチスに洗脳されていることに閉口しているが、家族として息子を懸命に守ろうとする。
少年があるとき、母の秘密に触れる。実は、ある若い女性を隠し部屋にかくまっていたのだ。この女性はユダヤ人。とんでもない事態にうろたえた少年だが、女性との間で感情が揺さぶられていく。
ナチスに反するようなことはすぐに密告され、公開処刑されるような社会情勢。表ざたになればゲシュタポによって一家惨殺ということにもなりかねない。だが、母は少年の前で毅然とふるまった。まず、こんなところに感動の波が来る。
もちろん、メーンは少年と女性の群像劇である。終戦を迎え、ヒトラーが自殺するに至り、少年が取った行動は痛ましい。ユダヤ人の女性ももちろん戦争の被害者だが、ヒトラーに洗脳させられた少年も被害者だ。当時の社会の状況に、やるせない思いが募る。
回転する舞台を設定し、一家の居間、隠し部屋のある居間の続きの部屋、そして少年の寝室と円を3分割して舞台の進行に応じて回し、テキパキとした舞台転換を実現。役者の出入りも無駄のない動きだったが、暗転の時間がもう少し短いともっとリズムが出たのではないか。
そして、新人を少年と女性役でそれぞれダブル主演として抜てきしたのが成功している。自分が見たのはAチームの一ノ瀬朝登、神保有輝美。特に一ノ瀬は経験も浅いというか、17歳という設定だったためか、その初々しさが実にフィットして青春期の心の動きがストレートに出ていた。かたや、神保は10年余のキャリアを積んでいるが、感情の出し入れがうまく、全体的に落ち着いた演技で、これも自由を渇望するユダヤ人の若い女性をうまく演じていた。
今回、劇団の看板である日色ともゑは認知症気味の祖母役として脇に徹した。世代交代を印象づけようとしたのではないと思うが、新しい劇団の姿を見せてもらったようですがすがしかった。