実演鑑賞
満足度★★★★★
ウンゲツィーファ10周年公演であり、本橋龍の最新の長編作品。上演時間に及び腰になっている人にほどおすすめしたい作品でした。140分どこを切り取っても不可欠で少しの弛みも感じなかった。俳優陣の大健闘に思わず感涙。
一見8の字を辿るかのように同じ繰り返しに見えても"淡々とした日常"など本当はどこにもないのかもしれない。その往路と復路の途中で人と人は時にすれ違い、ぶつかり、時に重なり、交わり生きていく。それぞれの幸福を追求しながら、それぞれの不幸に戸惑いながら。
8は横にしたら∞なのだ、とそんなこともふと思った。ハード面ソフト面ともに細部に凝らされた工夫と饒舌な行間に演劇の無限の可能性を幾つも見た。
「普遍的な時の中でこそ人の心は泡立ち、擦れ、やがて波となり、いつしか予想もしないうねりとなっていく。感情の発端と経過に目を凝らし、耳を傾けなければ生まれようのない風景。その痛切と祈り。生活の隙間に落とされたものを決して落とされたままにしないウンゲツィーファの演劇を私は追い続けたい」
そうコメントにお寄せした通り、いやそれ以上に生活の隙間に落とされたものが掬い上げられていた。それは救いであり、禊ぎであり、過ちでもあり、祈りでもあった。
それら瞬間を余すことなく切々と演劇に取り込む本橋さんは劇作家や演出家というよりも演劇作家という言葉が本当によく似合う。素晴らしかった。