現代韓国演劇2作品上演「最後の面会」「少年Bが住む家」 公演情報 名取事務所「現代韓国演劇2作品上演「最後の面会」「少年Bが住む家」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    『少年Bが住む家』

    ある韓国の田舎町、自動車修理店を営む家。母親(鬼頭典子さん)、父親(横山祥二氏)、20歳の息子デファン(八頭司悠友〈やとうじゆうすけ〉氏)が朝食を囲んでいる。変に気遣った妙な雰囲気。向かいの家に引っ越して来た妊婦の奥さん(横幕和美さん)が挨拶に訪れると、慌ててデファンは屋根裏に隠れる。奥さんの職業は講師で父母教育のワークショップの勧誘をする。家族がより良く在る為にはそれぞれの役割を改めて学ぶ教育こそが必要だと。その話に目の色を変えて食いつく母親。胡散臭く思う父親は話を打ち切って帰らせる。ソウルに暮らす28歳の娘ユナ(森川由樹さん)から電話、「サプライズがあるの!」と。帰郷して来るらしい。

    韓国のチープな歌謡曲が場面転換ごとに流れる。日本だと昭和50年代位の雰囲気。

    少年凶悪犯罪を犯した息子を持つ家庭。地元では白眼視され陰口を叩かれているが父親は意地でも引っ越さなかった。被害者遺族に謝罪したいものの面会を拒否されてそのままに。

    鬼頭典子さんは流石の芝居。かんのひとみさんとがっぷり四つで絡ませた芝居なんか観てみたい。
    猫背でおどおどした吃りのデファン役、八頭司悠友氏は元弾丸ジャッキーのオラキオっぽい。
    横山祥二氏もリアル。生活に疲れ果てた悲愴感。
    森川由樹さんは韓国人女性っぽい。パックのシーンが良い。
    横幕和美さんは有能なコメディリリーフ。
    厳しく冷徹な保護観察官役の藤田一真氏は松岡修造と秋山成勲のブレンド。実にいいムードを作っていた。
    少年B役の中田翔真氏は衝撃的なシーンを刻み付ける。デイヴィッド・リンチ作品やラース・フォン・トリアーの『ハウス・ジャック・ビルト』を連想させる狂気。

    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    作者はイ・ボラム。T-ARAにチョン・ボラムという娘がいて、Bo-Ramという名前は出生当時ヒットしていた『ランボー/怒りの脱出』(Rambo)から父親が名付けたと昔聞いた。他にもボラムという名前はよく見るのでそれか本当だったら凄い話。

    14歳、中学生の時に同級生をリンチ殺人したデファン。穴に死体遺棄して少年院に懲役7年。模範囚として一年半早く仮釈放、自動車修理店を営む実家に戻る。毎週保護観察官(藤田一真氏)が面談に来る。父親は自分の仕事を手伝わせて一人前の修理工にしようとする。母親は息子がこんな事件を起こしたのは自分の育て方に責任があったのだとずっと自身を責め続けている。姉は被害者家族が済州(チェジュ)島で暮らすことをFacebookで知り、謝罪の機会を設けようと考える。デファンは事件当時の自分、少年B(中田翔真氏)の幻影に今も悩まされている。少年Bは親友を殺めたデファンを許さない。死んで詫びるしかないと責め立てる。自殺以外に罪を償う方法はない、と。到頭デファンは首を吊る。

    詳細がハッキリしないリンチ殺人。仲間達のルールでは家族の話が御法度だった。家族(ヒューマニズム)への愛憎がより残虐な行為を生む。強く在る為には弱い奴を残酷に踏み躙らなくてはならない。ヒューマニズムを克服せねば。

    保護観察官の語る、旧約聖書の「ヤコブの相撲」のエピソード。双子の兄を裏切り故郷を捨て社会的成功を収めたヤコブ。数十年後、兄に謝罪して和解する為に故郷へと戻る旅につく。苛まれる罪の意識の恐怖に怯えながら。夜、川の畔で眠っていると突然神の使いに襲われる。夜明けまで一晩中格闘したヤコブは決して諦めず負けなかった。神の使いは「お前の名前は今日からイスラエル(神と闘う者)だ」と天啓を授ける。
    ここでの「神」とはどうしようもない「宿命」のことだろう。自分ではどうにも出来ない運命を「これこそが自分の人生である」と受け入れて生きること。それが「神と闘う者」の意味なのだろう。

    筋肉少女帯の『戦え!何を!?人生を!』が脳裏に流れ出す。人を殺して服役していた男が出所。絶望の果てにふと灯りが点くように気付く。この全ては自分に与えられた運命だ。何も選びようがなかった。これこそが自分に与えられた役割だ。否も応もなく世界でただ一つ、これが俺の人生だ。自分に割り当てられた宿命を受け入れた時、人は心から自由になる。やるべきことが見える。

    デファンは死にきれず病院に担ぎ込まれる。退院後、被害者遺族に謝罪に行きたいと家族に告げる。ただの自己満足か?遺族の心は癒えないよ。それでもデファンは謝罪したいと言う。許されない罪を許して貰おうとは思わない。ただページをめくらなくてはいけない。

    いろいろ考えさせられる作品であったことは間違いない。だが作品の完成度としては疑問が残る。それぞれの役に対する役者の作り込みが凄いのだが何か作品全体としてはバラバラに見えてしまう。皆独り芝居で勝手に自分語りをしているような。最高の食材を用意したのだがただ鍋に突っ込んでごった煮にしてしまったような勿体無さ。何か最後までこの家族の物語にのめり込めなかった。一つ一つのエピソードがバラバラにばら撒かれているような。

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    2024/10/10 17:00

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