失敗の研究―ノモンハン1939 公演情報 秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場「失敗の研究―ノモンハン1939」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ノモンハン事件は戦後も長く一般的に知られることが少なかった事件で、そういえば、報道されたのは70年代だったか、と思いだした。その後、史実が明らかになってみると、事件は、中国北西部の砂漠で39年に起きた日ロの衝突で、ここで、日本陸軍は初めて装甲陸軍の威力から大陸戦争の難しさを知り、以後、陸軍は手薄の東南アジアに進出、難しいところは海軍任せでもっぱら内部抗争に明け暮れて、上層部全員が43年には負けると承知してからも二年間、国民はほっておかれ、大きな市民の犠牲を出したあげく敗戦を迎える。という日本現代史は概ね日本人は誰でも経験し、若い人も知ってはいる。しかし、この事件が、テストケースになり、関係軍参謀らは口を拭って終戦まで無事な戦線を廻ったと言うことはあまり知られていない。そのあたりのリアルな歴史事実のスジ売りの復習が第1幕1時間半で、ここは、どうと言うことはない。古川健らしくなってくるのは2幕からである。
    物語の枠取りが70年代の発掘記事掲載する雑誌編集部にとられていて、始めての女性記者の登場と、事件の日本的構造は今の時代にも伝わっていることを巧みにつなげている。
    この芝居に主演の女性編集者(藤井美恵子)が「男性は戦争の話になると生き生きする」という台詞があって、古川健らしい上手い台詞だと思ったが、ジェンダーをからめて今の時代の戦争にまでふれているところがさすがだ。最後の、日本が戦後80年、先進国やG20も含めて唯一銃を取っていないことも指摘していて、こういうところはするどく的をえている。
    このドラマが描いた事態への批評はとてもこの場や、一夜の芝居見物で果たせるものではないが、それでも、こういう無謀な歴史の事実を思い出すことには大きな意義がある。例えば、昭和二十年代に高市早苗が今と同じ意見を言えば殺されかねない国民の怒りの対象になっただろう、そういう民族の底辺の記憶にまで達しているところが古川健らしさである。
    この舞台の良いところは一点ここだけで、スタッフ・キャストも手を抜いたわけではなく全力を尽くしたのだろうが、全般には情報を伝えるのに忙しく、チョコレートケーキの終戦シリーズのような現代劇としての成熟に乏しかったのはやむを得ない。この劇団としては
    大きめのサザンシアターだがやはり客席は薄い。失敗の研究、というのはなかなか出来ないものではあるが、60年も続いたという劇団ならでは、と言うところもあって欲しい。今回は古川健を、とにもかくにも連れてきて、ノモンハンを話題にしたたことを評価する。


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    2024/09/19 12:02

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