ヤマモトさんはまだいる 公演情報 東京演劇アンサンブル「ヤマモトさんはまだいる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ドイツを代表する劇作家デーア・ローアーの文明批評、人生観のエッセイみたいな作品。東京演劇アンサンブル創立70年の為に書き下ろしたものでスイス・チューリッヒ国立劇場との世界ダブル初演。この後、ドイツ・シュツットガルト州立劇場での上演も控えている。
    音楽は晩年の黒澤明映画を支えた池辺晋一郎氏81歳!
    「貴方方はヴァーチャルな仮想空間をせっせと創り、そこに魂を移そうとしている。全ての欲望が充たされる夢のような嘘の世界。その嘘に依存して醜い“現実”を捨て去ろうと。正気?You talkin' to me?」

    廻り舞台で基本時計回りに回る。白い部屋、黒い部屋、白い部屋、黒い部屋と4つ。登場人物やシチュエーション、会話の内容に脈絡がないので初め観客は混乱していく。ある街の人間模様のスケッチのような。

    ドイツのアパート、空き部屋を見に来た林亜里子(ありす)さん。半開きのドアから入ってみると、そこはガランとした空室。だがそこにいたニノ(永野愛理さん)がこの部屋は空いていないと言う。「ヤマモトさんはまだいます」と。

    隣室のヤマモトさん(志賀澤子さん)と会った話をパートナーのエリック(雨宮大夢氏)にするニノ。身体の衰えた孤独な老婆。その内に家に招待する。引きこもりの姪(福井奏美さん)もやって来てヤマモトさんの半生を聴く。別れた夫は製材所を経営、フリークライミングが趣味だった息子は山で亡くなったという。

    永野愛理さんは美青年、大股開きでどっかと座る。衣裳・稲村朋子さんのセンスなのかシャツとズボンとスニーカーの色合いが抜群。濃いブルーをアクセントに。
    雨宮大夢氏はガリタ・プロデューサーみたいなメイク。二人の設定はゲイのカップルなのか?男装女子みたいなのも普通にあるのでよく判らない。
    宮山知衣さんが凄くいい女だった。
    仙石貴久江さんが出ていないのが不思議。

    ネタバレBOX

    印象的なシーン。

    ラジカセで曲を流しながら自作の詩の朗読をする男(菊地柾宏氏)。やたらメモの順番を間違える。

    三木元太氏と原口久美子さんが社交ダンスのポーズを決めながらの会話は子供が大受けしていた。

    林亜里子さんと宮山知衣さんが鴨に餌をやるというシーン、スポンジで出来たベーグルを観客席に千切っては投げ千切っては投げ。客席大受け。

    ギルバート・オサリバンの『アローン・アゲイン』が延々と掛かる中、電話で友人と話し続ける宮山知衣さん。窓から見える向かいの部屋の男に恋をしているようだ。

    事業で成功した女(原口久美子さん)が青木鉄仁氏にセラピーを受けている。貧しかった未成年の頃、母親の命令で男達の家を回って性的奉仕をしていたこと。その中の一人、裕福な盲人の引き出しから金を盗もうとして捕まったこと。しかもその告白にも嘘があるようだ。

    煙が上がる自動車をじっと眺める宮山知衣さん。手助けに入ろうとした二宮聡氏は制止される。「保険が下りるまで燃え上がるのを待っている」と。炎上する車をぼんやり眺める二人。

    辺鄙な地で小さなレストランを始めたニノ。店に侵入され落書きされている。「こいつら豚野郎」と。何かカウリスマキの『浮き雲』を思い出した。

    デーア・ローアー作品は『宇宙のなかの熊』、『 黒い湖のほとりで 』を観ていて凄く面白かった。まさか今回、この系の作品とは···。いやこれ映画ならカットの切り替えで何とかなったかも知れないが演劇としては難解。巧くやればウディ・アレンやジム・ジャームッシュ、エミール・クストリッツァになったかもなネタ。それには笑いが不可欠。とにかく力技で観せて、後々全体像を納得させるしかない。力が足りないと中期ゴダール、評論家以外は皆寝る。笑いとエロと暴力は寝させない為の調味料。哲学談義は忍ばせないと意味がない。ただ断片が舞っている。

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    2024/09/14 21:53

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