雑種 小夜の月 公演情報 あやめ十八番「雑種 小夜の月」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     身につまされる観客も多かろう。何れの役者も自然体で良い演技をしているし、生演奏は無論のこと、照明も良いし、等身大の脚本、演出もグー。

    ネタバレBOX

     板は可成り長い長辺の両側を客席に挟まれる形で中央に位置する。平台を用いて構成されているが板に上がる為階段を一段設けてある。片側に神宮の鳥居、鳥居対面に竹林がある。竹林の前には演奏者席。
    舞台は地方にある神宮の団子屋の名店を中心に展開する。伊勢神宮や気比神宮には及ばぬものの神宮の格式は無論神社より高く可成り由緒のある社殿もあり、祭りは盛大である。この神宮の神官は非常に面倒見の良い人で皆から慕われた人格者であったが、盆の時期に急逝した。ところで地方では盆は旧盆を指し旧盆には祭りを催し先祖の霊を迎えて皆で祭りごとをするのが習わしである。この神宮の神官は、この人の人格の気高さからか或いは神職という職業柄か単にヒトに対してのみならず弱いもの総てに対して温たかく接し、放っておけない性格でその様はまことに神々の齎す慈悲の如きものであったから神宮には何と37年も生き続ける猫・小夜を始め8匹の野良猫が飼われていた。そして長生きすれば尾が割れて妖怪にも変化すると言われる猫の小夜には不思議な能力も備わっていたのである。その能力とは、追い詰められて苦吟するものがあると普段は決して鳴き声を上げないのに鳴くことであった。皆からおんちゃん、と親しみを込めて呼ばれる神官は生涯独身を通したが若い「息子」が居たのも小夜がこの「息子」が神宮の前に捨てられていることを彼に鳴き声で報せ保護させたからであった。この物語の中核を為す神宮周縁の土産物屋の中での名店団子屋の当代夫婦もおんちゃんの世話になって目出度く現在の幸せを掴んでいた。というのも日本には良くある家を継ぐことに纏わる問題で愛し合う二人の関係は本家同士の婚姻の障害として立ちはだかり本人同士は人柄といい、家格といいまたその能力といい双方の親、親族も認める良い関係に在りながら、唯一点、互いが本家であり長子が家を継がねばならぬと互いの親・親族が考えていることだけが結婚を阻害していたという事情があった。為に愛し合う二人は追い詰められ切羽詰まって駆け落ちを選ぶ。その時にも小夜は鳴いた。おんちゃんは、救いの手を差し伸べ団子屋の長女の実家の直ぐ目と鼻の先にある神宮の居所に恋人たち二人を住まわせることにした。この時既に長女は妊娠しており約半年後には臨月も近づき実家及び連れ合いの姉らも新たな命の誕生を愛でる気持ちにもなり、また本人達同士も血気にはやった心情から距離を置くことが出来るようにもなって御家制度より大切な皆の幸せを享受する道を選ぶこととなった。実家に戻った長女はやがて娘を産んだ。この子の誕生が溶けかけた氷の関係を一気に融和に導き両家の関係も正常化する。
     この他おんちゃんと養子の関係を結んだ捨て子の貫太郎も子供の頃こそ苛めにあったりもして精神的危機を迎えたこともあったものの、真の子として育ててくれたおんちゃんの心根の意味する処を理解するに至り素直に父さんと呼べる迄に成長した。他にも団子屋の親族で女医を営む弓が結婚もせずに独りで年老いた母の面倒を観てきたものの老いの所為で様々な問題を起すようになった母の面倒を見続けることが限界に達し、施設に預ける道を選んだ時に強固に反対を表明した今は団子屋の女将となった母とその娘たちとの骨肉を分けた者同士の争い等、どの家も必ず抱えている深刻極まる問題群を、何とか自分たちの知恵で解決し人間として生き抜く姿が、旧盆の祭りを背景に既に命の灯の消えた者たち、未だ灯し続け霊を迎える者たちの盆故の交流を通して浮かびあがる。そこに響く小夜の鳴き声。
     誰もが抱える人生の難問をさりげない日常風景に溶け込ませて描き温かい人情で解を導く優れた脚本を自然体で演じる役者陣の演技、演出も良い。また祭りの雰囲気を盛り上げる生演奏も効果的である。

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    2024/08/12 04:17

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