吐くほどに眠る 公演情報 ガレキの太鼓「吐くほどに眠る」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    半生を語りきる力も凄いけど
    押し込めた感覚も、
    端折られた雰囲気もなく、
    語られていくものの厚みに引き入れられて・・・。

    戯曲や表現方法、
    さらには役者たちの秀逸からやってくる
    女性の半生のボリューム感に魅入られつつ・・・。
    でも、そのふくらみから
    精緻に浮かびあがり
    溢れだしてくるものの質感、
    さらには、
    あからさまになった深淵と向き合う
    女性の姿に訪れる心情にこそ、
    息を呑みました。

    ネタバレBOX

    開演前から、
    役者たちがときどき舞台で衣裳を扱ったり・・・。
    やがて舞台中央の台に6人の役者が乗って・・・。

    舞台上手に座った女性の語りから
    物語は始まります。
    その語り口が、いきなり飛びきりのしなやかさ。
    誘いこまれるがことく
    彼女の世界に包み込まれる。

    女優達によって演じられる記憶たちが
    冒頭の女優の語りに束ねられていきます。
    エピソードの一つずつに
    その女性の個性が織り込まれて・・・。
    幼少時代の記憶、彼女にとってやさしい兄へのあこがれ、
    母親への想いと、母親からの距離感。
    ランドセルのこと、
    縄跳び歌とともに広がるその時間たち。
    断片から、家族の肌合いが浮かび上がる。

    やがて中学生になって、
    兄の引きこもりの顛末や
    母親が出ていくシーンの違和感なども、
    しなやかに織り込まれていきます。
    さらには高校生になって
    男性とのこと、サークルや友人のこと、
    バイトとのこと、そして就職のこと。

    彼女の匂いを感じさせる表現が
    時間の流れにむすばれていく。、
    役者たちが舞台上で衣裳を次々に変えながら
    ロールを組み替えて演じていくことで、
    舞台上に様々なアスペクトと変化が生まれていく。
    その広がりが
    そのまま彼女の人生の質量というかボリューム感として
    伝わってくるのです。

    すべてが暗い色合いに塗りこめられているわけでもなく、
    明るい刹那もしっかりと描かれていきます。
    幼いころの毎日も、世間から見れば格別不幸だったわけではない。
    学生の頃のことにしても
    バンドの抜けるような明るさに目を奪われたり・・・。
    (演奏がしっかりと作りこまれていてびっくり)、
    花嫁衣装を夫に見せる時の小芝居の
    心浮き立つ感じなど、
    どこかこっぱずかしくて
    観る側までときめかせてくれる。

    でも、それらの日々が浮かぶのと同じ肌合いで、
    彼女の奥底の満ちていない部分が
    自身が解きほどく記憶のなかに
    しなやかに込められていて。

    その欠落感にゆがめれた事象たち、
    兄の留学や母の出奔への誤解、
    遠距離恋愛の拒絶、友人への依存、
    就職を決め方も・・・。
    抱えきれず溢れだすそれらの感覚が
    ときには深くから滲みだし
    あるいは突出して観る側を染めていく。
    きっとそれは、
    そこまで語って部屋に戻る
    語り部が思い出すのと同じ色をしていて・・・。

    そう、そこまでが、
    そこまでに語られ描かれているから、
    結婚後の時間を思い出す彼女の内心も
    観る側にそのままに伝わってくるのです。
    兄の留学のことも、
    兄の死のことも、
    自らの抑制から離れるように
    満たされない部分に流し込まれる自責の想いも、
    抑制の出来ない部分が招いたその事件のことも・・。

    終盤の、彼女から醸し出される想いには、
    冒頭から綴られる物語の背景を悟った観る側を、
    さらにしっかりと捉える力がありました。
    最後に彼女からやってくるものは
    観る側にとって、
    言葉に置き換えたりとか、
    涙を流したりとか、
    怒りを感じるとか
    そんなことができるほどシンプルな感覚ではない。
    しいて言えば、感覚の失せたような、
    立ちつくすような、
    抑制できないものに
    抗い疲れたような感じなのですが、
    それは、彼女の半生を潜り抜けない限り
    きっとわからない(表現されえない)類の質感にも思えて。

    彼女の遺書のような手紙の言葉や、
    そのあとのひと時の所作の間が
    すうっと腑に落ちて息を呑みました。

    よしんば、
    話題となった前回の公演とは違ったテイストであっても、
    この作・演出の手練、
    さらには浮かび上がらせる空気や質感の非凡さを
    終演後の余韻のなかで
    しっかりと再認識することができました。

    まあ、作品として、さらに昇華する余白が
    皆無ではないとは思います。
    初日の常で、
    前半は役者にかすかに空気を探るような部分も
    感じられたり・・・。
    でも、公演を重ねるに従って
    必ず伸びていくお芝居でもあるようにも思う。

    APOCシアターも
    慣れれば
    思ったほどは遠くない劇場でもあり・・・・。

    木崎さんの語り口には、
    最初の一行からがっつり魅せられるし
    お芝居を貫く存在感を感じるだけですごい。
    他の役者たちの舞台を構成する力も秀逸で、
    張りをしっかり持った演技や、
    主人公の半生の質量を感じる段階で、
    もう、常ならぬものにたっぷり満たされて・・・。

    そして、終演前の長い暗転に至るまでのあの想いは、
    この舞台でしか、体現できない気がする。

    ほんとお勧めの一品かと思います。

    ○○○●●◎☆☆

    0

    2010/08/20 14:16

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大