実演鑑賞
満足度★★★★
過疎化、海洋汚染、出生前診断や移植における倫理的問題、不同意性交、そして、母の不在によって家事、家業、妹の育児を一手に担い、進学を諦めた姉の姿にはヤングケアラー問題の側面も色濃く映写されていた。初期作品とあり、調べたら初演は10年以上前。その段階でこんなにも多くの喫緊の題材が扱われていたことに驚くとともに、自分の鈍さを痛感もした。そして、未だそれらほとんどに解決や正解が見当たらないことを改めて目の当たりにするようで目眩を覚える。あらゆる考えが乱立する社会で一つのことを定義する難しさよ。
そして、iakuの作品を観るといつもその前提に必ず人間の野性があることを思い知らされる。本能というよりも野性。涼しい顔をしたり、知らないふりをしたり、いろんな理性でふたをして生きている人間の中にされども絶えずある野性。ひとたび流れ出したら途轍もなく早く、止まらぬ激しい野性。
必要以上の負担と責任を負わざるをえない状況にある姉と否応なくその恩恵を受けるしかない状況にあった妹。いずれものどこにも流せぬ思いが濁流の如く押し寄せて決壊を迎えるシーンでは、その水圧に流されぬようにと流木を掴むような思いだった。もちろん掴む木などはないので掌を握る他なかった。痛くなるほど握っていた。田舎で生まれ育ち、姉と妹をもつ。そんな自分としては、知っている景色やいつか知る景色を見せられている様でもあり、耐えきれないほど解像度の高い衝突だった。
そして、本作なんといっても俳優・異儀田夏葉さん が凄まじい。どのシーンをとっても圧巻だった。(以下ネタバレBOXへ)