『口車ダブルス』 公演情報 劇団フルタ丸「『口車ダブルス』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    劇団俳小の『ゴールデン・エイジ』が急遽公演中止。折角なのでこちらに伺った。

    脚本が抜群。頭一つ図抜けている。一人ひとりの人間の魅力を余す所なく書き連ねている。ちょっと単調な展開もあったが、「悪そうな奴とは大体契約」の笑いで帳消し。

    二つの可動式の高座、二つの釈台、各々に張り扇(おうぎ)と扇子。釈台に叩き付ける張り扇がリズムとなり客席を煽る。シーンによって演者が二人一組で高座を色々な角度に移動していき、その都度舞台デザインのフォルムが変わる。

    二人の講談師(真帆さんと篠原友紀さん)が語り始めるのは生命保険会社「第三生命」の人間模様。突如、外部から営業部長として送り込まれた二人。徹底してデータと数字で理詰めの管理をする真帆さん。一見ド素人ながら人の好さでフォローする篠原友紀さん。二人は部長でありつつ、講談の中で様々な役に化けていく。

    成績No.1で叩き上げの大勝かおりさんは自分が部長に選ばれなかったことに少々不満顔。
    にしやま由きひろ氏は多趣味で、変わった石を拾う楽しみを覚えた。
    優秀なキザ野郎、松尾英太郎氏の決め台詞「夢を見てしまえよ!」は最高。
    幼稚舎からの慶應ボーイのキタラタカシ氏は刺激に飢えている。
    色恋営業で契約を取りまくる神咲妃奈(ひな)さん。
    新卒の涼田麗乃さんの教育係に大野朱美さんが命じられる。大野朱美さんは落語家を目指していた時期があり、今でもそれを引きずっている。

    セールスマンの営業心理学テクニックが炸裂する。
    ラポール(信頼関係)形成、ミラーリング(相手に合わせる)、ペーシング(自身を調節する)、などなど。

    神咲妃奈さんは板野友美のアヒル口に多部未華子の目力みたいな美人。こういう女に男はことごとく騙される。それはDNAに刻印された本能で、そう創った造物主が悪い。ホストに騙されて立ちん坊をしている女達も同様。自分の意思を超えたところで惹き付けられてしまうのだからお手上げだ。

    大勝かおりさんはナンノっぽい。
    にしやま由きひろ氏は渡辺いっけい似。
    作・演出を兼ねるフルタジュン氏はタカアンドトシのタカとFUJIWARAの原西を足したような味。

    あやめ十八番を観ている時の感覚に近い。
    講談師の篠原友紀さんが他の人の熱演を真剣に見ていて、うんうん頷いたり笑いを必死にこらえたりする様がこの劇団の強みだろう。嘘偽りなく演者が本当に面白いと思って演っている。理想的空間。才能が溢れ返っている。

    ネタバレBOX

    肺がんを宣告されたにしやま由きひろ氏は昔プロでバンドをやっていた。路傍の石を拾った時の気持ちを思い出す。あれは辞めたバンドを客として観に行った帰り道にふと拾ったんだっけ。神咲妃奈さんに石拾いを勧める。いつの日にか子供と今日拾った石を見せ合うことが楽しみになっていった彼女。大野朱美さんはセールストークの繋ぎは落語の枕と変わらないことに気付く。森田芳光のデビュー作、『の・ようなもの』を感じさせるエピソード。何でも出来る有能な上司・大勝かおりさんに抱えたアンビバレントな感情。滔々と流れ落ちる言葉の水滴が川となり全てが澄み渡っていく。涼田麗乃さんは亡くした父親の遺した生命保険に暮らしを守られた。新興宗教団体に捕まるも中から契約を取りまくる荒業のエピローグ。

    散々なことをやっておきながら、マルチ商法の過去や色恋営業をバラされることに怯える姿にちょっと違和感。どうだって言い包められる筈。 

    更に先を目指すならば必要なのは爆発するエモーションだろう。観客に「ああこの為に全てのエピソードが紡がれてきたのか」と感嘆の溜息をつかせたい。ショーン・ペン監督の『クロッシング・ガード』。娘を車に撥ねられて殺された男は加害者の出所をずっと待つ。そして到頭復讐の時が来た。いよいよぶち殺そうと逃げる加害者を追う。気が付くとそこは娘の眠る墓石の前。立ち尽くしてしまう。

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    2024/07/15 14:23

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