柳家さん喬 独演会 公演情報 公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団「柳家さん喬 独演会」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「円熟の話芸と新たな息吹」

     半年に1度の柳家さん喬による三鷹市芸術文化センターの独演会である。今回は東京では初となる桂枝光改め四代目桂梅枝の襲名披露を兼ねた盛会となった。

    ネタバレBOX

     夜の部はさん喬門下の前座小きちによる「芋俵」で幕が開く。芋俵に隠れて大店に侵入した泥棒だったが、身体を逆さにされたまま土間に置かれたうえ、夜半空腹を覚えた女中に俵越しに体を弄られたりして辟易する様をコミカルに描く。大きな目とまっすぐな声の小きちの語りが印象に残る。

     同じくさん喬門下の兄弟子㐂三郎は出た側から客席にVサインを向け湧かせる。「このご時世ですが吉原の噺を…」と切り出した「徳ちゃん」は、粗末な部屋に案内された若い噺家が不格好な女郎に追い回されて痛い目に遭うという筋である。郭の呼び込みから浅薄な噺家ふたり、そして芋をバリバリ食いながらゴジラよろしく入室する女郎と自在な演じ分けに観客は大喜びであった。

     お待ちかねのさん喬が披露したのは「天狗裁き」である。夢の内容を妻に問われても答えず、長屋の隣人から大家、そして奉行果ては天狗に問われても答えない、というよりそもそも夢を見ていないから答えられない…という悪夢にうなされる男の滑稽さを、愛嬌ある話しぶりで披露してくれた。

     中入り前は柳家門下の花緑による「あたま山」。吝嗇な男が落ちているさくらんぼを食べすぎたばかりに頭に桜の木が生え、格好の見物となったものの煩わしくなり木を抜くと、今度はそこにできた穴に水が溜まり皆が釣りをして……やや過剰なほどのリアクションと声音の使い方で主人公や隣家の年寄りを演じ分けた花緑は、襲名にそぐわないとサゲを独自にアレンジしたのが印象に残った。

     中入り後の襲名披露口上には前座を除くここまでの出演者に加え、新梅枝と三鷹市芸術文化センターの森元隆樹が並ぶ。新梅枝の妻がデザインしたという浅葱色に桃色の花、萌黄色の鳥と定紋があしらわれた祝幕を背景に各人が新梅枝の人柄を述べ、三本締めで今後の活躍を祈った。

     本日二度目となるさん喬は「八五郎出世」で、朴訥な八五郎が大名に貰われた妹のお鶴との再会をおかしくもしみじみと語って聞き応えがあった。大名の屋敷にあがり田舎言葉で大名家の人々とやり合うくだりはまさに自在である。

     トリの新梅枝は高座を飛び出さんばかりのオーバーリアクションでさん喬やほかの噺家との逸話を披露しまずはドッカンドッカン湧かせる。放蕩の限りを尽くし蔵に囚われた若旦那を待ちわびる芸者小糸がやがて亡くなってしまうという悲劇「立ち切れ線香」で、まくらとは打って変わった静けさが客席を占め、皆の新梅枝への注目を感じさせた。小糸が何度も送った恋文が若旦那のもとには届かなかったことを女将が回想するくだりは特に印象に残った。

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    2024/06/27 14:13

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