(あたらしい)ジュラシックパーク 公演情報 南極ゴジラ「(あたらしい)ジュラシックパーク」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    平均年齢26歳の南極ゴジラは、演劇をポップカルチャーに押し上げるべく旗揚げされた“ゆかいな劇団”。
    『(あたらしい)ジュラシックパーク』は、CoRich舞台芸術まつり!2024春の最終選考対象作品であると同時に、注目の若手劇団が集う佐藤佐吉演劇祭2024参加作品でもあります。
    物語の内容は、誰もが知るSF超大作を下敷きに”テクノロジーの暴走“を描くというもの。私が観劇した日の会場は超満席、客席に漂う前のめりなムードから団体に寄せられる期待が沸々と伝わってきました。その様子はこれまでの団体の在り方や創作に対する評価そのものでもあると思います。
    (以下ネタバレBOXへ)

    ネタバレBOX

    その期待に全力で応えるカラフルPOPな舞台美術とオープニングの演奏がチャーミングで、パワフルで、まさに“ゆかいな劇団”(あるいは“ゆかいな楽隊”)そのものの絵面でした。私の横で観劇していた方が思わず「わあ」と感激の声を漏らしていたのですが、多くの観客が心で同じような歓声をあげたのではないかと思います。
    「一体今から何が始まっちゃうの?」
    そんな待望に拍車をかける楽しげな音楽で、観客が待ち望む演劇の入り口としてこれほど相応しいオープニングはないのではないかと感じました。一人ひとりから「期待を裏切るものか」という熱気が感じられるエンターテイメントに富んだ幕開けでした。

    物語は前述の通り、映画『ジュラシック・パーク』の設定をベースに施設内で恐竜たちの飼育と管理を行う人々の一風変わった仕事模様が描かれるオフィス劇。しかし、主人公・湾田(端栞里)がパークで生まれ育ち、外の世界をほとんど知らないという閉塞感や、いわゆる“しごでき”な同僚たちに劣等感を抱いたり、自身の生き方に疑問や葛藤を覚える様子などからはさりげなくもじわじわと社会的側面も感じることができました。
    管理室は、湾田の所属である小型草食恐竜のお部屋と花形部署・大型肉食恐竜のお部屋とがあり、後者の所属で同期であるシャークウィーク(瀬安勇志)は“しごでき”同僚の中でも群を抜いてのエース。設定はこんなにもユニークなのに、同期が集う時の静かなマウント合戦、誰にも本音を漏らせなさそうな雰囲気はひやりとするほどリアル。さらには同部署である微山(こんにち博士)、アルミ(九條えり花)、メガマック(TGW-1996)からの扱われ方や評価も散々な湾田にいつしか感情移入している自分がいて、湾田の存在や振る舞いはコミュニティに馴染めない人々の共感を誘うものであったのだと感じたりもしました。そんな中で唯一、湾田が友人・ドゥドゥ(古田絵夢)と過ごすいわゆるアフター5的シーンは、そのキャラクター性も相まって観客にとっても安息の時間になっているように感じました。
    一方でそのことを周囲が嘲笑っていることには「マイノリティの行き場のなさ」を痛感せざるをえず、二人を愛すれば愛するだけ、弱い立場の人間が手を取り合うことがもう少し認められる展開が欲しかったとも思ってしまいました。

    外部からの来訪人・セールスマンの中黒(ユガミノーマル)によって、パーク内かき回されるシーン、異質の挿入によってやがて内部の闇が暴かれ、崩壊していく様も起承転結のメリハリを担保する好展開。湾田がSOSを求める相手が決まってAIコーチ(井上耕輔)である無情、人間製造機を使ってコピー人間を研究する浮卵博士(和久井千尋)の存在、彼によって登場した“しごでき”ver湾田ことワンダー(揺楽瑠香)など人間と科学の対決を彷彿させる展開も現代版SF劇の最高潮として効いていました。ラストにかけて、その戦いが、人間臭い純粋な悩みと嘆きによって昇華されていくのも素晴らしかったです。
    南極ゴジラにしかできない方法でエンタメ性と社会性を繋げた意欲作である一方で、やや間延びを感じてしまう部分が惜しくも思えました。キャラクターがみんな軽妙洒脱にデザインされていることもあり、個人的にはもう少しハイテンポに展開を紡いだ方が本作のカラーと相性が良かったのではないかと感じたのも正直な感想です。

    もう一点、どうしても残念に思ってしまったことが、主演の端栞里さんや魅力的悪役に扮した瀬安勇志さんをはじめ俳優さんたちがあまりにも素敵なのに、当日パンフレットでは役名と顔と俳優名を一致させるのが難しく、チラシを参照しようと思ってもぼやけた写真でスムーズに照合が取れなかったことでした。
    小劇場においては俳優の顔写真自体が載っていないパンフレットやチラシも多く、ネット検索すれば辿り着ける情報ではあるのですが、せっかく作ってあったからこそ惜しいと感じました。観客が一次資料のみで知りたい情報にリーチできることは観劇アクセシビリティ向上においても重要であると考えます。また、そのことは団体から参加俳優に向けたリスペクトの表明にもなり得るのではないでしょうか。

    南極ゴジラの魅力は圧倒的デザイン力の高さ。グッズなどの周辺アイテムの工夫も含め、企画・制作・創作面の打ち出し方を細やかかつ鮮やかに考え抜くその力は、同世代のみならず世代を越え、群を抜いたものであると改めて感じました。その魅力をそのままに、観客の知りたい情報にもう少し寄り添っていただけたらさらに嬉しく思います。そして、舞台上からは今後も私たち観客のことをゆかいに裏切り続けて下さい。今後の飛躍を楽しみにしています!

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    2024/06/25 16:31

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