『ここからは山がみえる』 公演情報 青年団リンク・RoMT「『ここからは山がみえる』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    熟していけば・・・
    当初は尺が2時間20分ということで会場に足を運んだら、
    冒頭にお詫びがあり、
    上演時間が3時間になったとのことでかなりびっくり。

    個人的にはその後の予定がだいぶ狂ってしまいましたが、
    飽きることなく、相応のボリューム感を楽しむことはできました。

    ただし、シーンというかエピソードごとに、
    お芝居の密度に
    かなりのバラツキがあったようにも感じて。

    もし、この作品がもっとしっかりと熟していけば
    観客にとっては、
    とてつもない3時間になるような気もしたことでした。

    ネタバレBOX

    場内に入ると、そこには○テーブルと椅子が並べられて
    カフェテリアにでも席を取る感じ・・・。

    中央にステージ的な部分が設けられその後ろには大き目の黒板、さらに小さ目の黒板が、左右に3枚ずつ感覚をおいて配置されています。
    それは、どこかスタンドアップ・コメディの会場のようにも思える。

    前説のあと、その空気の流れのままに、
    演者が、少年として、いくつものエピソードを語り始めます。
    観る側を内に取り込むような
    急がない、どこか親近感のある語り口。
    冒頭から、すっと教室と窓の外の景色が
    観る側に浮かんでくる・・・。

    先生に理不尽に暴力をふるわれた思い出にはじまって、
    付き合ったり関係をもったりした女性たちのこと、
    両親や親戚のこと、
    友人たちのこと・・・。
    エピソードが加わるたびに
    まるで記憶に刻むように
    黒板にチョークで登場人物が
    書き加えられていきます。
    中央の大きなボードには血のつながりのある人々・・・、
    左右のボードは友人や恋人たちの名前で
    次第に埋まっていく。

    いろんな印象を持ったエピソードがありました。
    その中には
    10の少年の女性に対する気持ちが
    まっすぐに現れたシーンもあれば、
    自分を守る臆病さや
    相手を妊娠させて、
    心が揺れてしまう場面もある。
    両親や祖父母、
    さらには兄弟に対する距離感や愛情も
    とても実直に表現されます。
    バスのアッパーデッキで
    昔の恋人が麻薬に溺れている姿を目撃する場面などでは、
    醒めた感覚と心の翳りが綾織のように広がって
    観る側ヲ深くシニカルな思いに染める。
    新しい知への純粋な感動や高揚も
    青臭さをきちんと織り込んで観る側に
    渡されます。

    時間が重くなりすぎるシーンがないのもよい。、
    それぞれのエピソードで、
    観る側が演じ手の表現の力に
    しっかりと取り込まれるのです。

    でも、正直なところ、
    見終わって
    なにか膨らみきらない感じがしたのも事実。
    なんというか、エピソードごとのテイストはしっかりとあっても
    作品として観た時に、
    それぞれが微妙に交じり合っていかない感じがして・・。
    うまくいえないのですが
    この作品はもっと熟して一つのトーンに溶け合わなければ、
    観る側に作品本来のテイストはやってこないような
    気がするのです。

    細かいことを言えば、
    物語が誰に向かって話されているのかが、
    揺らいだり定まらなかったりして。
    物語に対する視点を、
    主人公の内側と外側に織り交ぜてながら語ること自体は
    長い尺のなかでのよいアクセントになるのですが、
    内側・外側それぞれで
    誰に対して物語られているのかがぶれると
    観る側は迷う・・・。

    シーンの時系列も、
    キャラクターの成長がもたらす雰囲気の差異で
    もう少しくっきりと
    観る側に印象付けてもらえればと思ったり・・・。

    もっと言うと、
    エピソードごとの色が変わることはかまわないのですが
    シーンの密度や解像度の差がばらつくことには
    かなりの違和感を感じる。

    前述のとおり個々のシーンに含まれるものは
    時に幼く傲慢で、あるいは純粋で瑞々しく、
    もしくはシニカルで痛みを伴って、
    観る側をしなやかに染めていきます。
    そんなに居心地の悪くない客席だし
    舞台にしっかりとした表現力があるから
    3時間という尺も苦痛にはならない。
    でも、観終わったあとの、
    バラついた感触が気になって
    結局、100%作品に浸りこめていない感覚が残る。

    きっと、この作品の真髄は、
    満漢全席のように
    個々の素材が料理され供されていく
    そのテイストのバリエーションの多様さにあるのではなく、
    たとえばサングリアのように
    新しいワインに漬け込まれた様々な出来事が
    やがて一つのキャラクターに醸成されていく
    その質感にこそ存在するのだと思うのですよ。
    場内の黒板が登場人物たちの名前で埋められていくのも、
    エピソードたちが
    一つの樽の中で熟成されるためのこと。
    舞台の尺も観る側がその中に一体化してくための
    長さだと思うのです。

    役者の方にとっては、
    ひとりでこれだけのことを演じきるだけでも
    大変な作業だとはおもうのですが、
    でも、ここまで作り上げて来たのなら、
    さらなる豊かな熟成にも手を染めて欲しいところ。

    私が観たのは、プレビューもいれて3日目の公演ですし、
    比較的長期間の公演ですから、
    演じつづけられていく中で
    もしかしたら、終盤にはたっぷりと熟成し
    とてつもない作品へと昇華しているかも知れないと
    期待してしまうのです。

    ○○○●●☆

    0

    2010/08/16 16:09

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大