実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/05/30 (木) 14:00
座席1階
大杉栄とともに憲兵に殺害された伊藤野枝を描いた舞台や映画は多数ある。だが、故郷の福岡県の海辺にあった実家を舞台にした演劇はあまりないだろう。マキノノゾミの脚本は、全編実家を舞台にして野枝の人生を描いている。
地元の資産家に授業料を出してもらって東京の女学校を卒業したが、決まっていた地元男性との結婚が嫌で実家を飛び出し、身を寄せた女学校の恩師と結婚してしまう。2人の子どもに恵まれるもこの恩師を捨てて、大杉と一緒に暮らし始める。大杉との間には5人の子どもがいる。男の浮気は甲斐性なのに、女は姦通罪で処罰という理不尽さに全力でぶつかっていく野枝。女性は貞淑な妻として男性の陰で尽くしなさいという家制度に立ち向かい、自由な恋愛で人生を生き抜いていく。実家が舞台であるので東京の青鞜社とか無政府主義とかいうところに強くスポットが当たらない分、野枝の女性としての人生がクローズアップされている。
パンフレットの見開き写真には、丘の上のような山中に巨大な石が横たわっている。写真説明には「故郷を見下ろす山に置かれた伊藤野枝の墓石」とある。木の墓標が嫌がらせで倒されたり引き抜かれたりしたので、義理のおじさんが「これでも倒せるならやってみろ」と言わんばかりの巨石を墓標にしたとのこと。こんなエピソードがあるとは知らなかった。舞台でもこの巨石が登場する。極めて印象深いシーンだ。
伊藤野枝という人は当時の常識に真っ向から歯向かったのであるが、エキセントリックな物の言い方をする人だったのだろうか。舞台を見ていて一番気になったのはこの点だ。怒鳴る、叫ぶ、大声でののしる。そういう人ならいいのだが、伊藤野枝の印象操作になっていないか、疑問に思わないでもない。