親の顔が見たい 公演情報 diamond-Z「親の顔が見たい」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     戯曲は畑澤聖悟さん作、演出が西川信廣さんである。今作は初めて拝見したが、1月から今作を含めて42本を拝見したうちのベスト作品と評した。文句なしの華5つ☆

    ネタバレBOX

     脚本が素晴らしい。演出も無駄が無く舞台美術も必要最小限で小道具1つに至る迄総てを用い緊迫の舞台内容を盛り上げている。自分は初見の作品であったが、有名な戯曲だとのことで読んだり、観たりで既知であった方々も多いのかも知れない。何れにせよ。楽公演じっくり拝見させて頂いた。
     板上はホリゾントセンター上部に「愛友理真」と大書された額、その真下の壁に「聖母子像」が描かれた額が懸かっている。ホリゾントやや下手に出入口、その下手の壁手前には電話台と受話器がある。丁度板全体の中央辺りを占めるのは大きなテーブル。長辺の各々にはパイプ椅子が各4脚、上手短辺に1脚並べられている他、上手観客席側にはパイプ椅子が観客の視線と直交するよう横向きに2脚並べられ、その下手に塵入れとして用いられるのか、防火用水が入っているのかバケツがある。パイプ椅子は下手にもあるがこちらは上手のパイプ椅子とは逆向きに置かれ而も2脚づつ、やや間隔を置いて置かれている。舞台美術は以上。出捌けは出入口1か所と極めてシンプルだ。因みに尺は約110分弱。
     美術的に優れているのは、大書された文字が右側から左へ向けて書かれていることで、この学校が敗戦前からあったこと。聖母子像が懸かっていることでミッション系であることが即座に分かること。深読みすれば何故そのようなことが許されていたのか迄観客は想像できるということだ。(名門校であり女子校であることまでは極めて合理的判断で辿り着ける)
     さて、物語本題に入ろう。発端は、この学校の中学2年の生徒、井上道子が、朝教室内で首を括って縊死していたことであった。それを初めに発見したのが新任で担任の女性教諭、戸田菜月。年齢が生徒たちと近いこと、優しく親身に生徒たちに向き合ってきたことから生徒たちからは菜月、菜月とファーストネームで呼ばれていた。それだけに戸田自身精神的ダメージは極めて大きく、学年主任で教頭の原田茂一が16時から緊急開催される懇談を一切取り仕切って戸田には「休んでいるよう」指示していたのだが、戸田は、懸命にお茶出し等に関わっている。自死という行為が学校内で起きたことで校長も当然懇談には出席する。実際舞台上に登場するのは親たちと教師陣だが、道子の自殺原因はクラスメイトたちによる苛めであった。この場に居るのは苛めを実行したと考えられる子らの親たち保護者たちと教職者である。では何故、朝早く起きた事件当日に懇談会が持てるようなことになったのか? それは道子が出した菜月宛ての手紙が届いており、そこにクラスメイト5名の名が記されていたからである。遺体発見が午前7時を少し回った頃、菜月の反応は極めて迅速而も理に適ったもので直ぐに他の教師たちに連絡を取って道子を降ろし皆で人工呼吸、AED等必要な処置を為しつつ救急連絡を取って救急車を呼んだ。死亡判定を下したのは救急車で駆け付けた医療関係者で7時台に判定は下された。既に登校していた生徒が100名ほど居たが全員各家庭に帰した。その後道子からの書面で名指された5名の生徒及びその親たちに16時に学校へ来るよう連絡を取って集まって貰っていたのである。 
     親たちは会議室に集められ、子供たちは1人づつ、別々の場所に付き添い教師と共に居た。実際、苛めた本人たちであれば口裏合わせを防ぐ為ということも当然考えられる。
     協議が開始されると、教頭が菜月宛てに送られてきた文書を皆の前で読み上げた。親たちは自分の娘が同級生のそれもクラスメイトを苛めて死に追いやったということを認めたくない。その為、様々な異論、反論を述べ立て始める。最初の異論、反論はそれなりに自然な発想と論理に基づき、その異論、反論に濡れ衣であるかもしれない論拠が在る程度認められるものであった。然し徐々に親たちの論理に合理性が欠けてくると、同窓会会長やPTAトップ等も務めてきた森崎(妻)が、その書面を見せて下さいと言い出し2度目にそれを要求した際、その書面に火を付けて燃やし証拠隠滅をしてしまう。そんなことをする森崎雅子に抗議する学校側に教師で夫妻の長谷部(夫)が証拠が無くなって仕舞ったのだからとやかく言っても始まらない、防げなかった学校側も問題だとして恫喝を掛け、事実隠蔽工作に走る。だが更に道子からの手紙は別の人物宛てにも送られており、それも親たちの面前で読まれることとなったが、今度は切羽詰まった挙句教師から奪った手紙を破いて食べ、あっという間に呑み込んで仕舞うということをしでかしたのは、今度もまた森崎雅子であった。そして今回も詭弁を弄してあくまでも娘たちを庇い続けたのは長谷部亮平であった。然し乍ら幾ら何でも酷すぎると保護者サイドからも内部告発がおずおずと出始めた。而も乱入者がありその乱入者は会議室迄入ってきた。彼は道子がアルバイトをしていた新聞配達店の店長であり、彼に親切にして貰った道子は3通目の便りを彼に送っていたのである。メディアでも速報が伝えられていたから店長は直ぐに気付き真実を明かす為に会議室に押しかけ苛めの全容を明かす。流石に今回ばかりは、森崎雅子も手紙を奪うことは叶わず、事件の全容は親たちの中からも明かされてゆく。そして終盤、チェーホフ作品の幾つかで言及される深い台詞が引かれる。無論単に引用している訳では無い。チェーホフ作品の中で用いられて表現されている内容との対比の為にここに持って来られたのだ。この苛めという陰湿で卑怯でグロテスクで無責任な社会の在り様の鏡とする為に! (因みに証拠隠滅を国家レベルでやった歴史、個人レベルでやった歴史は敗戦後も脈々と実際に続いているのが実情である)焼却で対応する有名な件は敗戦直後進駐軍がやってくるまでの2週間程で問題になりそうな書類が昼夜を徹して焼却された事実として、食べた件は金丸が国会で疑惑を追求された際、証拠書面を実際に食べて隠滅した事件がある。
     以上が私の観た今作の内容であり、今年観た全作品中、最高作品と評価する所以である。

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    2024/05/20 00:49

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