実演鑑賞
満足度★★★★
昨年のスズナリ公演では畑澤氏作品を実演で、工藤千夏作品は配信で観たが、今年は両方を劇場で観る事ができた。昨年映像鑑賞した「千里眼」はユニークな歴史への切り口で面白かったが、今回ほぼ同じ座組(花組芝居のいつもの面々、山藤貴子ら)とタッチで歴史ネタを扱い、見応えがあった。
が、エドワード8世という史実上ユニークな存在(少し前にドキュメントで知った)に依拠した劇では、そこから何を引き出すかが要となる。エドワード個人の人生にどの程度迫れていたか、葛藤を描き切れたか、という点では、リアリズム劇の形態でなく「王位を投げ打った恋」の相手であったウォリスの回想として場面の断片が移り行く。「意外な事実」が印象的に登場するのだが、彼の人生についてよく知っている観客にとっては、新たな事実、視点を汲み取れず、また個人の懊悩や葛藤、慢心や野心といった人間のリアルにも出会えない劇になってしまいはしなかったか?と懸念が過ぎる。私は詳らかに承知しなかった史実を知れた事の面白さはあった。
秀逸なのはエドワードとの接点という事でヒトラーが登場する場面。劇空間がぎゅっと締まって行く。ヒトラーは特殊な人間でもサイコパスでもなく、人が持つ感情をある文脈の中で具現した一つの形に過ぎなかった。他者に対する疎ましさ、嫌悪、排外主義が無くなったのか? と問う。他所の国のお話と高みの見物をしていたのが一気に現実(今現在のここ日本)に引き戻される。
工藤千夏戯曲の面目躍如であったが、史実の紹介の域をどれ程脱せていたか、という部分が若干気になったのは正直な所。