実演鑑賞
満足度★★★★★
中島淳彦作品と言えば随分昔、春風亭昇太らが出たバンド演奏付きステージを観ただけ(探せばもう一作位あるかも)という程度。今回スズナリでやるというので勇んで出かけて行ったのだが、大当たり。大泉サロンという、女性漫画家版トキワ荘と称される場所(トキワ荘は1950年代、こちらは1970年代前半)を舞台に、当時起きた三億円事件を絡めて漫画家に憧れ目指す女性たちの群像を描く。役名から思い当たったのは萩野素子(萩尾望都)、大山弓枝(大島弓子)、山西恭子(山岸涼子)くらい。中心的存在らしい人物(役名竹本ケイ)は一体誰かと後で調べてみると、竹宮惠子という著名な少女漫画家という。史実的には竹宮と萩尾が同居したのが始まりで、実家の離れを家屋として提供した増山法恵(役名増田典子。同じく漫画家を目指していたが彼女らの才能を見て世話役、助言者に回り、やがてプロデューサーとなる)の三名が中心だったよう。
既に時代遅れと煙たがられていた貸本漫画家と何故か意気投合しておどろおどろしい漫画を描く事になる山西(山岸)は居住者ではなく、実際はサロンに遊びに来ていた人。大山(大島)もガッツリ居住者のメンバーの役だが史実的には接点は無さそうだ。漫画家を夢見て上京して来た若々しい女の子の到着の日が芝居のオープニングとなる。この女子・坂口も恐らくサロンに出入りしていた一人(wiliにも列挙されている。地方の同人誌をやっていた坂田)と思われるが、具体的エピソードを模したものかは不明。他には、マイナー雑誌の編集者の岡島は不明、大手出版社で少女誌の新刊担当として来訪し手厳しく評する編集者・山本は実在したらしい(こちらは男性の山本順也)。残る一人が嵐の夜に逃げ込むようにサロンにやって来た謎の「手塚治子」は三億円事件の犯人?ではなく彼氏が主導する学生運動のマドンナ的存在にまつり上げられ警察から逃れてきた。本名笹塚奈々が名を借りたらしい漫画家はあるが(笹尾那美)エピソードの由来は不詳。だが大まかな背景を眺めた上で作品を想起しても、身勝手なフィクション化には感じられず史実へのリスペクトと漫画家を目指した者たちへの愛情が満ちている。後に竹宮と萩尾は距離を取る事となり、相互に精神的なダメージを負う事になったと「史実」には書かれているが、舞台は青春群像劇として完結し、魅力的な役者の存在感により味わい深い時間であった。