ザ・ベストマンションシリーズVol.3F 公演情報 コメディユニット磯川家「ザ・ベストマンションシリーズVol.3F」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    大衆的で職人気質の喜劇。
    関西の小劇場系の若手劇団のなかでトップクラスの動員を誇るとのことで気になっていた磯川家。
    当公演はマンションの一室を舞台に異なるシチュエーションを用いて新作・長編3作品を上演するシリーズ公演の第3弾でこりっちの団体説明によるとこのマンションシリーズは前回2188名を動員したそうです。
    それだけ支持されるってどんだけ面白いの?なんてなかば半信半疑で3作品観劇させて頂きました。

    舞台装置の仕掛けによる視覚的観点からスピーディーな台詞の掛け合いや言葉遊び、アクセントとしての物ボケコントやパントマイムに至るまで徹底的に『笑い』を盛り込みカラーの異なる3作品を描いた緻密で強かな脚本と、舞台で表現する役者の振り幅の大きさ、そして日常の延長線上ではなくリアルと線を引き『現実ではありえない』世界観をきっちりと構築した骨太で職人気質の演劇であった点が清々しくて非常に好感を持ちました。

    味気ないニヒルな笑いやリアリズム演劇なんかがそれなりに支持されている今日において、磯川家のスタイルはひょっとしたらオールドファッションであるかもしれませんが、転げまわるほど笑う、だとか手を叩いて笑うだとか、つられて笑う、だとか無機質に染まり過ぎてしまったわたしたち現代人が忘れかけていた人間らしさや人間臭さ、他者との親和性のようなものを思い出させてくれるような気がしたのです。磯川家、いいですよ。

    ネタバレBOX

    『HELP』
    冒頭、ビートルズのHELP!が掛かり、本棚の下敷きになっている頭の毛の薄い男、綾小路レンのモノローグするところから物語がはじまる。
    彼は顔だし厳禁、正体不明をウリにしている流行作家で、シリーズ化されている恋愛小説の最新作の発売日が2週間後に迫っていたが原稿はあがってこず、業を煮やした出版社の編集担当者の園田が親のお金を使ってとあるマンションの一室を改造し、新作を書きあがるまで綾小路レンを監禁したのだった。脱出を試みるものの、その部屋には玄関を出ようとすると天井からまきびしが降り注ぎ、キッチンには落とし穴が、バルコニーに一歩足を踏みだすとどデカイ鉄球が振り子のようにぐわんぐわん動きだす、そんな仕掛けがほどこされていて、にっちもさっちもいかない状態。
    そこへ、隣の部屋で行われている怪しげな脳開発セミナーのビッグマネーをせしめるために、この部屋をアジトとして使っている泥棒がやってくる。泥棒は壁と一体化した回転ドアーを取り付けたり、クローゼットのなかに抜け道をつくったりするなど部屋のあらゆる場所を改造したため、マンションの一室はさながら忍者屋敷のよう。
    これらの大がかりな舞台装置の仕掛けとそれにハマる役者の所作がおもしろく、今から絶対に鉄球にブツかるよね、とか壁に頭を突っ込んで身体が貫通するでしょ、とかわかっていてもやっぱり笑える。しかも、スマートにナチュラルに突っ込んでいくという感じなので、いやらしさがなく、とても清々しい気持ちにもなる。こういう予期されたリアクション笑いって、たとえば8時だよ、全員集合!とかだいじょうぶだぁのドッキリ仕掛けなんかに近いモノを感じるのだけれど、そういうベタベタでスタンダードな笑いってテレビでは近頃見かけないし、演劇でもここまで徹底して作り込んでいる舞台というのは私は観たことがなかったので、何だか懐かしいような、でも新鮮味があって凄く面白かった。

    物語はこの後、綾小路レンの身の上を知った泥棒が彼の居場所と写真を2分間だけ自身の運営する綾小路レンのファンブログとツイッターに掲載したことから一気に加速する。その時に出回った写真というのは、『髪がフサフサである』という巷で出回っている綾小路レンに関する唯一の情報を鵜呑みにした泥棒が、頭の毛の薄い綾小路レンをスルーしてひょっこり部屋に現れたアフロのズラをかぶった脳開発セミナーの利用者の若造を綾小路レンと『勘ちがい』をして貼り付けたモノなのだけれども、その情報をもとにスクープをキャッチしにやってきた週刊誌の記者や、ハイテンションの新婚さんたちにアフロの若造が追いかけまわされてたり、どさくさに紛れて外に出ようとする綾小路レンとそれを追う編集担当者の園田で部屋はしっちゃかめっちゃかで戦場みたいになっちゃう。
    このくだりは本当にくらだないけど痛快で腹を抱えてケラケラ笑った。
    そして終盤、アフロのズラを被るだけで脳が開発されると詠ったインチキセミナー幹部は警察に摘発されて、年齢国籍様々なアフロのズラをかぶったセミナー利用者らが壁を突き破り、列をなして部屋を駆け抜けるあのシーンの高揚感には戦慄すら覚えたのでした。

    『ソラド』
    霊感が強く、トモダチのルカの部屋には幽霊がいると断言する主人公の女の子にだけに見える全身真っ白の幽霊は、トモダチのルカや園田のしぐさを真似たりちょっかいを出す、アクティヴでコミカルなヤツ。
    恐ろしさはないものの、呪われたり祟られたりと、ゆくゆく面倒になるかもしれないからお祓いをした方がいいと提案をして、部屋に呼び寄せたいかにも怪しげな霊能者。
    霊感がなく幽霊がみえない彼に幽霊の居所を教え、ほどなくして
    霊を追い出す呪文を唱えはじめた霊能者と一緒になって呪文を唱える真似をする幽霊には全く効果が得られずに事態は更に悪化してしまい、今度は全身真っ黒の幽霊がひょっこり現れ、なくなるどころか増えてしまう。
    この場面は、追い出したり傷つけたりするとひとりづつ部屋にふえてしまうという話の、世にも奇妙な物語の『イマキヨさん』を彷彿とさせるシュールさがあって、とても面白かった。

    これではいつまでたっても埒があかないと頭をかかえた主人公は、園田の提案で主人公の父を部屋に呼ぶことに。彼女の父親は高名な霊能者であるのだ。彼女の父親が登場してから物語は反転し、彼女が幽霊だと言っていたそれらは妄想の産物であったことが明かされる。更にトモダチのルカは既にこの世にはいなくて、それを受け止めきれずに精神がクラッシュしてしまい、時が止まったように記憶のなかだけで生きている主人公を担当するセラピストが園田で、白い幽霊、および黒い幽霊は園田の助手で、3人とも彼女の精神疾患を回復するための治療を施していたのだった。

    終盤、物語の冒頭で交された交された主人公、ルカ、園田の場面が反復され、誰もいない空に向かって笑いながら楽しそうに話している主人公の姿には、静かな狂気を感じた。行き場のない魂が浮遊するような金属の単音と暗転も効果的だった。

    『スウィート・ガールズと僕』
    隣同士の家に住み、同じ高校卒業に通っている幼馴染のコウとなつき。
    このまま一緒の大学に進学するのか、それとも違う道に向かうのか、これまで一緒に過ごしてきたふたりの人生を幼少期にまで遡り、その時々の心象風景をオーヴァーラップさせながら描いていく青春ラブコメディ。

    『HELP』では鉄球が飛び出してきたバルコニーの向こう側に位置する、ファンシーなお部屋。その部屋に住むなつきと、隣同士のコウ。
    お隣同士で幼馴染。これって、これって・・・
    矢沢あいの『ご近所物語』の実果子とツトムではありませんかっ!!
    私も、ツトムのような幼馴染がいれば・・・なんて妄想に耽りつつ、自身の青春暗黒時代の記憶をせっせと塗り替えるべく、コウとなつきのファンシーすぎる世界に、目を皿のようにして注視しておりました。笑

    どちらかといえば、さえない男子のコウに、学園のマドンナ的存在のなつきが毎朝、コウの分のお弁当を持ってきたり、なつきのお母さんが美しすぎたり、
    コウの部屋の隣に住む色っぽいお姉さまから軽く誘惑されてしまったり・・・
    このドラマ、『現実にありえない』奇跡の連続で成立しているんです。
    こういうの好きだなぁ。夢があるもの。

    物語は暗転の度にコウとなつきが、どんどん幼くなっていくのだけれど、シーンがはじまるまえに「小学6年生ですけど何か?」なんて前振りがあったりなんかして、もちろん、役者の演技に小学6年生らしいリアル感なんて全くもってないし、そんなこと言う事態ナンセンスなのだけれども、その一言は大人が演じる小学六年生に対する違和感を跳ね除ける強烈な破壊力があって、自虐ギャグ的な照れに没落せずに、見事にふたりのファンシーすぎる世界が構築されていて、心から恍惚させられたのでした。

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    2010/08/01 18:01

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