イノセント・ピープル 公演情報 CoRich舞台芸術!プロデュース「イノセント・ピープル」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    アメリカ・ニューメキシコ州ロスアラモスで原爆の開発や研究に従事した5人の男とその家族たち。
    かつて20代だった彼らが90代に突入するまでの65年の物語。若き日の男たちが作り上げた原爆はやがて広島・長崎に投下される。アメリカの視点から原爆と第二次世界大戦、さらにはベトナム戦争、イラン・イラク戦争による戦禍を描いた意欲作。

    8月と12月、私は年に2回平和記念公園に行く。私は広島出身ではないが、二人の子どもは被爆4世に当たる。子どもたちの中に流れる血を通じて私は亡き義父や義母に思いを馳せる。会うことの一度も叶わなかったそのまた先の父や母にも。例えば、彼や彼女たちが生きていたとして、この東京に暮らしていたとして、私はこの作品を薦めることができただろうか。(続く)

    ネタバレBOX

    それはとても難しいと思った。中立でいられるはずもない傷を負った、いや負っている人にはあまりに辛いセリフや描写が多かった。目を背けたい、耳を塞ぎたいとも思ったし、蔑称や暴言に怒りが湧く瞬間もあった。
    しかし、それはきっと日本人に限ったことではない。アメリカの視点から描かれるリアルが、紐解かれていく葛藤がそのことを伝えていた。私が日本人である限り、また、被爆4世の親である限り、本作を中立の立場で受け取ることは難しい。それでも、観られたことをよかったと思った。たとえ、感情移入することが、共感を抱くことが到底難しかったとしても、私が知っておくべき人生や感情がそこにはあった。
    CoRich舞台芸術!プロデュース【名作リメイク】の第一弾としてこんなにも感情移入しにくい作品が選ばれたこと、その意義について考えている。「同じであること」に手を取り合う喜びや、それがもたらす安心は確かに人を救うかもしれない。だがその一方で、その中の声しか聞こえなくなった時、すでに分断や差別は始まっているのだろうと思う。違いや差によって生じる、今もこの世界の其処彼処で起きている争いや戦いを考えるとき、同じ気持ちを寄せ合うだけでは到底解決できないことを痛感する。対岸の声を聞くこと、国籍や人種などの属性で個人を一括りにしないこと。それは、今の時代にとても必要なことであり、その小さな積み重ねがどこかの分断や差別の芽を摘むことに繋がると信じたい、という思いに駆られた。
    広島・長崎に投下した原爆を作った男と私の間に横たわる大きな溝を埋めることはできなかった。
    しかし、戦争の犠牲となった息子と平和活動に勤しむ娘を持つ親として彼を見つめた時、その輪郭が初めて縁取られていくような心持ちになった。
    戦争を今すぐに止める力を持たない人間一人ができること。それは、目の前の相手を一人の個人として見つめるということなのではないだろうかと思う。国家として憎み合うその前に。
    座って観ているだけでも心が削がれるような負荷のかかる言葉たち。最後にそれらを一身に背負い、2時間15分、アメリカの眼差しを生きた俳優陣に改めて拍手を送りたい。

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    2024/03/22 12:28

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