モダン・ラヴァーズ・アドベンチャー 公演情報 架空畳「モダン・ラヴァーズ・アドベンチャー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    秩序正しく妄想催す。
    身体における物理的なスピード感やら受け止めきれないほどに多すぎる圧倒的な語彙数なんかを豪雨のように浴びせられ、シーンが移り変わるごとに二乗三乗が無邪気にステップを踏みながらリズミカルに積み上がっていくようにめまぐるしく変容していく物語は、果たして正解があるものなのかすら危うい難解な数式を解くように常時追われている、そんなどうしようもない感覚に囚われたのだが、台詞のすべてが耽美で幻想的な小説のように詩的で恍惚させられた。
    ねじれたアイデンティティを具象化したような大胆な舞台構造も異端な世界に花を添えていた。
    『本筋がメタメタ』な物語をテクストが破綻しているとみるか否かによって評価は割れそうだが、個人的には支持したい。

    ネタバレBOX

    修学旅行の前夜、近所のデパートで行われるモデルショーのリハーサルをショーウィンドウごしに眺めていたことがバレ、担任教師のボタンに理科準備室に閉じ込められた三鷹ロダンはそこで出会った人体模型のハリコを、見た目も中身も自分好みの女に仕立てあげようと試みる。
    その一方で本番が行われているデパートのモデルショーではトップモデルのモダン嬢が衣装を残し忽然と姿を消した・・・。

    というあらすじ書きで説明されているこのふたつのアウトラインに三鷹ロダンの妄想が加味される。
    これらをたとえば話のながれで『あんち』という言葉が出てくると『アンチ』テーゼという言葉が駆り出され、人体模型を『安置』する場所のシーンがはじまったり、『枕』というワードからは枕なげをするシーンが提示され、『枕』に『真っ暗』を掛けあわせ『千夜一夜』を連想すると今度は心象風景をなぞらえた抒情的なモノローグが繰り出されるといった具合に、二乗三乗の情報量を上乗せさせた単語、および単語を発話する登場人物の主体性によってシーンが展開する。
    全体を通して登場人物たちが物語にコントロールされることを拒絶するかのようにハッキリと主張するために、一語一句がとても強い。

    舞台は更にロダンの現実と非現実の境界線の曖昧さをショーウィンドーの『窓』ごしに舞台装置が的確に具象化する。
    その『窓』とは『世界』を『覗く』ファクターであり、一枚一枚が回転するように細工が施され、更に五十音順表と満月の下で餅をつくうさぎが水墨画風に描かれた屏風で、屏風の隙間を『覗く』と向こう側には妄想の世界が広がっている、という趣旨。
    劇中ワイヤーで吊り上げられた屏風がバタバタと上下する度に、妄想だと信じていたあちら側が現実にすりかわり、世界があべこべに覆されていく構成が妙。

    舞台構造の大胆さにとらわれず、三鷹ロダンに『考えるひと』のポーズをさせるお茶目な一面や、五十音表の『ま』と『め』の間に位置する『みむ』の『む』と『る』の位置が何故逆でないことに囚われる過剰な『思想』が面白く、話の途中で『む』と『ら』が入れ替わり、『みら』=『ミラー』=『鏡』となる言葉遊び、および、鏡うつしの自己対峙、『利己主義へのアンチテーゼ』を乗り越えるために、まずは理性を紐解き、母との関係を断ち切り世界を変えようとする意志が悶々と繰り返されて、しかし結局すべてはロダンの妄想で、未来を変えることはできぬまま自虐的ナルシズムの渦中へと埋没していくラストもグッド。

    膨大な言葉遊びを巧みに用いたり、忙しなく動き回るパワフルな肉体と欲求を支点に構成する手管は映像でしかみたことはないのだが、どことなく夢の遊眠社をおもわせ、そういえば、多数繰り返される劇中劇にしても、何となく天野天街の描くテイストに近く、高速ゼリフは柿喰う客で見受けられるそれに類似しているような既視感は否めない。しかしながらそういった確立された方法論を踏襲、アップデートしつつ、独自のジャンルを開拓しようとする試み、情報量の多さを燃料に舞台を走らせる『エントロピー演劇』の確立は、空間の描き方があまりにも破天荒すぎて、時代も人類もまだ追いついていないような気がしないでもないが、『自己同一性』という普遍的なテーマもさることながら、劇場に行って目撃、体感しなくては絶対に理解できない(むしろ観ても理解できないかも)という演劇の基本というか特性を律義にやってるところがいいとおもった。

    今回が初見だったため毎回そうなのだかはわからないのだが、観た限りでは、台詞の語感にしろ、人物造形にしろ、日本的であると感じた。何というか、江戸川乱歩の小説を舞台化するとこうなるのかな、といった戯画的な世界観だったのだ。

    欲をいえばもう少し、物語に奥行きを感じさせる演出があればいいとおもう。
    たとえば、詩的な台詞を発話するだけではなくて、間合いだったり目配せなんかで語るような。そういう演出が引き出されたら尚良いような気がします。

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    2010/07/27 05:19

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