実演鑑賞
満足度★★★
昨年9月に公演されたTRASHMASTERSの『チョークで描く夢
』が素晴らしかった。川崎にある日本理化学工業をモデルとした知的障がい者雇用を推し進める会社の人間模様。
本社正門横に建つ「働く幸せ」のブロンズ像の台座には、故・大山泰弘会長の言葉が刻まれている。
「導師は人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、人から必要とされること、の四つと云われた。
働くことによって愛以外の三つの幸せは得られるのだ。
私はその愛までも得られると思う。」
そういう訳で今作も多大な期待をしたのだが、残念ながら余り面白いとは思わなかった。
広島県安芸高田(あきたかた)市の現市長、石丸伸二氏の軌跡をそのまんま舞台化。京大卒、三菱東京UFJ銀行入社、為替アナリストとして子会社のニューヨーク駐在員に。地元の市長が収賄罪で辞職し、副市長以外の立候補者がいないことを知った翌日退職願を出す。2020年8月9日、立候補から3週間足らずの選挙で37歳にして市長に当選。
主演の森下庸之(やすゆき)氏、ジャグリングの腕も確か。
WEB番組「TIME JOURNAL」のアナウンサー、小崎実希子さんは綺麗。
同じくアナウンサーの天川義輝(あまがわよしき)氏の揺れ動く心情。
MVPは市長の敵に回る市議会議員、山本龍二氏と斉藤深雪さん。巧い!斉藤深雪さんは二役の演じ分けっ振りも見事。山本龍二氏のラストの質疑応答は現実にあった場面なのだろう。職人の腕前。
市長の前に立ちはだかるのは市議達の面子。善悪利害損得ではなく、自分達に挨拶があるかどうか、最優先すべきは己のプライドだ。とにかく根回しを要求。話を先に進めたい市長と、そうはさせない老人達の意固地な攻防。どんな下らない世界にも『掟』がある。群れた弱者集団を飼い馴らす“セオリー”を敢えて市長は無視する。この対立の絵面こそがエンターテインメントにふさわしい、と。