かわりのない 公演情報 TAAC「かわりのない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    舞台美術はオフィスコットーネの『磁界』を思わせる。八百屋舞台で手前の水平なスペースに上手、下手と雑然と重ねられた椅子。列車の走行音と工事現場の鉄骨の擦過音。登場した役者が椅子を引き抜いた際に走るノイズ。中央にポッカリと空いた奈落。神経症的な不安感。

    募金活動を終え、十円玉を投げて表か裏を当てながら帰宅する夫婦、異儀田夏葉さんと清水優(ゆたか)氏。何故か旦那の投げる十円玉は全て表が出る。それを完全に当て続ける妻。

    一人の少年の死を捜査している刑事(荒井敦史氏)。徳重聡に似た美男子。最近眠れずに寝室にも入らない。妻(北村まりこさん)は複雑な心境。青木さやかとミラクルひかるっぽい味のある話し方。

    少年の父親(納谷健〈たける〉氏)は非人間的で冷たい印象。「生まれつき身体の弱い子でしたから。通夜で頼んだ寿司が余っているので食べませんか?」

    刑事の取り調べ、夫婦とそれぞれ別々に会話しているのを3人で話しているように混ぜ合わせる演出の工夫。一体、これは何の取り調べなんだ?噛み合わない話。

    夫婦にとっての子供の存在する意味。時折仄めかされるセックスレス。他人が何を考えているかなんて分かる筈がない。皆自分のお話にばかり気を取られているようだ。
    異儀田夏葉さんがずば抜けた存在感。

    ネタバレBOX

    2018年9月に公演された『を待ちながら』。山崎彬氏と七味まゆ味さんの二人芝居。難病を患った子供の莫大な医療費を賄う為、募金を募った夫婦。目標額に達する寸前に子供は亡くなってしまう。生きる目的を見失い、空虚な穴が広がる妻の心。夫は「もう一度募金活動を始めよう」と言う。夫婦再生の為に。
    今作はそれに色々と足したような作品。やはり核となるのは異儀田夏葉さんと清水優氏の物語。他の二つの家族の物語はどうも上手くはまっていない。時系列をもっと大幅に離すべきだった。

    演出がかなり凝っている分、脚本の粗が目立つ。何か凄く勿体ない。父親に蒸発され、遠い親戚に引き取られた過去を持つ刑事。妻との微妙な距離感。妻は「貴方の顔が好き」と言う。
    ネグレクト(育児放棄)の家庭、父親は息子に別れた妻の面影を見て愛せなくなった。息子は知らない家庭に助けを求める。(多分、駅前の募金活動を見たのだろう)。
    難病の息子をアメリカで手術する為に三億円もの金を必要とした夫婦。街頭募金を求め続け、もう少しで達成の時に息子は亡くなる。失くした息子の穴を埋める為に募金活動を再開する夫婦。無論詐欺的行為なのだが、息子の名前を駅前で訴えている時だけ生きている実感があった。

    経営悪化したクリニックの医師(廣川三憲氏)が大量の薬を売っていた話が出るが、処方箋と調剤薬局のことを考えるとちょっと無理がある。

    タイトルの意味は「代わりのない」。刑事がラスト怒り狂う。「子供には親しかいないんだ!他に代わりはいないんだよ!」幼い頃に捨てられた時、染み着いた自分の惨めで不安な存在感。「妻の面影がどうのじゃねえよ、てめえのお話ばっかに夢中になりやがって、目の前の子供との物語から目を逸らすな!」
    そして刑事は自宅に帰り、自分のお話ではなく妻との物語をしっかりと見つめる。

    SION「この夜に噛みついて」

    お前の代わりはそれこそ捨てるほど溢れてる
    だけどお前にお前の代わりはひとつもない

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    2024/02/12 12:50

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