実演鑑賞
満足度★★★★
はじめ、演劇で芝居になりやすいヘルマンなら、リリアン・ヘルマンに違いないと思い込んでいた。チラシをよく見て小説家のヘルマン・ヘッセと知った。こちらも読んではいるが、もう七十年も前、生意気盛りの中高校生のころだから、同級生とも今時甘ったるい青春ものだ、と言い合ったものだが、実は、みな同世代の青春ものに生々しく感動していたのだった。
川村毅の「ヘルマン」は、ヘルマンヘッセの作品の少年期の思い出を原文をもとに詩的に構成演劇にしたものを老人(麿赤児)が回想していく形で、名作「車輪の下」や「少年時代の思い出」を、ほぼ4場面を軸にまとめて構成している。
吉祥寺シアターのホリゾントいっぱいにスクリーンを張り、その前で演じられる台本は原文の構成もありダンスもあり、そこに映像投影もある。川村毅の舞台によくあるスタイルだが、いつも感心するのはそのまとまりが非常にスマートでアングラ風の泥臭さや貧乏たらしさがないことで、もちろん小劇場だから至らぬ所は見えるのだが、それに怖じずスタイリッシュな演出スタイルを崩さない。1時間20分ほど。意外なことに中年のインテリ風女性が多く、満席。
なぜ、今突然ヘッセなのかはわからないが、チラシに「僕の魂の本当の居場所を探している」といわれると、同世代だけにその気分になることはよくわかるし、それが舞台に結実している。第三エロチカからここまで、この演劇人はあまり時代にぶれず、自分の演劇を通して時代を生きてきたのだ。その自信が見える舞台だった。