天使の群像 公演情報 鵺的(ぬえてき)「天使の群像」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    女優・堤千穂さんの新境地!ほぼすっぴんで新しい教師像を生み出した。いつも斜め上の虚空をぼんやりと見つめる新任女教師。このキャラクターは大いに魅力的でずっと観客の脳裏にこびり付くことだろう。彼女を観る為だけでも今作に価値はある。

    野花紅葉さんは少女漫画のキャラそのもののルックス。小松菜奈に見える位、異様に美しかった。もう矢沢あいとかの描くイラストだ。

    森田ガンツ氏は名助演。“カントリーマアム”。
    函波窓氏もきっちり高校生になっていた。
    佐瀬弘幸氏は『デラシネ』の大御所脚本家と同一人物だと誰が信じる?
    寺十吾氏は狙い澄ました通り。

    かなり凝ったセットで舞台美術の荒川真央香さんは大変だったろう。斜線が織り成す幾何学的なステージ。床も水平ではない。下手に斜めに走る鏡の壁、奥に透過率を変えたハーフミラー、照明が映し出す格子の影。心象風景の視覚化、何処までも記憶とイメージの世界。照明の阿部将之氏の苦労。客席の前の空間に椅子を並べ出演者達が座ってステージを観ている。相当実験的な作劇。
    音響作家・北島とわさんの構築する音が不安を煽り続ける。水の滴る音、何かを叩く音、不快なノイズ音が居心地の悪い空間に木霊し、無意識に潜む記憶を引きずり上げる。

    学校が大嫌いだった主人公は勤めていた会社が潰れ、一応持っていた教員免許で高校の臨時的任用教職員に。不登校になった男子生徒に責任を感じて担任は休職中、そのクラスを代理で受け持つ。今では教師はハラスメント対策で常に発言を慎み、スクールカウンセラーにスクールロイヤーが常備。カウンセリングを希望するのは心の病んだ教師達ばかり。病んだ教師と病んだ生徒、病んだ保護者に囲まれて主人公はますます学校が嫌いになっていく。

    堤千穂さんに尽きる。これを見逃す手はない。終わり方は大好き。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    開演前から堤千穂さんっぽい人が舞台にいる。始まって声を聴いて、なんだ違う女優だと思った位別人。今迄の美人女優的な役回りは全てかなぐり捨てて臨んだ今回の役は新しい扉を開いたよう。全体主義に支配された学校というシステムが大嫌いな、やる気のない教師。いつもここから消え去ることを夢想。

    同じくラストに到頭現れるモンスターペアレント、寺十吾氏。彼だろうと思っていたが、声を聴いてどうも違うなと判断した程、別人。帰りに配役表で確認した。この男の設定も凄い。自分と学校との関係性を半生から語り出す。この歪んだ思考回路、捩じ曲がった劣等感、幼稚な判断能力、まさに今この世に実在する一人の人間、一つの短篇小説のような重さ。周囲に思い当たる人は沢山いるだろう。怒涛の人物造形に感服。

    人を傷付けないように、嫌われないように、無言で要求される「いいひと」を演じ続けることに疲れ果ててしまった生徒達。「本当の事」を口にすれば皆に怒り嫌われ疎外され糾弾されることだろう。沈黙の暴力の中で一つの価値観に屈服されていく群像。何処かに消えてしまうしかないのか。

    主人公の大好きだった小学校の担任の先生(ハマカワフミエさん)、突然何処かに蒸発したっきり、今では主人公の心の中にいる。「ありのままでいいよ。あるがままでいいよ。間違っていてもそれはそれでいいよ。」主人公はそんな気持ちを一体誰に伝えればいいのだろうか?

    不満点は脚本と演出が乖離している感じ。演出家がやりたいことが多過ぎてホンと噛み合っていないような。SEの入れ方なんかちょっと無理がある。小崎愛美理さんははち切れそうな衝動を自ら書くべき。どんな作品になろうと皆それを欲している。

    失踪した村田君が主人公の心の風景に現れて欲しかった。勿論面識もなく誰だか分からないのだが、会話もないそんなシーンも欲しかった。

    多分、失踪も自殺も作品内では同じ意味。もう自分の人生と関わることはないということの象徴。

    この作品を観れたことは有り難い。こういう試みを全面的に支持。

    吉水雪乃さんが眉間に皺を寄せる癖(役作り?)が多いのが気になった。勿体無い。

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    2023/12/22 14:58

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