実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2023/09/28 (木) 13:30
座席1階
ニール・サイモンは喜劇という印象なのだが、最晩年の2003年に発表されたこの作品は、劇作家たちの愛の物語。まるでこれまでの人生を振り返るかのような筋書きに、この作家はある意味、集大成を書きたかったのだろうか、と感じた。
主人公は愛するウォルシュを5年前に脳卒中で亡くした著名劇作家ローズ。ウォルシュも業界では尊敬を集める劇作家であり、ローズの元に時々現れては会話をしている(幽霊である)。そのためかローズは新たな戯曲を書こうともせず、破産寸前だ。助手のアーリーンは何とかこの窮地を脱したいとあの手この手で説得を重ねるのだが、亡き恋人の幽霊との会話が日課のローズは仕事をしようともしない。この作品はこんな設定で始まる。
舞台はビーチを目の前にしたしゃれた別荘。ウォルシュと過ごした思い出の家である。ウォルシュもこれではまずいと思ったのか、絶筆となった自分の作品を世に出してその印税でローズを救おうとある計画を立てる。
登場人物は4人だけで、いずれも劇作家という役柄だ。近年俳優だった夫(綿引勝彦さん)を亡くしたばかりの樫山文枝がローズを演じ、客席の心を揺さぶる。アーリーン役の桜井明美もいい。特に休憩後の後半、舞台が展開して物語のメーンに躍り出るのだが、ローズとの会話劇が心を打つ。
亡くなった愛する人を幽霊として登場させる戯曲は日本でも多い。生と死を越えて登場人物が心を通わせるという筋立ては、劇作のお国柄を越えて出色の会話劇になっているようだ。