アメリカの時計 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「アメリカの時計」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    この作品は1929年に起きた金融崩壊、即ち世界大恐慌を題材にし、その期間の人々の人生、生活を描き出したものだ。浅学な自分に芝居が突きつけて来たものは、混乱の時代の時間的な長さだった。大恐慌というとリーマンショックのような一時的な混乱と、一部の人間が破産に追い込まれた、といった程度の認識だったが、右肩上がりの経済のなか進歩を疑わなかった多くの中流そして農民たちが家や田畑を奪われ、都会に流れ、炊き出しに並び、取り立て屋のベルに怯え、精神を病んで行くといった風景が、「一時的」とは言い難い苦難の時間の中で進んで行く。

    建国以来、米国人が経験した苦難は南北戦争と大恐慌この二つだ、と冒頭に語られるが、江戸の農民たちが二百数十年の間に何度と知れない飢饉に見舞われ重い年貢に耐え忍んだのに比べれば、僅かな期間である。しかし彼らは民主と独立の精神を国是とし豊かさとそれらへの信条が結びついていたため、信じていたものが奪われる経験は精神の危機でもあった訳であった。
    この戯曲を今季のKAAT主催公演に選んだ長塚氏にまず敬服。この戯曲には米国の地名、大学名とローカルな単語が頻出するが、私には今の日本社会を隠喩的に描いている舞台と見えて仕方なかった。そしてその同じ状況に対する、心の叫びが様々な行動や言葉の表出となる光景は、それ自体悲劇的だが私たちの心の声の代弁でもある。わが日本を顧みると、この心の声を覆い隠し、何事もないかのように誤魔化し、やり過ごす先には何も起きそうにない。

    ネタバレBOX

    アフタートークでの興味深いエピソードは、稽古開始の際、各自テーマを与えられ皆の前で発表する、という事をやったそうである。戯曲のドラマの社会背景への理解が不可欠と長塚演出が判断したとの事だが、登壇した俳優の一人は、台本を自分で読んだ段階ではぶっちゃけチンプンカンプンだったが、これを機に知ろうと思った、経済のこと、歴史のこと、今の日本の状況にも繋がる米国との関係の歴史経緯には目を開かされた、との正直な発言もあった。
    だがこれを優れた舞台にしているのは「状況」に翻弄され、反応し、行動する人物らの根底に流れる感情表出の的確さ。これに尽きる。
    使用楽曲がエルトンジョン(作曲家を目指す青年が鍵盤を鳴らし「大ヒット曲」を作ろうとしてる..一瞬オヤ?と思った)の他、toto、シンディローパー等80年代洋楽が流れるのも風通しが良く効果的。
    天井に大きなパネルがあって映像が映し出される。映像作家と思っていた上田大樹氏が美術も兼ね、こちらは時代を思わせる調度が奥(ホリゾントの際まで)に並び開幕前から目を喜ばせる(衣裳も年代に忠実であった模様)。

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    2023/09/25 23:42

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