実演鑑賞
満足度★★★★
素晴らしい作品。この作家は“作品”の構造そのものの面白さに手を掛け始めている。筒井康隆の『文学部唯野教授』前夜なんかに近い味わい。文芸評論家(?)の福田和也が昔書いた評論で大衆文学と純文学の違いを説いた。「部屋の間取りや家具の配置、流行のインテリアを弄るのが大衆文学」、「建物の構造そのものに手を掛けるのが純文学」。言うなれば「このフォーマットで脚本を書いて演出して上演して下さい。」という縛りの中で競い合うコンテスト世界からの逸脱。そもそもの疑問、自分達は何を演って客は何に金を払って集まっているのか?突き詰めると新興宗教の勃興になりそうな難問。ひどく面白い。この笠浦静花さんという主催のもとにおっさんが群がる理由が判った気がする。しかも実験で終わっていない。普通に作品として成立している。何かこんな感じの味わいの映画を昔観た気がするのだが到頭思い出せなかった。阪本順治の『トカレフ』のような、マッテオ・ガローネ監督のイタリア映画『ドッグマン』のような。作家の意図がはっきりしないまま、だが間違いなく確かな強い意志を見せられ続けている不安。ずっと不穏。
「らーらーらーらんすい」
席は前の方が良い。角度的に後ろからだと見えない地下の蹴込み。今作は役者の待機する蹴込みをステージ下のスペースに置き、常時公開した。待機から役のオン・オフから着替えから丸見え。メイキングと同時進行する舞台。太鼓を叩く小山優梨さん(楽曲制作も)。下から声を合わせる「いっしょしゃべり」。タイミングも完璧。
南郭濫吹(なんかくらんすい)=「南郭、濫(みだり)に吹く」。紀元前3世紀の思想家、韓非(かんぴ)の著した『韓非子』に記されているエピソード。斉(せい)の王、宣王は300人の竽(う)という管楽器の名手を集めて合奏させるのを好んだ。その中にいた南郭は楽器など出来ないが、吹く真似だけで巧く紛れ込んでいた。代が替わり、湣王(びんおう)は独奏を好んだ為慌てて逃げ出す。
小学校の登下校の旗振り当番。サボりが多い。シルバー人材センターへの外部委託にしたい副会長。いろんな意見が飛び交う。コロナ禍を経て喋ることをやめてしまったハナちゃん。誰かの言葉に合わせる「いっしょしゃべり」しかしなくなった。
役者が豪華。誰も彼もが魅力的。小劇場オールスターズ。
熱心な旗振りの加藤睦望さんは作家の分身。この人はコメディエンヌ的な役回りが多いのだが、本質は純文学。ある見えない人達の存在を代表していく依り代。田中裕子みたいになっていくだろう。
PTA会長は青木絵璃さん。気が優しく物事を自分では決められない。柔和で和やか。
気の強い副会長は柴田和美さん。ズケズケ物を言う。
副会長の旦那、区議会議員の加瀬澤拓未氏。名助演。
副会長の娘、チカナガチサトさんは自分の売りを掴んだよう。悪意のない毒舌家。
校外委員の松本裕子さんはおかずクラブのゆいPっぽいアクの強さ。強烈。
彼女の子分的な立ち位置のさんなぎさん。目を細めて喋るが時々かっと見開く。この人のファンは多いだろうな。細かい仕草を沢山仕込んでいて唸る。ペットボトルを無理矢理一本飲み干した。
引っ越してきて旗振りに加わった田久保柚香さん。表情が巧い。複雑な内面の感情を観客に伝えるのが上手。
旗振りをサボってばかりいる波世側まるさん。生活感がかなりリアル。実際に町で見るのはこんな人ばかり。
肉屋の笹井雄吾氏は柴田勝頼に見えた。
これを観れたのは運がいい。
面白かった。