実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2023/06/17 (土) 13:00
座席1階
時雨沢恵一のヒット小説の舞台化第2弾。漫画やゲームなどにもなっており、舞台では連作の短編をピックアップする形で構成されている。人気小説の世界観をどこまで舞台で表現できるか、という観点で書きたい。
小説の世界観は、基本的には読み手の主観でつくられるものだから、多くの読者の考える世界観とそれほど離れていなければよいのかもしれない。しかし、自分としてはやはり舞台では無理があったのではないかと思う。主人公のキノの胸の内は短編をつなぎ合わせていく中ではどうしても二の次になってしまうだろうし、オートバイである相棒エルメスは小説で擬人化するのはたやすいが、舞台だとどんな美術や演出を施しても不自然になる。今作で辻凌志朗が両腕につけているホースはオートバイの部品を模しているのだが、最後まで不自然さが抜けなかった。
映写を活用した演出の努力は多としたい。が、例えばロードムービーのような形ならもっとスムーズだったのかも。舞台で諸国を旅する状況を表現するのは苦労したと思う。一方で、さまざまな文化や背景、価値観を持つ国々が登場する物語の面白さは舞台でも味わえる。どの国が登場するかはネタバレに相当するので触れないが、舞台ではその国の描写や人間たちにあまり深入りしている余裕がないためか、ちょっと表層的な感じもした。原作者がパンフレットで語っている「舞台で魅せるための独創的なアイデア」とは何を指しているのだろうかと思った。
比較するのは適当でないかもしれないが、例えばハリーポッターの映画は、原作の世界観を大切にして作ってあったと思う。これはやはり、映画だからできたのではないか。生身の人間が目の前で演じる舞台では、どうなんだろうか。
やはり、舞台では限界がある。それを承知で、どこまで没頭して楽しめるかにかかっている。