壊れた風景 公演情報 劇団かに座「壊れた風景」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     舞台セットはコの字を左に90度回転させ空き部分を広げたビニールシートで蔽いその上にピクニックで用いる飲料、食材、それにレコードプレーヤー迄が置かれた空間を囲むようにホリゾント側に道が、コの字の上下(カミシモ)に階段が設えられ、これらの手前客席側が板の端になった構造で、無論回転させたコの字の空洞部分は横長で長方形を為しており、今作の内容と極めて調和的な、よく考えられた舞台セットである。作品は2部構成になっており、パート1と、パート2の内容が可成り異質ということもあって、尚更この舞台美術の意味する所が実に効果的に作られていることに感心させられる。パート1と2の合間に10分の休憩を挟みトータル105分程と尺も申し分ない。台風の中、土砂降り、ずぶ濡れになって出掛けた甲斐があった。

    ネタバレBOX


     別役作品は、作品を観れば作者がすぐ分るほどその作品の特徴が顕著であるが、この特徴は作家が学生時代に権力と対峙していた経験から来ているように思われる。権力というものは、無論抽象的には機能しない。必ずその末端には実力を以て権力を行使する暴力装置が存在し、これらの暴力装置は例えば法という形を採った抽象を具体的な犯罪なり、罪なり、刑なりを構築し、その実態と化してゆく為に働く。(言っておくが、被験者は政治犯のみを意味している訳ではない。広義に解釈すれば、あらゆる犯罪は、反権力的である)即ち軍や警察機構がこの任に当たる訳だ。必然的にその対象は、国家権力等の公権力に抗った者たちということになり、この罪等を構築する主体はあくまで軍・警察など公権力の末端側である。当然、対象とされる者たちとの間には、構成要件やその根拠を為すモノ・コト等を巡る丁々発止の遣り取りが存在する。そして、このような背景が示唆するもの・ことは極めて気味の悪い、時にグロテスクでさえある、人間存在そのものに対する侵害、暴虐、圧制、支配のオンパレードだ。確かに体制によって完全に馴致されるに至った者たちにとっては普段一切感じることもないグロテスクではあろう。然しながら本質に於いての反逆者たちにとっては日常茶飯の感覚なのであり、それがベースとなって作品化されていることによって日本を代表する不条理演劇の作家という評価が別役氏に与えられ作品に冠せられることになったのではないか? 筆者はそのように思っている。
     ところで、この「国」の政治及び上位裁判所裁判官らの多くが日常的に犯す犯罪的詭弁は、今作で終始曖昧で主体を誤魔化す話法によって自己正当化を図る倫理的退廃者たちのディスクールそっくりである。この事実の意味することこそ、今作のタイトルに凝縮された“壊れた風景”即ち壊れた健常な精神そのものだ。そう感じるのは筆者のみでないことを祈る。

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    2023/06/03 14:00

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