実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2023/04/27 (木) 14:00
座席1階
個人的な趣向だが「ああ、観てよかった」と劇場を出て思える舞台は、やはり笑いあり涙ありの会話劇だ。期待通りに満足させてくれた中島淳彦作品はやっぱり、そんな力がある。
プレオム劇は女性だけの劇団で、中島主宰のホンキートンクシアターが解散後に分かれてできた。もう一つは中島作品も手掛ける劇団道学先生。道学先生の中島作品もいいが、こちらは女性だけの舞台で果たしてどうか。中学校の職員室は女性の方が多いのかもしれないが、女性しか出てこない不自然さを全く感じさせない。これは、登場する先生たちのキャラクター設定がとてもバラエティーに富んでいるからだと思う。
物語は中学の国語教師を中心に展開する。小学校の時にあこがれた先生を追うようにして教職を得た女性教師だが、いろいろ悩みの尽きない毎日だ。家には少し認知症気味のお母さん、国語教師だからと卒業式のあいさつの起草を押しつけられ、てんてこ舞いの最中に担当するクラスの花壇が荒らされるという事件が起きる。
親にたたかれたことがない女性教師が生徒を初めて殴った件で一発で懲戒免職にされるとか、関係者の話も聞かずに事件の白黒を付けたがる体育教師、校長の顔色ばかりうかがう教頭とか。そうした多彩なキャラクターに加え、タイトルにもあるこの国語教師の「妄想」、胸の内の物語をきっちり描くことで、この教師が子どもだったときの教室の話や、初恋の話など、それこそ多彩な妄想が次々にさく裂する。
ネタバレになるので控えるが、演出もよかった(メメントCの嶽本あゆ美。劇場に出掛けた理由の一つでもある)。少し不自然とも思える左右の壁は何なんだろうとずっと思っていたが、ラストに感動的な展開が待っている。
昭和の色濃い曲の選択も自分のツボにはまった。まさか伊藤咲子の「乙女のワルツ」が美しいハーモニーで聞けるとは思わなかった。他にも名曲が登場する。中島が作った歌も入っている。
悩みというのは一人で抱えることが多いが、そもそも人間は一人では生きていけない。弱音を吐いたときに隣にそっと手を差し伸べる人がいたら世の中、それほど捨てたもんじゃない。これまで何回も演劇を見に行ったが、「やっぱりそうだよね」と心に響く作品はそれほど多くない。今作は胸を打つ舞台として新たに記憶に残るだろう。