松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル 公演情報 afterimage「松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    鑑賞日2023/03/17 (金)

    色物としてのコンテンポラリーダンスの可能性

    「異常事態です」

     松竹亭白米の引き合いで口上を述べる松竹亭ごみ箱が開口一番会場の笑いを誘う。それもそうだ、コンテンポラリーダンスのカンパニーが落語会を催すとはいかなるものか、すんなり想像できる観客はそう多くはなかっただろう。私は3月27日に「すし組」「そば組」両プログラムを鑑賞した。

    ネタバレBOX

     オープニングでは、カンパニー5名が口上の並びのまま上下に首や手先を傾けた落語の所作や扇子を口に含む動作を振付にした工夫と形の綺麗さがまず印象に残る。各自そのまま立ち上がり股を広げ脚を開いてと群舞が始まるが、足袋姿のまま固い床を踏み、裾に絡まりそうになるくらい高く脚を上げる動作にハラハラした。

     すし組のトップバッターは松竹亭撃鉄。映画のサウンドトラックのレコード盤を見せながら、自身の映画愛やランキングをマクラに、ランボーやインディ・ジョーンズ、ジェームズ・ボンドの吹替声真似で、「まんじゅうこわいfrom Hollywood」を披露してくれた。映画のエンドロールに見立てた巻物の小道具も気が利いている。

     すし組二人目の松竹亭青七は古典落語「今戸の狐」である。自身のばくち好きのエピソードをマクラに噺にはいったが、好みを爆発させていた撃鉄を聞いた後なだけパンチに欠けていたように思う。生来生真面目な性格なのだろう、註釈を多めに噺を進めてくれたが、あまり内容に入っていけなかったのは残念である。

     対してそば組一人目は白米。素朴な植木屋が裕福な隠居を真似ようとして起こす滑稽噺「青菜」を、柳かけのくだりでワンカップ大関を出し、鯉の洗いのくだりで缶からシーチキンを出して食べるなど大胆な変化球を入れつつ、ごくごく素直に披露してくれた。

     そば組の二人目、afterimage主宰の松竹亭ズブロッカは、なめらかな口調で「蒟蒻問答」を披露してくれた。六兵衛と僧侶の問答が白熱すると、なぜか舞台上から人形が降りてきて踊りだすという展開に客席は大いに湧いた。ただこの場面は人形ではなくぜひ人間で見たかったと思う。

     仲入り前最後のゲストは両組共通、名古屋で落語会を主宰している登龍亭福三である。名古屋弁の話題から竹川工務店が名古屋城を作ったというオチにつながる「名古屋城築城物語」(すし組)、四つ葉のクローバーを差し出す霊がチャーミングな「善霊」(そば組)、ふたつの新作で力量を示してくれた。

     仲入り後に始まる「ダンスで分かる三方一両損」は本公演のハイライトである。金太郎(撃鉄)が拾った三両を持ち主である吉五郎(ズブロッカ)に返そうとするも、一度落とした金だからと受け取らず、喧嘩するこの二人を大岡越前(白米)が機転を利かせて和解させるという有名な筋を、ナレーションに合わせたダンスでこなしていて度肝を抜かれた。大岡越前の衣装がロボットアニメの敵キャラのように戯画化されていておかしい。

     両組共通でトリはごみ箱の「居残り佐平次」。さすがにほかのダンサーと比べて表情が豊かで間もよく、一番の見応えがした。特に佐平治が身の上話をする瞬間の空間の切り替え方、鮮やかさが印象に残っている。

     椎名林檎とトータス松本の「目抜き通り」をバックにエンディングはゲストを除く5人の群舞である。オープニング同様にハラハラしたが、好き放題やったあとの多幸感とでもいう明るさがあってさわやかな見ごたえがした。

     本公演はダンサーたちが意外なほど愚直に落語に取り組んでいる落語会である。本職と比べ見劣りするのは是非もないが、合間に挟まるダンスプログラムが彩りを添えていた。私はかつて立川談志の独演会で、前座が日本舞踊を踊っていたことを思い出した。最近は寄席や落語会で舞踊を見る機会はあまりないが、噺の合間に漫才や紙切り、モノマネなどと同様にダンスが入れば、演芸の裾野がより広がるようにも思える。そうした意味で私にとっては発見がある興行であった。

     ただ劇場の使い方はいかにも殺風景で物足りない。例えば入り口に演者の名前を染め抜いた昇りを出したり、劇場内の黒壁に寄席に見立て木目調の壁紙を貼るなどの工夫があってよかったのではないだろうか。

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    2023/04/12 18:11

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