送りの夏 公演情報 東京演劇アンサンブル「送りの夏」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    永野愛理(えり)さんのファンならば今作は必見。気の強そうなバンギャのイメージがあったが、今回は12歳の小学生役。ほぼすっぴんで少女の目に映し出された奇妙な人間世界を切り取ってみせる。家から遠く離れた海沿いの田舎町、失踪した母親を追ったひと夏の冒険譚。この人の独特な声が耳に残る。アニメの声優なんか向いてるのでは。途中浴衣のシーンがあるのだが、驚く程鮮やかな色彩。

    お父さん役の和田響き氏は岸博幸っぽい。
    やたらインパクトを残す医師役は公家義徳(こうけよしのり)氏。坂本龍一と細野晴臣を足したような印象。
    悪ガキ中学生役の雨宮大夢(あめみやひろむ)氏はかなり痩せて美形になっていた。

    死者への執着を心ゆくまで過ごす人々。そこに正解はない。他人が口を出すことでもない。あるのは優しさと悲しさ。

    SHERBETS『サリー』
    悲しみはきっと優しさと同じ成分なんだね
    思い出はきっと悲しみと同じ成分なんだな

    ガレッジセールのゴリが監督した映画、『洗骨』を思い出した。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    物凄い傑作になる筈が妙な停滞が凄く勿体無い。死者との別れを受け入れるまでのモラトリアム(猶予期間)。何処か田舎の海辺の町にある『若草荘』は死者をマネキンになぞらえて人々が暮らす心理療法の施設。死者との関係に踏ん切りがつくまでマネキンを擬人化して生活は続く。

    マネキンをもっと工夫しても良かった気もするが、そこは難しいところ。『人でなしの恋』のようにすると、人形愛が描かれてしまう。気持ちが仮託出来れば何でもいいのだろう。

    少女が見る夢が秀逸。父母が人形(死体)となって車椅子に座っている。何度必死に呼び掛けても反応を示さない。“死”というものの不条理を実感する名シーン。

    物語は亡くした子供のマネキン人形を車椅子に乗せて買い物に出る夫婦のエピソードが核。その気持ち悪さに町の中学生達が悪戯をする。坂を転げ落ち放り出され傷付く人形。本当の我が子がそうなったかのように絶叫し慟哭する夫婦。少女はその苦しみと悲しみを受け止めて許せない。中学生の一人を捕まえて夫婦に謝罪させる。人形を可愛がる気味の悪い連中ではなく、痛みと悲しみと優しさという同じ心を持った人だと理解する中学生。他人の痛みが自分の痛みになる過程。

    ここでもう一つ踏み込んで貰いたかった。絶対に誰にも心を開かない老人のようなキャラクターを出して、最後まで理解出来ない。その無常感への無力さこそが人の世の手触りだと少女は感じ取る、ような。

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    2023/03/19 10:00

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