幸福論 公演情報 wonder×works「幸福論」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    観せ方が妙というか演出が上手く、それを表す舞台美術も見事だ。
    先に少しネタバレするが、劇中には 説明にあった核廃棄物の最終処分場候補地に賛成する者は登場しない。敢えて登場させていないと思う。それでも町中が紛糾している様子は、登場人物の台詞によって巧みに描き出している。

    舞台は町の外れにある小高い丘にある家、そこからは町の光景が眺められる。
    終盤、主人公・医師の三谷昇が家(舞台)から姿なき者(観客)に向かって、核廃棄物による悪影響について熱弁(長台詞)を揮う。核廃棄について観客に考えさせる、そんな意図をもった公演に思える。同時に劇中で核廃棄反対を声高々に叫ぶ人々が、いつの間にか本性を丸出しにした人間性を表す。そこに「核」同様「人」の怖さが垣間見え、考えさせるという幅広で奥の深い内容になっている。
    (上演時間2時間10分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術はチラシの絵柄のようなサン・バルコニー。上手は出入口、中央にテーブル・椅子、奥の壁一面は棚で色々な物が置かれ、下手に冷蔵庫や被った三輪車が見える。外は芝生、低木が植えられている。上演前には小鳥の囀り 蜩や蛙の声が聞こえ、長閑な光景が想像できる。季節は夏から晩秋であろうか、薄着から厚手の衣裳へ変わる。舞台技術は丁寧で、照明は午前・昼・夕方・夜といった情景が浮かぶような諧調、音響は雨・風、音楽は宮沢賢治「♬星めぐりの歌」といった印象付けである。

    冒頭、現町長が二年前、核廃棄物の最終処分場候補地に名乗りを上げ、町は反対派、賛成派(登場しない)で二分し いがみ合っている様子。近々 町長選が行われるが、施設誘致の是非が焦点になることから、多くのマスコミが注目している。反対派の中心人物の一人である三谷昇に窪という新聞記者が取材しているところから始まる。

    核廃棄物の危険性は、医師である三谷から色々な切り口で説明する。例えば人体や土地への悪影響を縷々説明し、どんなに安全・安心を訴えても誰も保障出来ない。一方足元を考えれば国から巨額の交付金が給付される。劇中での台詞…今日明日の暮らしか(遠い)将来の心配か、そこに地元住民ならではの問題に追いやる。当日パンフに作・演出の八鍬健之介氏が「距離と関心(或いは安心)というのは、やはり関係があるのでしょうね」と記しているが、まさに自分事でなければ無関心と言えるかも知れない。

    説明では報道によって生まれた火種とあるが、三谷が依頼した地質調査の結果、ここは核廃棄物処分地には不適格であることが判った。処分地にならないのであれば、調査だけ受入れ、交付金を得るという目先の欲が働くのは人間(商工会職員)の業(立場)か。
    また賛成・反対派による夫々の暴力行使、それを表沙汰にせず穏便に済ませたい町議会議員の立場。そこに核廃棄反対派における人間関係・絆の綻び、同時に自己本位、エゴといった人間の怖さを観せる。

    この地を離れられない理由、それを三谷夫婦や家を貸している大家に担わせている。三谷夫妻には病死した子がおり、この地へ埋葬している。大家は ここで長年暮らし、花々を育てきた。姿なき人々(農家)は、この大地の恵みに といったことを連想させる。
    客席に向かって熱弁と思ったのは、劇中 (客席)通路を使用し家路へ という地続き演出から。出演者だけではなく、観客を巻き込んで考える。だからこそ「小さな町が背負ったのは、この国の幸せ」に繋がるのでは…。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2023/03/19 07:38

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大