レプリカ 公演情報 ハツビロコウ「レプリカ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    或る事情によって山奥の里に移り住んだ父娘と 2人に関わる人々の歪な思惑を描いたサイコ スリラーといった物語。公演の魅力は、俳優陣の圧倒的な演技力、その迫力と緊迫感ある雰囲気が観る人の関心を惹き付けて離さない。その雰囲気を醸し出す舞台美術、そして光と音の芸術とも言える舞台技術が怪しく不穏な雰囲気を倍加して表す。

    山奥の一軒家ということから、ある意味 密室劇のようでもあり、逃げ場のない切迫感が犇々と伝わる。その得体のしれない恐怖と二転三転する展開に目が離せない。登場する人物の表情や態度が段々と変化し、皆怪しく誰を信じればよいのか。一方、己自身も本心と建前のような二面性ー意識してなのか無意識なのか曖昧な観せ方が益々謎を深める。人々の心の奥底、その虚々実々が漂流しどこに漂着するのか分からないといった人間心理と物語性、その二重の謎を秘めた作品。根底にあるのが人の愛<情>と欲望、それだけに哀切が…。
    (上演時間2時間10分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、全体を底上げしたような平台。中央にテーブルと椅子、その奥<壁際>に置台や棚、上手にドレッサーと扇風機、下手には台所と冷蔵庫、そして客席側に黒電話が置かれている。さらに下手には見えないが玄関や窓があるらしい。客席と舞台の間に空間を設け別場所<外>を表す。室内の暗さは、日中でもカーテンを閉めているから。中盤に誕生日プレゼントとして現れる人形=レプリカがリアルで怖い存在になっていく。

    物語は、主人公・並木潤子(松田佳央理サン)が10年ほど前からストーカー行為をされ続け、やむを得なくこの地へ父(松本光生サン)と移り住んでいる。精神を病み主治医的存在の宮田(井出麻渡サン)、月に一度 絵画教室へ絵を教えに行っており、そこの自称芸術家・谷村(田辺日太サン)とその甥・楠(新垣亘平サン)、さらに父が働いている兼業酪農家・矢島(高田賢一サン)といった人々が登場する。姿なきストーカーに怯える潤子と彼女を心配する人々だが、いつの間にか…。サスペンスミステリーでもあるため梗概はここ迄(チラシ文言で推測できる範囲)。

    上演前から雷雨を表す雷鳴と閃光、その音と光が物語の先行きを象徴するかのよう。薄暗がりの中で潤子は不安げに蠢く。照明は、停電による懐中電灯やランタンの灯、それから潤子の誕生祝のケーキの蝋燭<火>などが効果的に使用される。また室内の傘電灯やライトスタンド その暖色照明が柔らかい雰囲気を漂わす。一方、音響は雷鳴以外に、時を刻む音や梟、蜩といった動物の声が会話を邪魔しないよう微かに聞こえる。しかし、その音声が実に不気味な効果を発揮している。勿論ストーカーの存在を示す黒電話の音が不安と苛立ちを煽る。

    物語の奥底に潜む「愛と欲望」は、純粋というよりは歪んだ愛情表現とも言える。その切実さゆえに感情の制御が利かなくなる怖さ。拘束したくなる思い、一方 自由になりたい思い、その反作用する感情<愛情>と2人の関係の親密さ。その線引きが上手く出来ない故の悲劇が公演の肝。
    他方、表面的な設定のストーカー行為<社会問題というか犯罪⇒無言電話や盗聴等>は、警察は”何か”あってからしか動いてくれない。他劇団の公演でもあったが、民 刑曖昧な状況に対処する術、その不完備のような社会状況が垣間見える。その社会性と先の歪な愛情表現…人間性に重なる面白さ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/03/18 10:50

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